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「一日目」

第一章  隆志(たかし)

「トゥルルル トゥルル」

携帯が鳴る、彼女の真由美からだ。電話に出ると弾むような声が響く。

「映画のチケット、もう予約しちゃったんだから遅れないようにね」

「わかってるよ 教授に午後から休むっていってあるから大丈夫だよ」

「そんな事いって、隆志さんこの間もドタキャンだったじゃない」

「明日は、大丈夫だよ。待ち合わせ時間までにちゃんといくから」

「それじゃあ、明日の午後2時にお台場駅でね」

「うん」

真由美とは付き合って、明日でちょうど一年になる。一周年記念がしたいとデートをせがまれ、ベタだけど映画を観て、イタリア料理を食べに行く事になっている。

俺は、大学4年生で物理学を専攻している。教授の論文の手伝いで前回のデートをキャンセルしてしまったし、今回はいい所を見せなければならない。レインボーブリッジを見渡せるレストランを予約済みだ。

真由美は、二つ年下で高校の後輩。高校時代は部活のマネージャーをしていたから、よく話はしてはいたけれど、卒業してから連絡を取り合う事は無かった。一年と少し前に偶然再会して何度か会っていたら、道端の花をきれいだと言う彼女にどんどん惹かれ付き合うようになった。

「もう1時か データもまとまったし、明日の午前中には、提出できるな」

灯りを消して目を閉じる。ふと何かの気配に気づき目を開ける。金色の粉が天井に舞っているのが見えた。

「えっ何?蛍?」

そんなはずは無い、金色の粉は1ミリにも満たない。「火の粉?」あわてて周囲を見回すが火の気はない。ひんやりとした空気に寒気を覚える。

「隆志」

名前を呼ばれて振り返ると、そこに親父がいた。(馬鹿な親父は、2年前に他界している)

「親父」

(幽霊?嘘だろ?)

「隆志、久しぶりだな。元気そうでなによりだ。だが今日は、良い話をしに来たんじゃないんだ」

「えっ何言ってんの? 俺は、夢を見ているのか?」

「隆志、驚くと思うが明日、この街はなくなるんだよ。大きな災厄がやって来るんだ。今夜中に、街を出なさい。私は、警告なんだよ。悪いが、おまえにまかせるしかないんだ」

「ちょっと何言ってるの? どういう事なんだよ? 街がなくなるって何なんだよ?」

俺の問いに答える事無く。親父は、薄くなり消えていった。

気がつくと朝だった。(あれは、何だったんだろう?警告?へんにリアルな夢だったけど。)

「やべ急がないと! データ提出しなきゃ」

俺は、急いで身支度を整え研究室へ向かった。

『予兆や警告は、必ずある。大切なのはどう受け止め、どう対処するかなんだ』

大学へ向かう電車の中で、ふと言葉がよぎり消えていった。


第二章  真由美(まゆみ)  

昨日の夢は何だったんだろう?

丸く大きな雲のまわりに、輪のような雲が二重に取り囲んでいた。真赤に空が染まっていて、とても禍々しく感じた。以前、テレビか何かでやっていたどこかの国の爆弾実験の雲に似ていた。

どうしてあんな夢をみたのだろう?

「すみません 紳士服売場は、何階になりますか?」

老夫婦に声をかけられて、はっとする。

「あっはい。5階になります」

「5階ですね。ありがとうございます」

老夫婦は、礼を言って去っていった。

「どうしたの?デパートの受付嬢が、ボーとしていたら問題よ」

「ごめんなさい。昨日、変な夢を見ちゃったから、つい考えちゃって」

「本当?どうせ今日のデートの事でも考えていたんじゃないの?」

「そんな事ないって、でも午後のシフト、私いないからよろしくね」

「了解!デート楽しんで来なさいよ 久し振りなんでしょ」

「うん ありがとう」

同僚の絵里子は、入社の時から私の事を気にかけてくれる大切な友達だ。

隆志さんの事もよく相談にのってくれる。

隆志さんと再会したのは、お茶の水の本屋さんだった。偶然の再会には間違いないけれど、偶然の確立を高める努力をしていたのだと思う。 

高校の時から憧れていた。ただ勇気が持てずに気持ちを伝えられなかった。

隆志さんが大学に進学してから、大学に近いお茶の水の本屋さんに通うようになった。もともと読書は好きだったので、大きな本屋さんは楽しかった。

新刊本やベストセラー本など、近所の本屋さんで手に入る物もそこで買った。自分は、大きな本屋さんが好きなのだと思っていた。

でもあの日、隆志さんが声をかけてくれた時、心の中が「やっと逢えた」って想いでいっぱいになった。

突然、泣き出してしまった私を彼はどう思っただろう…。


第三章 出現

お台場駅についたのは、待ち合わせ時間ぎりぎりだった。改札出口で真由美がほほ笑んでいる。

「ごめん 待たせた?」

「ううん 待ち合わせ時間、ピッタリだよ」

「よし、じゃあ映画観にいこうか?」

「うん」

お台場駅から、映画館へ向かって歩き出す。東京湾が見渡せるデッキまで来ると、何か奇妙な違和感を感じる。周りの人々が、皆立ち止まり口を開けて、上を見上げて呆然としている。

ふいに辺りが暗くなり驚いて空を見上げると、何か巨大な物体が空を覆っている。

「あああっ…」

「何だ、あれ?」

「UFO?」

人々が口ぐちに叫びをあげる。

巨大な物体の表面は、わずかに脈動しているように見える。

ゆっくりと空を巨大な物体は動き、やっと明かりが射してくると、巨大な物体が人の形に似ている事に気づいた。光の輪のような羽を背負って飛んでいる。何かの冗談か?悪い夢なのか?ふと真由美を見ると、しゃがみこんで震えている。

「何? 何なのアレ? 怖い」

「大丈夫、落ち着け。とにかく情報を集めよう」

震える真由美を抱え、商業ビルの大型モニターに向かう。

「ウー! ウー!」サイレンがあちらこちらで鳴り響く。

「バリバリバリバリ」上空を自衛隊のヘリコプターが、巨大物体を追いかける。

大型モニターは、非常事態宣言の文字と巨大物体が映し出されている。

どうやら巨大な物体は、西新宿に降り立ったようだ。

「大きい!」

「巨人だ!」

「ロボットじゃないのか!」

こんな大きなロボットを作れる科学技術など人類は持っていないし、あんな巨大な人間などいるはずがない。都庁と比較しても身長100m?いや200mはある。

ゆっくりと回りを見渡した巨人は、おもむろに口を開けた。牙がひとつずつ跳ね上がり、中から3重の筒がせり出して来た。最後の筒が羽根のように展開すると、最初の筒と二番目の筒が逆回りに回転し始める。

「まさか? あれって粒子加速機? あのサイズなんてありえない?」

筒は、電気を帯び回転が上がる。展開した最後の筒の先に、白い輪が浮き出て真ん中に糸の様な線が現れる。

「やばい! 荷電粒子砲だ! 真由美ふせろ!」

「えっ、何?」

真由美に覆いかぶさるように体をふせる。

次の瞬間、大きな爆発音が起こり、少し遅れてもの凄い爆風がやって来た。

商業ビルのガラスは、割れて飛び散った。爆風に飛ばされデッキの下の道路に投げ飛ばされた人も少なくない。

巨人から発射された光は、東京駅から東京タワーまで焼いたようで、東京駅周辺は煙と炎に包まれ、東京タワーは第一展望台あたりからゆっくりと倒れていった。

「何あれ? 絵里子は? どうなっちゃうの?」真由美が泣きじゃくる。

「真由美! 逃げるんだ! アイツが何だかは、俺にも分からない。でも逃げるんだ! こい!」

デッキから道路に降り、東に向かって走り出す。


遠くへ行くんだ。

少しでも巨人から遠くへ。


自衛隊のヘリコプターの応戦は、全く巨人には効かなかった。次々と叩きおとされ墜落してゆく。

光は2射目、3斜目が発射され、東京中が破壊され、炎の渦に包まれる。

意外にも人々の多くは逃げ出さない。ただ、燃えて行く街を見続けていた。逃げても無駄だと諦めているのか?現実を受け入れられないのか?

 

創造主だけが神ではない。

望みを叶えてくれる者だけが神ではない。

何も与えず、ただ奪う。破壊と殺戮をする者も時に人は神と呼ぶ。

何故なら怖れこそ神の定義の根源だから…。圧倒的な力の前では、人はひれ伏すことしか出来ず、膝を折り祈るしかないのだから…。


葛西臨海公園に着いたころ、何射目かの光がお台場を貫き、レインボーブリッジが崩れていった。

さっきまでいた商業ビルやデッキ付近が焼けて熱に溶けていく。

「何でなの? どうしてこんなひどいことするの? 誰か助けられないの?」

「分らない。俺も何も分らないんだよ。真由美は優しいから、助けに戻りたいんだろうけど…。分かって欲しい…ここも危ないんだ。俺は、真由美に生きていて欲しい。お願いだから…、一緒に逃げてくれ」

「…分かった」

少し行くとアイドリング音のする車が、ガードレールにぶつかり止まっていた。運転していた人の息は、もうなかった。

車の損傷は少なく、走れそうだ。

「この車、まだ動くぞ」

「真由美! 乗れ! これで、逃げよう」

「はい」

真由美を助手席に乗せ運転席に乗り込もうとした時、ふと気配を感じ後ろを振りかえると背筋がゾッとした。

「真由美 いいか、絶対に後ろを振り向くなよ」

「えっ、どうして?」

「いいから!」

真由美には、見せられない。

あの光景。

光の輪を背負った巨人が群れをなし、次々と空から降りてくる。

日本は? 世界は? どうなるのだろう?

親父は、俺に何をまかしたのだろう?

巨人が神だというのなら、人類は滅ぼされる運命なのだろうか?


神の意志なんて、どうでもいい。

世界が終ったってかまわない。

俺は、真由美を死なせない。

生きるんだ。


後の世で「火の七日間」と呼ばれる、最初の一日目だ。(つづく)

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