表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/120

第11話 ストンリコ制空戦2


 ヒューのサイクロプス隊が戦闘に加わった事で、こちらは数的有利となった。彼がミサイルを発射したということは、こちらが戦闘をしている隙に距離を詰める事が出来たと言う事だろう。

 レーダー内にも、私と敵の半分ほどの距離で敵へ向かう4機の機影を確認出来た。


「ジャック、生きてる?」


『おう、なんとかな』


『フェザー1の交戦していた敵には、僕とサイクロプス2で対処する。サイクロプス3、4はフェザー2の方へ向かってくれ!』


 了解、とサイクロプスの各隊員から返答があった。

 敵が回避行動を取っている今の内に、私も射程に収めなければいけない。

 スロットルを100%の位置へ前進させ、速度を上げる。上がった対気流速度に比例して、主翼が閉じていく。

 

『こちらイーグルヘッド。まずいぞ、増援だ。距離400km、機数6!』


「なんですって……?」


 予想していなかった報告がイーグルヘッドからもたらされる。事前情報では敵は2機だと言っていたはずだ。

 そこで、ふとジャックの言葉を思い出した。


(どうもな、次から次へと湧いてくる敵性航空機がいるんだと)


 次から次へと湧いてくる……。これは間断のない攻撃が続く事を意味していたのだろう。

 そう考えると敵の合計は元々8機で、今までは同時に2機が現れていただけ。2機ずつの計4隊がローテーションを組み、交代で攻撃を仕掛けていたのか。長距離ミサイルで絶え間なく攻撃を仕掛けて上空援護を妨害する。嫌らしい手だが、効果的なように感じる。

 その時の状況や作戦にもよるが、一般的には戦力の段階投入は愚策だと言われている。こちらが仕掛けたことで、向こうも一気に全戦力を出してきたと言う事か。


『成る程、本気で来たみたいだな。全戦力の投入か』


 その発言から察するに、同様の事をジャックも考えていたようだ。


『おいヒュー、どうするよ? すぐに長距離ミサイルの雨が降ってくるぜ』


『……まずは僕らで、敵の本隊と接敵する前にこの2機を落とそう。バンシー1、聞こえてるかい?』


 この場にまだ到着していない、CAS任務中のバンシー隊へ呼びかけるヒュー。


『こちらバンシー1、聞いてたよ。こっちはもうすぐ仕事が終わるから、済み次第そちらの援護に行く。ま、サイドワインダーしかないけどね』


『サイクロプス1了解、という事だね。武装云々は置いておいて、バンシー隊が来れば数の上ではこちらが有利だ。乱戦になれば、ドッグファイトのチャンスも生まれるだろう。それまでは、敵の長距離兵装を減らす事を目標にしよう!』


『オーケー! 楽しくなってきたぜ』


 私も、その作戦に反対意見は無かった。

 了解、と返答しつつレーダーにて再度敵の位置を確認。すると喋ってる内に、ヒューの放ったアムラームは敵の光点と接触する距離まで接近していた。

 アムラームを示す線と、敵の光点はそのまま重なり……どちらもレーダーから消失した。


『よし、1機落とした!』


『こちらイーグルヘッド。残りの敵ミグがミサイル発射。ターゲットはサイクロプス3と4、それぞれ2発ずつだ。ブレイクしろ!』


 その敵の攻撃が気になってレーダーで姿を探す。

 ジャックが追っていた敵は、長距離ミサイルの最適射程内にいるサイクロプス隊の2人を優先して狙っていた。合計4本の線が、敵の光点から伸び始める。

 私が敵だったとしても、まずは重量のある長距離ミサイルから撃つだろう。そして機体を軽くした後に、中距離ミサイルでジャックを狙う。


『お前の相手はそっちじゃないぜ、FOX3!』


 敵がサイクロプス隊の2人に気を取られている内に、アムラームの射程内に捉えたようだ。敵の光点に向かってジャック機からも線が伸びる。

 先にジャックのアムラームが敵に届く。チャフが発射された事を示すノイズが浮かぶが、その甲斐なく敵の光点は消滅した。

 回避行動に入っていたサイクロプス3と4もチャフを発射。ミサイルの線はそのまま通り過ぎるかと思われた。

 だが、通り過ぎたのは3本だけだった。


『こちら3番機! 至近弾を食らった、推力が上がらねえ!』


 無線の背後で電子音と共に【Warning,engine fire】という警告音声が鳴り響く。


『マイク、出火してるぞ! フューエルカットしろ!』

『くっそ、制御でき』


 そこで通信はノイズにかき消される。レーダーの光点は1つ、数を減らしていた。


『こちらイーグルヘッド、サイクロプス3の墜落を確認した。脱出は確認出来ない……』


『まぁ、仕方のない事さ……。それより残りの敵だ!』


『敵増援から長距離ミサイルの発射を捉えた! 本数は10、一人当たりノルマは2本だ』


 今まで、自分は何機も敵を撃墜してきた。この間のスリポリトの時だって、サイクロプス隊はヒュー以外の全員が落とされている。所詮、これはゲームであるし、痛みは感じても本当に死ぬ訳ではない。そんな事は理解していた筈だった。

 だが他人と飛ぶようになってから初めて、自分が手が届く位置で味方が墜とされた。それによって今この胸に湧き上がる無力感、喪失感を表現する形容詞が、私の語彙にはなかった。


 もしかしたら、守れていたかもしれない。最初に撃ったフェニックスをもっと引き付けてから撃っていれば、マイクと呼ばれた3番機は落ちなかったかもしれない……。その思いだけが、胸を支配していく。


 ヘルメット越しにHUDを睨む。


『おいフィー、聞こえてるか? フィー! 回避行動に移れ!』


「これ以上は……やらせない!」


 抑えられない衝動が、体を勝手に動かし始める。

 敵の6機編隊に機首を向け、スロットルをアフターバーナー位置へ押し込む。600ノットを示していたHUDの対気流速度表示が上がり始た。

 700……800……900……。音速を超えてなお、機体は加速を続ける。


『おい、馬鹿! 一人で突っ込むな!』

『こちらサイクロプス1! 全機アフターバーナー点火、彼女を援護するぞ!』


 コクピットにミサイル警報が鳴り響く。同時にレーダー上に、ミサイルを示す線が更に10本追加される。それらは先程と違い、全てこちらに向かっていた。

 その前に発射された長距離ミサイルは、もう数秒でこちらに当たるだろう距離に近付いている。

 速度計は1300ノットを示していた。そこから機体を左に90°傾けて、思い切り操縦桿を引きながらチャフを散布。オーバーGを示す警告音声が聞こえ、目の前が一瞬でブラックアウトしかかる。


「くっ……ぁあ……」


 飛びゆく意識をギリギリの所で保ちつつ、少ない視界でレーダー上に2本のミサイルが無い事を確認して、操縦桿を戻す。

 体を抑えつけるGが弱くなり、視力が戻ってくる。その戻った視界の上では、レーダーが現実離れした数の中距離ミサイルの接近を表示していた。

 すぐに左のラダーを踏み込み、操縦桿を右手前へ引き始める。機体は素早く右上へロールを始め、コクピット外の景色は空の割合を増やすが、すぐに地面で一杯になった。

 チャフの散布を続けながら、再度襲い来るGと戦う。莫大な遠心力で血の気を失った眼球は、視界のほぼ全てを黒く染め上げていた。その僅かに残った視界で、現在の自分の姿勢を確認する。

 水平線が見えてきた所で操縦桿を引く手を緩めると、徐々に視界が戻るのと同時に、HUD内に表示された敵と交差するのが見えた。

 すぐに兵装をサイドワインダーに切り替えて、再び最大Gでの反転を開始する。


『交戦距離に入った!! 全機、ミサイル発射! 敵は混乱してるぞ、弾を惜しむなよ!』

『ぁんにゃろぉ、バレルロールかよ……。フェザー2、FOX3!』


 再度意識が無くなりかけるが、目の前に飛び込んできたロックサークルの進行方向へロールを反転させ、ミサイルのリリースボタンを2回、時間差で押し込む。

 2つの白煙がサークルへ向かって飛び出し、同時に敵機から輝くフレアが射出される。最初の1発はフレアを追いかけたものの、もう1発は敵機に吸い込まれて行き、機体は炎に包み込まれた。

 レーダーを一瞥して一番離れた敵へスパローのロックを行うと、先程同様に時間差を付けて2発の発射を行う。離れたとはいっても距離は遠くないため、敵は勘違いしたのかフレアを放出し始めた。レーダー誘導のスパローはそれに騙されることはなく、敵機を四散させた。

 残ったスパロー2本で再度攻撃を行うため、手近な敵をロック。すると発射ボタンを押す寸前に、ロックカーソル内で爆発が起こった。


『おい……おい、フィー! 聞こえてんのか!』


 ジャックの怒号で、我に返る。上がった心拍はまだ落ち着かなくて、ラダーペダルへ置いている足は微かに震えていた。


「あ……ジャック。……聞こえてるわ」


『こちらイーグルヘッド、敵の全滅を確認した』


 イーグルヘッドの言葉で、やっと現在の状況を把握する。とりあえず、戦闘は終わったようだ。

 酸素マスクが息苦しく感じた為、外して深呼吸を数回行う。


『お前よぉ、今のは無茶苦茶だろうが……。後で反省会だ! ログアウトは許さん!』


「うん……わかった」


 普段と違う声色に驚き、素直な返事を返してしまった。


『ま、終わり良ければ全て良しだね。援護が間に合ってよかったよかった。さ、みんな帰ろうか!』


 そう言ってサイクロプス隊の3機は足並みを揃え、空港のあるスリポリトへと機首を向けた。それに私とジャックも、機体を同調させる。




『こちらバンシー1、援護に来たよー! ……って、あれ? 終わってる? ねぇヒュー、どゆこと?』


『ふふ……後で説明するよ。いやいや、実に痛快だったよ』

『うむ、ありゃ凄かったわ』

『また呼び名が増えるな、こりゃ』


 そんな声が聞こえたが、それよりジャックの言う反省会の内容が気になってしまう帰路だった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ