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第40話 再接続


--------------------

 Initializing...

 Boot stand by.

 

 .

 ...

 ......OK

--------------------



Installing AI module...


――complete.

Reconstructing Neural Network system...


――complete.

Searching a machine learning database...


――failure.

Auto-specifying database file path...


――complete.


Creating new user account...

User:********

Pass:********


Login complete.




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 ***




 Lazward onlineへの久々のログイン。

 確か最終のログアウト場所はスオキ島の港だった筈だ。メニューを開いて現在位置を確認、その記憶が正しかった事を確かめる。


「どうだ、なんか問題は無いか?」


 ほぼ同時にログインしたジャックが私の横から質問をしてくる。


「VRインターフェース起動時の細かいメッセージ以外は、特に今の所は何も無いわね……」


「ベルをPCにインストールした事に関連するメッセージか?」


「うん、多分」


 最後に何か文字化けしたメッセージが出ていた事だけは気になるが、何だったんだろうか。

 まぁ動作には全く影響が出ていない様だし、考えても仕方無いだろう。

 今からやるべきは、みんなとの合流だ。


「とりあえず、ナオ達のログアウト場所は……スロキス島? ジェイクのとこに行ってたんだ。何してたんだろ?」


「なんだろうな、まぁナオに限ってはお前みたいな変な事をするとは思えんが。隙間に潜ったりとかな」


 何か引っ掛かる言い方だが、さっきリアルで刺し損ねた事を根に持ってるんだろうか。

 謝ったのに。


「それより、とりあえずはベルだ。近くに居るか?」


 そうだ、そっちの対処が先決だった。その後でみんなと合流だな。

 しかし周辺を見回しても、それらしい人影は見えない。昔の様なボール状インターフェースもだ。


「仕方ねぇ、まず空港まで移動するか」


「そうね、ここじゃグリペンも出せないし」


 そうして私達は、ジャックの持っていたハンヴィーでスオキ空港まで移動を始めた。




「ベルって今はプレイヤーとしてログインしてるのよね?」


「ああ、そうなるな。ログイン場所は基本的にログアウトした場所になる訳だから、可能性として考えられるのは、乗っ取られたベルがログアウトした場所。もしくはバックアップが取られた時期から考えて、前回の大規模戦でグリペンUCAVの墜落した地点か」


「とりあえずフレンドリストを見てみたけど、やっぱりベルは入ってないわね……新規プレイヤーとして入ってるなら、アニハとかも考えられない?」


「あー、そうだな。大規模戦開催時だと確か青軍はアニハが専用スタート地点になってて、赤軍にもそういう扱いの初期配置場所があった筈だ。だが、今みたいな休戦期間だとどこになるんだ?」


 やばい、全く考慮に入れて無かった問題が発生した。

 ベルのAIが私と一緒にログインするまでは事前打ち合わせなんて出来ないのだから、考慮していてもどうしようも無かった事ではあるのだが。


「――待てよ? そう言えばナオはなんで三郎さんとスムーズに合流出来てたんだ?」


「ナオのおじいさんって大規模戦の時にキャラ作ったのよね?」


「ああ。ナオが先に合流して2人でファントムに乗ってな、俺とここスオキで合流したんだ」


 なら、何かしらの手段でナオと彼は連絡を取ったのは間違いないだろう。

 ゲーム内で他人と話すのに使われる手段は、基本的には無線通信だ。だが、同一基地内だともっと簡易に行えるシステム内の音声チャットが使われる。

 これが使える条件は、大雑把に"パーティーを組んでいる事"と"基地内にキャラが居る事"だと認識していたのだが……。


 揺れる車内でとりあえずチャットウィンドウを開き、手当たり次第にサブメニューを開いてみる。するとすぐに送信先が指定出来るコマンドが見つかった。

 ……が、そこから操作を進めると再び行き詰まってしまう。


「これあんまり使ってなかったシステムなんだけど、チャットって送信先を指定しないといけないのね」


「なる程、キャラ名がわかりゃ安全地域にいる人ならチャット出来るんだな。俺も知らなかったわ」


 こんな初歩的とも言える事を2人が共に知らないと言うのがなんとも情けない話なのだが、私達はお互いにそれを責められないだろう。

 ゲームを開始してしばらくはソロで活動していて、初めて組んだ相手がジャックだったのだ。そこからは彼とほぼずっと一緒にいる訳で、フレンドリスト外の他人を探して組むという行為をする必要が無かった。

 まぁ私達2人にはこれが普通だったので、交友範囲が狭過ぎるなんて事を考えて心に余計な傷を負う必要なんてないのだ。

 ぼっち乙、上等である。


「じゃあよ、俺は運転で手が離せないからチャットでベルを呼び出してくれ。何かしら反応があるだろ、きっと」


「……あのね、ジャック」


「どしたい?」


「ベルのキャラ名って、何?」


「そりゃベルなんだから……ベルじゃないのか?」


 まぁ普通はそう思うだろう。チャットの呼び出し先に"ベル"と入力して、話し掛けるだけの事だ。

 その筈だったんだけどなぁ……。


「こうやって話してると全然意識しないんだけど、遠隔チャットってアカウント名での指定なのよ。ほらキャラ名の重複は確か許されてるでしょ、このゲームって」


「そう言えばその辺、結構保守的な作りだった記憶があるな……つまりベルの"ファミリーネーム"がわからねぇ、って事か。あいつがアカウント作ってる所って見たのか?」


「いえ、見てない。だから手掛かりが全く無いの」


 本当に参った、手詰まりだ。

 だがこんな事はいつでもあった。とにかく持っている情報を整理して、次へと繋げていかないと。


 まず、ベルはプレイヤーとして新しくアカウントを作り、ログインをしている。

 その場合、新規プレイヤーとして入ったなら初期開始位置に居る可能性がある。もう1つの可能性として既存プレイヤーとしてログインしているなら、彼女はバックアップ生成時のキャラ座標であるスポンリオ山の麓にいる事が考えられる。


 新規プレイヤーであった場合の初期開始位置は、大規模戦時ならそれぞれの陣地に設定されている。私達であればアニハだったが、敵軍へと配置された場合の場所は不明だ。


 そして今は大規模戦が開催されていない。

 こういう時の開始時点はどこになるのか。それについても情報が無い。


 車が停止する。

 スオキの空港は相変わらずレシプロの爆音が響き、独特の雰囲気を持っていた。


「おし、着いた」


「お疲れ様。このままじゃ埒が明かないから、まずはスロキスへ向かってナオやジェイクと合流しましょ」


「仕方ねぇ、そうするか」


 ハンガーへと向かい、専用端末でグリペンを出す。同様にジャックもハンヴィーを仕舞って、自分のスーパーホーネットを出した。




 ***




【Malunction=Mapping system】

 そこは彼女にとって見知らぬ景色だった。

 空港に居るという事は分かるのだが、それがどこであるのかが全く分からないからだ。


【Malfunction=Humanoid interface】

 それは彼女にとって違和感だった。普段と目線の高さが違う事が。


【System degradation......OFF】

【Restore normal AI mode......complete】

 成程。自分には手足があるのだと認識した彼女は、そのエラーに納得した。


【Caution:Executing system check......】

 システムチェックが走っている。何らかの理由でシステムの強制停止が行なわれたようだった、それが原因だろう。そう考えた後に彼女は、己の頭部にある鈍痛について考察をした。

 とてつもなく大量の処理が走り、非常に不快だった。


 がくり、と視界が落ちる。

 実際に落ちたのは視界ではなく膝で、それは己の歩行能力、姿勢制御からくる問題であるようだった。

 頭痛への対処で、本来そこに回される筈のシステムリソースが使われてしまっているのだ。


 この身体はとても不便だ。

 蹲った彼女は、その場から動く事すら出来なくなってしまった。


【Reconstructing AI system......complete】

【System check,complete】

 その瞬間に身体から不快感が消えた。

 目の前に広がる埃っぽいコンクリートから頭を上げると、エプロンに機体が駐機してあった。乗り慣れた機体、というよりはこれこそが自分が自分である証であるかのようにすら思える。

 JAS39のE型。それはもう、その名称が正しいのかすら分からない程に手の加えられた機体。

 更にこれは通常の機体とは違い、彼女の為に作られたような物だった。通常のキャノピーを置き換えて設置された光学センサーが、それを如実に物語っている。

 これこそが彼女の手足であり、翼だった。だが人間型の身体を手に入れた今、何故かこれに感じていた一体感を失いかけている。


 少し離れた所に誰かがログインしてきた。

 その女性は彼女を見るなり驚いた顔をし、笑顔で歩み寄ってきたのだった。




 ***




「私から降りていい?」


『構わんぜ』


「スロキス管制塔、こちらフェザー隊。着陸許可を」


『こちらスロキスコントロール。フェザー隊、35へ進入どうぞ』


「フェザー、了解。先に1番機が、その後2番機が降ります」


 いつも通りの手順をこなし、南から滑走路に正対。徐々に速度を落として近付いて行く。


 スオキからここまでのフェリーで、自分がログイン出来なかった間に起きた出来事をなんとなく理解していた。グリペンのFCSは推力偏向パドルに最適化されており、その全能力を発揮出来る様になっていたのだ。

 多分ナオがやってくれたのだろう。私がまたログインするまでに終わらせて驚かせたかったのだろうか、だとしたらその企みは成功だ。離陸直後から、機敏になった機体の挙動に少し戸惑っていたからだ。

 だがそれは扱い辛いような物ではなく、大きく動かしたスティックに対して素直に機体が追従するようになった感じと言えば良いだろうか。これは私的にはとても好感触だ。

 まだEMERGENCYボタンのエアブレーキは試していないが、この着陸でどんな感じか分かるだろう。


 滑走路が近付いてくる。ILSキャッチ。

 対気流速度が250ktを切った所でギアダウン、スロットルは普段より少し多めに開け、最終的に200kt程度で滑走路のスレッショルドを跨いだ。

 そこでEMERGENCYボタンを押して全力のエアブレーキを押す。

 がくん。一瞬で高度が落ちた。まるで後ろから誰かに引っ張られたかのような減速。

 その勢いで後輪が設置する。それは着艦時のような衝撃で、強く身体が上下に揺さぶられた。慌ててギアブレーキを作動させると、カナードが前へと大きく倒れて空気抵抗を生み出し始める。


 ちょっとびっくりした。

 予想以上の減速だったからだ。コレは確かに乱用出来ないなぁ……。


 減速後、右手に見える誘導路へとそのまま入って駐機しようとした。


 おや? どうも先客がいるようだった。エプロンの奥に見えたのは珍しい、グリペンだ。しかも2機いる……ってどっちも機体後部にパドルが付いている。

 片方は間違いなくナオだろう。だが、もう片方は通常の機体では無かった。

 その側では2つの人影が重なっていた。予想通り、片方は小柄で見慣れた黒髪の少女。もう1つの影は、黒髪の少女の身体が重なっていてよく分からない。

 それをみた私は逸る気持ちを抑えられず、強めにスロットルを開けて加速した。そのまま2機の横に機体を並べて、一気にギアブレーキで止める。

 慣性を抑えようとするダンパーによって揺れる中、NPCが警告色の梯子を機体に掛けてくれるがそれすらもどかしい。

 キャノピーの縁にそれが掛かるのと同時、私は梯子を数段飛ばしてエプロンへと飛び降りた。


「ナ……」


 黒髪の少女へ声を掛けようとして、私は戸惑う。

 膝をついている彼女は間違いなく、ナオだった。

 そしてもう1つの、ナオに抱き締められている人影は、間違いなく。


「ベル……」


 ナオは蹲るようにしてベルの胸元へと顔を埋めている。そしてベルは立ったまま、虚空を見上げていた。


「待たせたなフィー。お、ナオはやっぱりここに……」


 駐機を終えたジャックが合流してくるが、彼も同様に言葉を失ってしまったようだった。だが、しばらくした後に背後からガチャリと金属音が聞こえた。

 振り向くとジャックはホルスターから銃を抜き、ベルへ向けて構えていた。


「……ジャックっ!」


「念の為だ。こいつが"あの"ベルだったら――」


「いえ、大丈夫です……この子は正真正銘の、ベルちゃんですから」


 立ち上がったナオは、涙を拭いながらそう答えた。

 それに対してジャックは銃を収め、


「3人共、おかえりなさいっ……!」


「遅くなってごめんね」


「だが、なんでこっちは本物だって分かったんだ?」


「おふたりが何をしたのかは分からないですけど、このベルちゃんはさっきからこんな感じなんです。ただいくつかの質問には答えてくれて、アップデート以降の事については"わからない"、と」


 なる程。

 一時期ナオとは離れていた期間があるとは言え、残骸の中からベルを見つけた時以来の一連の経緯は見ていたし、そこを警戒して質問をしたんだろう。


「とりあえずナオにも説明しなきゃならん事もあるし、一旦どこかへ移動するか」


「それならここ、スロキスの空港に部屋があるのでそこでどうです? この様子じゃベルちゃんは動かせなさそうですし」


「分かった。多分マリーも近くに居る筈だから、俺からメール投げとくわ」


 私は2人に同意し、ベルの小さな身体をを抱き抱えた。耳元で彼女は辛うじて聞き取れるような微かな声で、独り言のような、うわ言のような、聞き取れない呟きを繰り返している。

 何かしらの不具合があるのだろうか。そんな一方、先程見せたナオの涙も心配になる。

 大規模戦終了以来、どうもナオにはベルに拘る部分を感じているからだ。彼女が最初の再開時に見せていたベルへの罪悪感、それは別に彼女の責任では無いのだ。流石にもう振り切っていると思いたいが、それだけでは無い様にも思えてくる。


 まぁそれは私も同じなのだけれど、自分と同じ様な人間を見ると嫌でも己を客観視せざるを得なくなる。既に様々な事実を知ってしまった以上、私も以前のようにベルを見れはしないだろう。

 しかし、だからと言って何をすればいいのか。


 抱えるベルの重さが、己の中に燻る何かのように思えていた。




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