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第30話 ロスト

改稿するかもしれませんが、とりあえず上げときます


『やった、間に合った!』


 ナオが叫ぶ。それと同時に2機のレシプロ機が高高度からベルに向かって襲い掛かった。

 ナオとエイリに食い付いて機速の下がったベルに対して、彼等は直線的な動きでスピードを維持しながら周囲を飛び回る。


『くおっ……これはなかなか"じー"がキツイのっ!』

『こうでもしないとっ、追い付け、ませんからね!』

『機体が嫌な振動しよるわい!』


『むー、なんか変なのがきちゃった』


 不快感を露わにするベル。更にその神経を逆撫でるかのように、2機は見事に揃ったマニューバでベルに向かって射撃を行なう。

 対し、必要最小限のロールと引き起こしでそれを回避するベル。だが数度繰り返した後、彼女はアフターバーナーを点火してスプリットSを行なった。

 その向かう先はスオキ島だ。

 一旦距離を取り、ヒットアンドアウェイに入るつもりだろうか。勿論レシプロ機がジェット戦闘機の加速に勝てる訳無く、その1回の動きだけで彼等はあっさりと振り切られてしまう。


『うるさいのはやだから、先に虫捕りする!』


 混戦の中から飛び出したベルに対し、味方の3機が追い縋る。一方、もう1機のグリペンはこちらに向かって加速を始めた。

 その様子を眺めていると、先程までとは違う周波数でナオからの通信が入ってきた。


『上手く行きました。これでベルちゃんがおじいちゃん達を追い続けてくれれば完璧です』


「正直、何をしようとしてるのか分からないわ……」


 数だけで見たらこちらの有利だが、圧倒的な機体性能と世代の差がある。とてもじゃないがレシプロ2機とイントルーダーで何かが出来るとは思えなかった。


『ここまで来る時にレーダーを見ながら突貫で考えた作戦です。多分、ベルちゃんでも例外では無いと思うんですけど……。それより今の内に給油しましょう。フィオナさんの前に出たらポッドからドローグを伸ばすんで、後はお願いします!』


「わかった。ていうか、グリペンに空中給油ポッドなんてあったんだ」


『時間が無かったんで適当に転がってたのを持って来たんですけどね。西側のっぽいですし、出る前に動作テストはしてるので大丈夫です!』


 何処か釈然としないが、背に腹は代えられない。西側でも東側でも最近の艦載機では標準装備のような物だし、動くならいいか。


 ナオの機体が私の横を追い越していく。滑るような動きで左右の微調整を行なった後、胴体中央下部に取り付けられた増槽のようなタンクから、傘状のドローグがするすると伸びてきた。

 それに合わせてこちらもプローブを展開。視界の左後方から、くの字状の金属パイプが伸びていく。


『速度は300ktです。接続出来たら教えて下さい』


「了解、マスターアームオフ。なるべく急ぐわ」


 だが、ここで焦って機体の破損なんて事は出来ない。焦らず急ぐ。頭ではわかっていても難しい事の1つだ。

 スロットルを調整しながらナオに接近する。給油ポッドは機体中央のパイロンに付いているので、真後ろを目指して前進。少し高度を下げて、給油バスケットが目の前に来るように微調整。それから右ラダーで軸をずらす。


「このまま行くわね」


 更に前進。ホースの端から放射状に広がるバスケットへプローブの先端が近付く。バスケットに接触しながら、プローブは中央部のコネクターへと吸い込まれていった。

 そのまま更に少し前進させると、プローブに押されてホースが弛む。


「コンタクト。送油お願い」


『了解です』


 その言葉と共に、ホースがやや張りを持つような動きを始める。


『出来ればそれぞれ半々ぐらいにしたいんですけど、時間も無いので……』


「そうね、1/3ぐらいこっちに入ればいいかな?」


『ですね。私も機体を軽くしたいので、機内タンクから優先的に押し出します。残りはポッド毎ポイで』


 徐々に燃料計の数値が増えてくる。それに従って脳内にへばり付いていた焦燥感も薄れてくるような気がして、心に余裕が蘇ってきた。

 とはいえナオとの距離を正確に保たないといけないので、来てくれた援軍の戦闘状況を確認するまでには至らない。


「35%、切り離すわね」


『お願いします』


 スロットルを少し緩めると給油ホースが引っ張られ、そのまま分離。しっかりと自動で弁が閉じられたようだ。

 左足を踏み込み、ナオの後方から横へと素早く移動する。


「離脱完了。ポッド落としていいわよ」


『了解です』


 ホースが仕舞われるのを待たず、ナオは給油ポッドを切り離した。ポッドはホースが受ける風圧に引っ張られて姿勢を安定させながら、海へと吸い込まれていった。


『それじゃ急いで向かいましょう!』


 平行に並んだ私達は、この時間を稼いでくれた仲間達へと向かって旋回を開始した。



 ***




 西へ向かって全速力で飛ぶヘルキャットと零戦。それをフォローする形で蛇行しながら歩調を合わせるイントルーダー。

 一旦は降下加速を行い距離を取ったベルだったが、F414-GE-39Eを抱えるグリペンはそれらとは加速力も最高速度も比べ物にならない物を持っている。


『どんどん近付いてきよるの!』


『最初から分かってはいましたが、こうも性能差があるものなのですね』


 右を飛ぶ零戦を見て、三郎の言葉に答えるグランツ。

 音速を超えられない3機が持つハンデは圧倒的な物だ。いくら数で勝っているとは言っても、正面からぶつかればそこに勝ち目は存在しない。


『三郎さん、5時方向!』

『ぬおっ!』


 グランツの警告と同時に三郎は機体をロールさせ、同時にラダーを蹴飛ばすように操作した。

 一瞬まで三郎が飛んでいた場所に曳光弾が襲いかかる。彼はそのままブレイクし、グランツとの編隊を解いた。

 ベルが最初に三郎へ食い付いたと言う事は、その後方に位置取るエイリを無視したと言う事だ。自立して行動の出来る無人機だとナオから聞いてはいたが、通常出会うようなAI機とは別物だとグランツは感じた。

 その行動に意志があったからだ。脅威度の高い、熟練者から落とすと言う意志が。


『三郎さんはそのまま回避を続けて下さい、俺がカバーに回ります!』


 グランツは三郎の後を追う様にして、右へのブレイクを開始した。

 ヘルキャットに比べてパワーの無い三郎の零戦は、速度を上げようと右旋回後に緩降下へと入る。ヘルキャットのエンジンは先程から全力運転を続けている為、三郎へと追い付いた時点でそれぞれに高度差が生まれていた。

 そんな2人を嘲笑うかのような速度で、一度零戦をオーバーシュートしたグリペンが戻ってくる。


『エイリさん、後どのくらいですか!?』

『もう残り4kmです、方角はそのままで!』


 現在の対気流速度は450マイル。時間にして20秒と少し、行けるか。

 敵機の位置は左前方上空。この1回の攻撃さえ躱せれば。

 どっちだ、どっちを狙う。俺か、低空に居る三郎さんか。どちらにしろ、ここまで損害の無い時点でこちらの勝利は近い。

 目を凝らして見据える先で、グランツは少しだけ敵機の機首が上がったように思えた。


『……ッ!!』


 渾身の力で操縦桿を引き、ヘルキャットを高く舞い上げる。上下だけでなく、速度低下によって左右にも軸線をずらす事が狙いだ。

 そして彼の読み通り、曳光弾が機体を掠めていく。ベルのグリペンはそれ以上の深追いをせず、一度距離を取ってから再び攻撃体勢を整えた。

 グランツの動きを学習したのか、グリペンは先程の距離まで近付いてくるも攻撃をしてこなかった。ぎりぎりまで近付き、人間の反射速度では対応出来ない距離で仕留める為だろうか。

 グランツの後方にぴたりと付いたグリペン。


 しかしグランツが回避行動を取る事は無く、グリペンから攻撃が行なわれる事も無かった。




 ***




 何が起きているのかわからなかった。

 絶好の攻撃ポジションにいる機体は全く攻撃をせず、絶体絶命であるはずの機体は全く回避行動を取らない。

 数秒のランデブー。それは戦場にあまりにも似つかわしく無い光景。


 その状況を大きく動かしたのは、もう1機の被捕食対象であるはずの機体だった。

 ヘルキャットと行動を共にしていた零戦は旋回を終え、ベルの下方から攻撃ポジションに入っていた。突き上げるように浴びせられた機銃弾は彼女の機体後部へと着弾、主翼とエンジンに穴を穿っていく。

 異常燃焼した炎を噴き出す機体。だがコンピュータ制御されたカナードはなおも自身を空に留めようともがき、機首をヘルキャットへと向け続ける。

 その間もベルの高度は落ち続け、ついには速度低下によって揚力を失った。


『なんで……なんで撃てないの!?』


 ベルの悲痛な叫びと共に、有翼の獅子はその羽根を濡らす。ヘルキャットの飛行速度に合わせていた為、ある程度原型を留めたまま着水する事となった。

 UCAV型グリペンには射出座席が装備されていない為にコクピット部へのダメージが心配であったが、遠目に見るには大きな破損は無さそうだ。


「弾切れ……じゃないわよね」


 グリペンの装備するBK-27の装弾数は120発。アメリカ製戦闘機の装備するものに比べると少ないが、今回の戦闘では彼女の射撃精度の高さもあって半分も使用して無いだろう。

 その疑問は、私の横を飛ぶナオの言葉によって氷解された。


『ここ、スオキ島周辺はWW2エリアなんです。エリア内では第二次大戦機だけが戦闘を行えるルールとなっています。WW2以降の機体ではシステム的なロックが掛かって、攻撃が行えません。ただし大戦機からの攻撃には制限が無いんですけど、予想通りベルちゃんも例外では無くてホッとしました』


「ナオの作戦はつまり、それを狙ってベルをここまで誘い込むという事だったのね」


『はい。いくらベルちゃんが特殊な存在とは言っても、今までこの世界のルールに逆らうような事はしてなかったので行けるんじゃないかなーと。まさかおじいちゃんが撃墜するとは思わなかったですけど……』


「でも、ゲームの領域外へと私達が出れたのはベルのおかげなのよ?」


『えっ、そうだったんですか?』


 彼女が道を開いてくれたから民間機の撃墜を防げた。これは間違い無く事実だ。

 やろうと思えばそんなルールすら改変出来るのか、何かやれない理由があったのか。

 それを確認する為にも、今はまだ浮かんでいる機体の回収を行なわなければならない。それなりのダメージが入っているであろうから、これは一刻を争う事態でもある。

 あの様子では絶望的だが、墜ちたジャックが万が一リスポーンしていなければその捜索も同時にやらなければ……。


「とりあえずどこか近い所に着陸して、ベルを回収しないと……」


『その役目はこっちに任せてくれ』


 横から会話に割り込む通信。その声の主は、


「ジャック! 良かっ……いいえ、全然良くないわ。やっぱりリスポーンになってたのね……ごめん」


『まーたそんな事を言うか、気にすんなって。スロキスでポイント再設定しといて良かったぜ。それより、ジェイクに頼んでズムウォルトと作業船をそちらへ向かわせてる。回収が上手く出来るかどうかはわからんが、生憎今はこの手しかないんでな……』


「もどかしいけど、空からじゃ何も出来ないわね」


『スオキ島東部中央に港がある。全部の作業が終わったら、一旦そこで落ち着こうぜ』


「わかったわ」


『もちろん、わたし達もそこに行きますからね?』


 そう言って釘を刺してくるナオ。

 盛大に巻き込んでしまう事になって、あまつさえ窮地を救ってくれた人達を無碍にするなんて事は許されない。

 素直にここは話をしよう。そう決心して、私達は一路スオキ島への帰路についた。




 ***




「しかし綺麗に墜ちたもんだな」


「兄さんはこんな着水する自信ある?」


「いやー、流石にどうかな……奇跡って呼ばれるレベルだぜ」


 ズムウォルトに護衛されてベルの着水現場へ到着したクレーン船。その船上で破壊されたグリペンを眺めながらジャックとジェイクはそんな感想を言い合っていた。

 クレーン船は艦橋の反対側にクレーンが付いており、それで引き揚げられた機体は中央の平らなデッキ上に鎮座していた。NPCスタッフ達が機体に絡み付いたナイロン製ロープを外していく。コクピット部を開こうとしたスタッフは、その作業に少し苦戦しているようだった。


「しかし、こんな船まで持ってるとは思わなかったぞ」


「海賊家業に必要なんだよね、スクラップもそれなりに良い値段で売れるから。大規模戦の後は楽に稼げるサービスタイムなんだ。ただ、こうやって何かしらの護衛付きでないと動きにくいのが面倒な所だけど」


「俺等の苦労した結果が、こうやってハイエナされてんだもんなぁ……。そら恨み妬みも買うだろうな」


「まぁ、それよりはもう少し過激な行為で買ってる事の方が多いかも知れないけどね」


「……ゲームだからいいけどよ、リアルじゃ変な事するんじゃねぇぞ」


「してたらどうする?」


「そしたら……ばぁちゃん特製のミートローフの刑だな」


「その時は絶対に1人じゃ死なないようにするよ」


 そう言って笑い合う2人。

 ジェイクにしてみれば、こんな日がやってくるなんて事は思っても無かった事だった。そのきっかけを作ってくれたのは、この機体の中にいるであろう少女である。

 鉛弾を腹部に撃ち込まれもしたが、何かしら理由があるに違いないのは理解している。それも、彼女が抗えなかった外部的な何かが。


「コクピットハッチ、開きます!」


 NPCスタッフの叫びに合わせて、2人は機体に近付いてからハンドガンを構えた。

 きっと引き金を引く事が出来ないそれが、ただのポーズでしかない事を良く理解しながら。


 所々壊れた光学センサーがひしめき合うコクピットハッチ。ギシリと不快な音を立てて開いたそれの中には、


「誰も……居ない?」

「ベル……くそっ、どういう事だ……」





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