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「七日目」

第一章 奥入瀬

うっそうとした原生林、流れる清流、苔むした岩、様々な緑のコントラスト。幻想的な奥入瀬の風景の美しさに、息を飲んだ。

「きれい」

真由美と凛ちゃんも景色に見とれている。

昨日、山形から秋田へと深夜まで車を走らせ、少しだけ仮眠をとり、お昼前に奥入瀬に着くことが出来た。

奥入瀬渓流にある真由美の両親が宿泊しているホテルは、避難所になっていた。不安そうな真由美を落ち着かせ、ホテルの人に尋ねる。

「ああ その方でしたら、いらっしゃいますよ。ボランティアをして下さっていて、今 配給の食糧を取りに行って下さっています」

ホテルの人の言葉に、真由美の顔がパッと明るくなる。

「良かった。無事だったんだ」

「良かったね。お姉様」

「うん。ありがとう 凛ちゃん」

「すみません。配給は、どこへ取りに行っているんですか?」

「三沢市役所ですよ。隣の航空自衛隊の基地が避難物資を空輸してくれているんです。」

「わかりました。ありがとうございます」

ホテルの人に、お礼を言い車に戻った。

(航空自衛隊三沢基地…)

自衛隊が、まだ機能しているんだ…。市役所は、基地の隣にあると言っていたけど…。

嫌な予感が、頭をよぎる。

「真由美 凛ちゃん ここで、少し待っていてくれるかい」

「えっ 隆志さん どこに行くつもりなの?」

「少し気になって、真由美のご両親を迎えに行ってくるよ」

「だったら 私も連れて行って」

「私も行きます」

「だめだよ。考え過ぎかもしれないけど、航空自衛隊の基地が少し気になるんだ。巨人に襲われるかもしれない」

「それなら、なおさら私も連れて行って。凛ちゃんは、ここで待っていてくれる?」

「いやです。私、お兄様とお姉様から、絶対に離れない」

押し問答の末、真由美と凛ちゃんは、どちらもゆずらず3人で三沢市に向かうことになった。

 

第二章 再会

「これで配給物は、すべてになります。」

積み込みを手伝ってくれた市役所の人がさわやかに言った。

「ありがとうございます。避難所の皆さんも喜んでくれるでしょう」

「積み込みまで、手伝って下さって、とても助かりました」

「いえ いえ。それでは、気をつけて帰って下さい」

軽く礼をして、市役所の人は戻っていった。

「さあ 母さん。奥入瀬の避難所に帰ろうか」

「…」

「んっ どうした? 何をそんなに、驚いているんだ?」

母さんが見ている方を見ると、駐車場の奥から駆け寄る人が…!

「…お母さ~ん お父さ~ん」

「まっ 真由美!」

「真由美 無事だったのね。良かった 本当に良かった」

真由美と母さんが泣きながら抱き合っているが、涙で滲んでよく見えない。

(良かった。無事でいてくれて、良かった。)

隆志くんと見知らぬ女の子が、後から歩いてきた。

「隆志くん 君が真由美を護ってくれたんだね。ありがとう。本当に、ありがとう」

隆志くんの手を両手で握り、お礼を言う声が震えてしまった。


第三章 三沢市

『ゴオォォー!』

大気を震わすような爆音を上げて、航空自衛隊三沢基地からジェット戦闘機が飛び立ち、頭の上を通り過ぎてゆく。3機のF-15イーグル、おそらくスクランブル発進。

頭の中で、警告音が鳴り響く。

(やばい。きっとヤツだ)

「真由美!お父さん!逃げないと。街から…、少しでも遠くへ 」

「隆志君、どうしたんだ? 何が起こるんだ?」

「巨人がやってきます。アイツらは街を焼き尽くします。早く!」

俺と真由美のご両親の車は、市役所の駐車場を飛び出し市外へ急いだ。

進行方向の右側の山の上で、『バァン』『バァン』と続けて二回、少し遅れて一回『バァン』と爆発音がして爆炎が空に舞った。たぶん、さっきの戦闘機だろう。

東京が襲われた時、巨人は群れをなしていた。でも、仙台を襲った巨人は、一体だった。今回も一体だけなら、逃げ切れるかもしれない。

市外へ向かう国道は、逃げ惑う車で混雑し始めていた。事故を起こして、道を塞ぐ車もある。焦る気持ちを必死で抑え、事故車両をかわす。

「大丈夫。大丈夫だから」凛ちゃんを抱きしめて、真由美が繰り返し話しかけているのが聞こえた。後ろを走るお父さんの車両もなんとかついて来ている。

あたりが、ふいに暗くなった。

(ああ…また、これか。アイツが真上にいる)

恐怖の記憶がよみがえり、身体が固くなって、考えがまとまらなくなっていく。

(恐怖に飲み込まれちゃ、ダメだ。俺には、護らなきゃならない人がいる)

わずかな時間で巨人は通り過ぎ、バックミラーごしに三沢基地方面へ向かうのが見えた。

(やはり三沢基地を狙ってきた。早く市外へ出なければ)

気持ちを切り替えて車を走らせ、市外まであと少しの所、奥入瀬の案内板を通過する。

(あと少しだ。)

交差点を曲がり、三百メートルほど直線が続く国道に出ると、信じられない物がそこにいた。

慌てて急ブレーキを踏み、車を停車させる。

「巨人」

「えっ!なんで!」

さっき、三沢基地に向かった巨人とは、別の巨人が、そこにいた。

巨人は、一体だけとは限らない。わかってはいたけど…。

「引き返して、脇道を探します。ついて来てください」車の窓を開け、後ろのお父さんに、大声でさけぶ。

車の向きを変えるため、前を見ると、巨人の口が大きく開き、三重の筒がせり出してくる。

(おい おい、待ってくれ 止めてくれ)

「真由美!凛ちゃん!ふせろぉ!」

『ドッゴーン!』

東京や仙台を焼きつくした荷電粒子砲と思われるビームが背後の市街地をなぎ払った。

すさまじい轟音と衝撃で車が吹き飛ばされる。

「体を低くして、しっかりシートベルトをつかんむんだ!」

あちこちにぶつかりながらも、車はひっくり返ることなく止まった。

「真由美 凛ちゃん 平気か? 怪我は?」

「私は、大丈夫。ちょっと、頭を打っただけ。凛ちゃんは?」

「大丈夫です。お姉様のご家族は?」

へこんだ車のドアを無理やりこじ開けて外にでると、ものすごい煙が漂っている。

煙の切れ間から、真由美のご両親のワンボックス車を見つけた。電信柱にぶつかり、くの字にひしゃげている。

「あぁっ! お母さん、お父さん…。」

急いで駆け寄り、二人を救出しようとするが、ドアがつぶれていて開かない。

二人とも頭から血を流し、ぐったりとしている。

「しっかりしてください!今、助けますから」

「お父さん お母さん 目を覚まして」

「まっ 真由美」

真由美のお父さんが、弱々しくかすれた声で応えた。

「お父さん」

「真由美 お願いだ。私たちにかまわず、逃げてくれ」

「そんなこと、出来ない。一緒に逃げよう」

「私も母さんも車の部品が体に刺さっている。ドアが開いても、出られないよ。さっきまで、母さんも意識があったんだ。ずっと真由美のことを心配していたよ。私たちは、もう助からないんだ。わかってくれ」

「いや!そんなのいやぁ」

「隆志くん 頼む。真由美を…、まゆみを…」

「お父さん!お父さん!目を開けて、お父さん」

「…。真由美、行こう。ここは、危ない」

真由美は、涙をぬぐい、くちびるを真一文字に結んで、頭を縦に振った。


第四章 絶対絶命

巨人が第二射を撃つ前に、大きなビルの影に隠れることが出来た。

『ドッゴーン!』

第二射が撃たれ、ビルの影にいても爆風が巻き込み、小さな破片が飛んでくる。

三沢市の市街地の端にいる二体目の巨人は、市の中心部に向かって口からビームを撃っている。俺たちの頭上をビームが飛び、爆風が舞う。

巨人から離れて市の中心部に行けば、焼かれてしまう。

生き延びるためには、巨人に近づいて、脇をすり抜けるしかない。

息をひそめ、恐怖と戦い、巨人に近づいて行った。爆風で飛んでくる破片にも気をつけなければならない。

「大丈夫? 真由美 凛ちゃん」

「うん」

真由美は、声を震わせて言った。

凛ちゃんは、覚悟を決めたような目で、だまってうなずいた。

「あと少しだ。このビルから出て、目の前の橋を一気に渡る。巨人のすぐ近くを通るけど、アイツは市の中心付近を狙っているから、足もとの俺たちには当たらない。恐いだろうけど、がんばって走りぬこう」

「はい」

二人が同時に言った。

巨人の様子をうかがい、タイミングを図る。

「今だ! 走れ!」

三人でいっせいに、走り出す。橋の長さは、約100m。ここを通過すれば、市外に出られる。

走り出すとすぐに、大きな巨人の足が視界に入る。見ないようにと思っていても、どうしても目に入ってしまう距離。巨人と俺たちは、50mと離れていない。

橋の中央付近まで走ると、巨人がゆっくりとこちらを振り返る気配がした。

「見るな! 走れ!」

先行する二人に、大声でさけぶ。

(頭の上をビームが飛んでも、当たらない。)

心の中で祈りながら、走る。

突然、巨人が膝を折り、片手をついた。

(嘘だろ! なんで? 低い姿勢でアレを撃たれたら…、当たらなくても熱で蒸発する!)

おそるおそる横を見ると、巨人と目が合った。

目を見た瞬間、恐怖で体が凍りついたように、動けなくなってしまった。

真由美と凛ちゃんも同じように、何も言えず、呆然としている。

目の前の巨人が口をゆっくりと開け、あの三重の筒がせり出して、回転を始める。

筒の先に、糸の様な光の線が浮き出た。筒の内側の光が増大する。

(だめだ。逃げられない)

恐怖と絶望。俺は、何も出来なかった。

発射の瞬間、凛ちゃんが俺の前に立ち、両手を広げて大声叫んだ。

「やめてぇー! もう、誰も殺さないでぇー!」

「凛ちゃん! 危ない。ふせるんだ!」

「…?」

(発射されない?)不思議に思い、閉じていた目を開ける。

『バシューン』

なぜか空に向かって、ビームが撃たれた。

(この距離で、はずした…?)

巨人をよく見ると、体の表面が溶け崩れているのに気付いた。関節も溶けて、体を支えられなくなっているみたいだ。

(膝をついたのも、今 はずしたのもこのせい?)

「真由美 凛ちゃん 大丈夫?」

「うん」「はい」

巨人の体は、どんどん溶けていき、あちこちから骨が見えるようになった。

『ドォーン』

しばらくすると巨人の頭が崩れ落ち、地面に転がった。

ゆっくりと目の光が消えていく。

「…。」

「隆志さん 私たち助かったの?」

「うん 俺たちは、生き延びたんだ」


後の世で「火の七日間」と呼ばれる、七日目の話だ。(つづく)

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