碧と灯夏
書きためておいた分があるので今日は二話分で。
ストックが無くなるとものすごく亀更新になるので悪しからず…。
朝ごはんを食べ終えると、オレは洗面所に行って歯磨きしたり顔を洗ったりする。
その間に灯夏が部屋で制服に着替える。
小学校ぐらいまでは同じ部屋で着替えることもできたが、さすがに高校生にもなって同じ部屋では着替えられない。
部屋を別々にできればそれが一番いいのだが、アパートに住んでいるためそんな贅沢なことは言えないのだ。
二段ベッドにしてしまったから、今になって部屋を別々にするのが面倒だというのもあるけど。
10年以上もこんなふうに生活しているからもう慣れてしまったし、オレたちはそんなに不満は持っていない…はず。
ケンカした時は部屋にいるのが気まずかったりするけど、ケンカもそうそう長く続くことはないから大丈夫。
そんなわけで、オレと灯夏はずっと二人で同じ部屋を使い続けているわけだ。
「あー今日単語テストあるんだけどーまじ最悪」
着替え終わった灯夏が洗面所に来た。
オレは急いで顔を拭く。
「とか言いながら、おまえいっつも満点じゃん」
「直前にバスの中で必死で覚えてるんだもん。ほんとは毎日こつこつやりたいのに…」
灯夏はかなり頭が良い。
学校でのテストの順位はいつも一桁だ。
別に二人で同じ高校に入らなきゃってわけでもなかったけど、なりゆきというかなんだかそんな感じでオレたちは同じ高校に通っている。
高校のレベルはまあ上の方で、お金のかからないよう公立に進んだ。
学者になりたいらしく、灯夏はとても勉強を頑張っている。
オレはというと、高校受験の時はめちゃくちゃ頑張ったが、高校に入ってからたるみまくりで全然。
「じゃあオレ、着替えてくるわ」
顔を拭いていたタオルをハンガーにかけ、洗面所を後にした。
***
「いってきます」
「いってきまーす!」
支度を終え、オレと灯夏は家を出た。
学校へはバスで40分ぐらい。
バス停はアパートの近くにあるから、結構便利だ。
無事いつものバスに乗り、二人がけの席に座る。
隣で灯夏はごそごそと単語帳を取り出し、単語を覚え始める。
いやあ、すげえな。バスの中でも勉強するなんて。
オレなんて単語テストの勉強は全くしなくなっていた。
一応、高一の始めぐらいの時は勉強も頑張っていたんだけど。
高二になってからはまるっきりしなくなってしまった。
将来の夢とかよくわからない。
オレらの学校は一応進学校であるから、周りの奴らのほとんどはこの高二の最初の時期でも、もうおおまかに進路が決まっている。
昔は…将来の夢もあった。
高校に受かるまでは、ちゃんと将来のことも考えていたんだ。
別にすごい何か人生の転機になるようなものがあって、それで将来の夢が消えたとか、そういうわけではない。
ただ、勉強する気が起きなくなったという、それだけのこと。
ただ、それだけのことだ。
オレはウォークマンを取り出し、音楽を聴き始める。
別に灯夏が単語テストの勉強をしていない時も、オレたちはほとんど喋らず、各々好きなことをしてバスの中を過ごす。
常に家で一緒に過ごしているんだから毎日毎日話すことなんてないし、普通の友達みたいに沈黙が気まずいなんてこともない。
二人の間には、穏やかな雰囲気が流れるだけ。
そんな関係。血は繋がってないけど、本当の兄妹のような関係。
お互いを、お互いが、一番よくわかっている。