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「七年後」

第一章 七年後

三沢市で巨人に襲われた日から、七年の月日が流れた。

あれから巨人は現れていない。

あの日、三沢市にいた別の巨人も、他の都市にいたという巨人も、同じ日に溶け崩れたらしい。

なぜ巨人が溶けたのか、誰にもわからない。

巨人に焼かれた街は、見たこともない巨大な植物が繁殖した。植物は、人間の肺を侵す毒を放出し、人が住めない危険な場所になっていった。

俺たちは、十和田湖のほとりの小さな村に住んでいる。空家となっていた合掌造りの古民家を借りている。

電気やガスなどの燃料は、貴重な資源となり普段は使えないが、山で焚き木を拾い燃料にする生活も慣れるものだ。

今日は、五日分ぐらいの焚き木を拾うことが出来た。

「父様~」

凛が嬉しそうに、走ってくる。

「収穫あったみたいだね。凛」

「はい。いっぱい採れました」

差し出された竹籠には、様々な山菜がきれいにならんでいた。

「おっ! すごいな。うど、タラの芽、ふきのとう。天ぷらにしたら、美味しそうだ」

凜は、とても美しい女性に成長した。今年で、18才になる。

武道の心得と通じるところがあるのか、凛は山菜を採っても、狩りに行っても、いつも素晴しい食材を収穫してくれる。家族が食べる量を考えて、採りすぎない心配りも忘れない。

「父様 そろそろ帰りましょう。みんなが待っています」

「そうだね。帰ろう」

凛は、俺と真由美の養女になった。大切な家族の一員だ。


第二章 ミコトとツナグ

窓から見える新緑の山々から心地良い風が入ってくる。

ミコトもツナグも良く眠っている。あと30分ぐらいは、お昼寝かな。

稟を養女に迎えてから、私と隆志さんは、二人の子供を授かった。

5才になる次女のミコトと、3才になる長男のツナグだ。長女の稟は、妹と弟の世話をとてもみてくれて、私よりお母さんらしいぐらい。

今は、生きていくだけでもとても大変な時代だけど、こんな時代だからこそ『次の時代に、命を繋ぐ者が必要だ』と強く思った。

隆志さんは、稟のこともあってか、かなり悩んだみたいだけれど、賛成してくれた。

『命を繋ぐ』から、子供たちには、ミコトとツナグと名付けた。

「さて、夕食の支度をしなきゃ」

今日は、特別な日だ。

毎年、気にはしてはいたんだけど、ガスや電気のない生活・出産など、なかなか気持ちに余裕が持てなくて、今までちゃんと記念日をしていなかった。

隆志さんは、きっと覚えていないだろうな。

今日は、がんばってイタリア料理。

幸いなことに村の図書館には、イタリア料理の本があったので、少し?かなり?難しいけど、隆志さんが好物だといった『トリッパの煮込み』に挑戦している。

村の牧場で分けていただいた牛の二番目のハチノスを三日かけてアク抜きをした。仕上げにトマトで煮込み白インゲン豆を加える。

次は、これまた初挑戦の手打ちパスタ。最近は、小麦粉も手に入るようになったし、畑でいろいろな種類の野菜が収穫出来るようになったので、料理をするのがとても楽しい。


昼寝から目覚めると、台所から美味しそうな匂いがした。母様が夕食の料理をしているんだろう。横を見るとツナグが気持ち良さそうに眠っている。

そっと布団を抜け出し窓のそばに行くと、窓の縁に、リスがどんぐりを抱えてちょこんと立っていた。

「こんにちは チコ。また、どんぐり持って来てくれたんだね。ありがとう」

チコは、先月 父様と稟姉様と山に行った時、ワナにかかっていたリスだ。

ワナからはずし逃がしてあげる時、家で飼いたいと父様に言ったら、山に戻れなくなってしまうからと、許してもらえなかった。

だけど次の日、お昼寝から目覚めると、その時のリスがどんぐりを抱えて窓辺にいた。

私は、チコと名前をつけた。

父様に、飼ってはいけないと言われたけれど、お友達ならいいんだよね。

チコは山のことを、いろいろ教えてくれる。お話できるわけではないけれど、なんとなくわかってしまう。

「あっ ツナグが起きた。またねチコ」

「ミコトねえちゃま おはよ」

「おはよう ツナグ」


第三章 記念日

「よし準備完了」

居間のテーブルに、前菜を並べナイフとフォークを置く。こんな風に食事をするのも今までは出来なかった。パスタと温かい料理は、隆志さんと稟が帰ってから盛り付ける。

「ただいま」

「ただいま帰りました。」

「お帰りなさい」

隆志さんと稟が帰ってきた。

「母様 これ」

「美味しそうな山菜ね。明日は、てんぷらにしましょうか」

隆志さんと稟が、いつものように居間にあがる。

「わっ!どうしたの これすごいね」

「母様 今日は御馳走ですね」

「ごちそう ごちそう」

ミコトとツナグも合唱する。

「はい『トリッパの煮込み』」

私の力作。隆志さんの大好物をテーブルの上に置く。

「わっ! すごいトリッパだ。これ真由美が作ったの?」

「そうよ。あの日、これを食べに行く予定だったでしょ」

「あの日?」

(やっぱり覚えてない。…仕方ないか)

「母様 今日は、何かの記念日なんですか?」

「ええ 今日は、隆志さんと私が恋人になった。八年目の記念日なの」


おわり

読んで下さった皆様、ありがとうございます。


初めて書いた小説になります。

当初は、「一日目」で読みきり完結のつもりだったのですが、続きを読みたいと言ってくれた方がいて、「二日目」以降を書きました。

完結出来て良かったです。

また機会がございましたら、お付き合い下さい。


小林りゅう

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