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周りの人々


学校に着いた。


オレたちは二人並んで歩き、生徒用玄関に向かう。



「おはよー!碧にひなっちゃん」



後ろから声をかけられ、オレたちは振り向く。


そこには中学の時から友達で、同じクラスの栗本和真(くりもとかずま)がいた。


灯夏はあまり灯夏とは呼ばれず、だいたい省略して呼ばれる。

そのままで呼んでいるのはオレぐらいな気がする。



「おはよう、栗本」


「おう、朝からテンション高いな」


「いやー、聞いてよ!俺、実は告られちゃったんだよねー」



…………はあ!?



「えっ、ちょ、おまえ、え?告られたって?え?」


「何そんなに驚いてんの碧ー。あ、もしかして碧って栗本のこと好きだったとか!?」


「碧…そうだったのか。ごめん、俺、おまえの気持ちに気付いてやれなくて」


「ちげーよ!んなわけないだろ!で、誰に、誰に告られたんだ!?」



確かに和真はサッカー部で、かっこよくて、ノリもよくて、良い奴だ。


和真のことが気になっている女子がいるというのも、聞いたことがあった。


オレの方が和真よりモテているとか、かっこいいとか、そういう自信があったわけでもないけど、先を越されるなんて…。


和真はサッカー馬鹿だから、そんな恋とかに気にしている様子もなかったのに。

くそう。



「同じクラスの倉沢!昨日、部活行く前に告られたんだけどさあ、俺テンパってちょっと考えさせてって言っちゃったんだよ」



倉沢…ああ、倉沢楓(くらさわかえで)。ショートカットで背の小さい可愛い系の子か。



「俺、あの子高一の時から可愛いなーって思ってたんだけどさ。実際告られたらどういえばいいのかわかんなくて」


「なんて言われたのー?」



灯夏が和真に尋ねる。



「好きです、付き合って下さいって」


「普通だな」


「普通だねえ」



オレの答えに灯夏もうんうんと頷きながら言葉を重ねた。



「普通にさあ、いいよ、付き合おうとか言っとけばいいんじゃねえの?」


「そだねー」


「そ、そんなんでいいのか!よし、俺、頑張ってくるわ。って、いつ言おう?」


「あたし楓と仲良いし、栗本のとこに行くよう言ってあげるよ!」


「あぁ、いつも一緒にいたもんな。じゃあ、放課後俺が話したいって言ってたって伝えてくれない?」


「おっけーっ!いやあー、まさか楓が栗本のこと好きだったなんて…」



あーくっそくっそ。

なんだよ和真に彼女ができてしまうのか。


オレは今まで、そういう色恋沙汰がまったくない。


中学の頃はもちろん、高校に入ってからもまったく。


小学校の頃とかは、なんかあった気がするけどカウントするようなもんじゃない。


………いや、中学の時、一度だけちょっと花が咲きかけたことがあった。


教室に忘れ物をして、放課後取りに行こうとした時だ。


教室ではクラスの女子たちが話しをしていた。


なんとなく入れる雰囲気ではなくて、教室の外でどうしようかと途方に暮れていたら、話しが聞こえてしまった。



碧くんて良いと思わない?


うん、かっこいいよねー


でもさ、いっつも隣にあの子いるじゃん?


あー、ひなっちゃん。


別にあの二人、双子だしどうでもよくね?


だけど血繋がってないじゃん。


え?まじで?


じゃあもしかしたら…


てか、あの二人の間に入ってく勇気ないわー


もう碧くんは諦めるかあ




みたいな。


もうオレはどうすればいいのかわからなくなって、忘れ物のことなんか忘れてすぐにその場から去ったね。



まあ、別に灯夏が悪いわけじゃないし。


全然灯夏のことなんか恨んでないし。


……いや、正直に言うと少しだけ恨んだ。


でもオレにとっては彼女ができるよりも、灯夏と一緒にいることの方が大事だ。


だからそこまで気にはしていない。


それに、オレに好きな人ができないというのも色恋沙汰がない原因のひとつだ。

誰かいないものか…。


そんなことをぼやくと決まって周りの皆はこう言う。



灯夏がいるじゃないか、と。



なんというか、灯夏はそういう対象にはならない。


やっぱり、ずっと一緒に過ごしてきたし。

双子の妹だ。



「じゃあ、また放課後ね〜」



和真の恋愛話を聞いていたら、いつの間にか教室に着いていた。


もちろん、双子は同じクラスにはならないので灯夏とは違うクラスだ。



「ひなっちゃんよろしくね」


「任せときー!」



そうしてオレらは別れた。


というか、灯夏は倉沢と違うクラスなのにいつ呼ぶんだろう?


同じクラスなんだから、もう和真がさっさと言ってしまえばいいのに。


なんてことを言うと和真に、男心がわかってねえだとか言われそうだからやめておこう。



「おー碧に和真!おはよ」



教室に入ると皆が挨拶をしてくる。


それぞれに返しながら自分の席に荷物を置く。


先週席替えをしたばかりだ。


隣の席のやつを横目で見る。

日野沙依(ひのさえ)、高二から同じクラスになった。


黒髪に少し茶がかかっていて、胸の下辺りまであるロングヘアー。


つり目気味な目に整った顔立ちにすらりとした体つき。


しかも顔だけじゃなく、気さくで明るくて性格も良いやつ。


モテないわけがなかった。


よく呼び出され、告白されているところを見る。


しかし、彼女は誰とも付き合ってはいないみたいで。


そしてオレはそんな彼女から、嫌われているらしかった。


目が合うと必ずと言っていいほど毎回、睨んでくる。


クラスが同じではなかった高一の時からそうだ。


よく灯夏と日野は一緒にいたから、灯夏に話しかけるときに隣にいることが多かった。


彼女の方を見て目が合うと、キッと目をつり上げ睨んできた。


オレが何かしたのか考えても、全く心当たりがない。


灯夏に聞いてみても、どうしたんだろうねーなんて呑気そうに返されただけだった。


なぜ嫌われているのか謎だった。


今、横目で見ている彼女は古典の予習をしていた。


あ、やばい。古典の予習忘れてた。


というか今日から新しいところに入るから、どこを予習すればいいのかさえわからなかった。


しょうがない、また灯夏にノート借りるか。


日野が予習しているのを見て、そんなことを考えていたら、ふと日野がこちらの視線に気付き、顔を上げオレの方を向いた。



「…おはよ」



一応、挨拶してみる。



「お、はよ」



案の定、彼女はオレをキッと睨み付けながら挨拶を返してきた。


そしてふいっと顔を前に戻すと、ケータイを開きなにやらカチカチとうち始めた。


あー、ほんっと意味わかんねえ。


オレは日野とコミュニケーションとることは諦めて、灯夏に古典のノートを借りに行ったのだった。



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