紅松家
勉強の息抜きにと書き始めたものです。
なので亀更新だとは思いますが、よろしくお願いします。
「あたしは………ら……で………」
遠い遠い昔の記憶。
「…なら……僕が……て………から」
状況はなんとなく覚えているけれど、
ところどころ何を言っていたのか記憶から抜けている。
でもこれだけは、はっきりと、鮮明に、覚えていた。
「ありがとう」
そう言って、涙でぐしゃぐしゃになっていた顔を綻ばせて、満面の笑顔を見せてくれたことを。
その笑顔はとても綺麗で儚げで、とても小さかった僕でさえ目を奪われたんだ。
それが、僕たちの始まり。
***
夢の中だった。
とても懐かしくて、なんだか胸が温かくて、不思議な気持ち。
なんだか心地よくてその感覚に身を任す。
「……いっ」
ぼやけたような音が聞こえてくる。
頭の中は朦朧としていたから、ちゃんと考えることができなくてその音から逃れるように寝返りをうった。
すると、さっきまでぼやけていた音がはっきりと輪郭をもって聞こえてきた。
「二人ともっ!いつまで寝てるの!?さっきからうるさい目覚ましがずーっと鳴ってるよ。早く起きなさいっ」
まだ寝ぼけている頭にキーンと響く。
目覚まし…存在を忘れていた。
鳴っていた気もするし、鳴っていなかった気もする。
鳴ってたけど気付かなかったんだろう。オレたちにはよくあることだ。
「う〜ん…眠い寝たいねむ…」
上からいかにも眠そうな声がふってくる。
それと同時にギシッと音がして、灯夏がはしごをおりてきた。
「ひな、私はリビング行くから碧起こして早く来なさいよ」
「んーわかった」
一応もう起きてますけど…。
でも身体がだるくて、なにより夢の中からまだ抜け出せなくてぼーっと寝転がったまま上を見る。
今日の夢はやけにリアルだったな…。
いつもは夢なんてすぐ忘れてしまうのに、今日の夢はまだ頭の中にはっきり残っている。
変だ。
「碧、時間だって!早くしないと遅刻しちゃうよー」
声の方を向く。
オレの双子の妹のような存在である、紅松灯夏が立っていた。
ようなというのは、本当は血が繋がってないわけで。
灯夏は5歳くらいの頃、紅松家に養子として来た。
そうしてオレ、紅松碧の双子の妹となった。
実は灯夏の方がオレよりも誕生日が早いのだが、姉というより妹みたいだから皆にはいつもそう言っている。
灯夏はそう言うといつも怒るけど。
オレはのろのろと起き上がり、ベッドから出て灯夏の隣に立ち、伸びをする。
「おはよー。ほら、早くリビング行くよ」
「おう」
ふと、灯夏を横目で見る。夢にでてきた映像と重なった。
そうか。
あの夢は夢だけど、現実に起こったことだ。
だからあんなに鮮明に頭に残ったのだろう。
遠い、遠い、記憶。
懐かしくなって、灯夏の頭をぐしゃぐしゃと撫でてみる。
「うぎゃー何すんだこのばかっ」
「いや、寝ぐせひでえなと思って」
「しょうがないじゃん寝起きなんだからあ」
「寝相も悪いよな」
「かーっ!うっさいわぼけえ」
手櫛で髪を少し整えながら、灯夏は部屋のドアを開ける。
そのままリビングへ行く。
テーブルの上にはすでに朝ごはんが並べられていて、父さんが座りながら新聞を読んでいた。
「おはよう。今日も二人とも、目覚ましの音に気付かなかったんだって?」
父さんがはははっと笑いながら言ってくる。
「なんかほんと聞こえないんだよね…。なんなんだろあれ」
「そういえば前にテレビで、止めるまで鳴りながら走り回るっていう目覚まし時計があるって聞いたぞ」
「えー、そんなのやだ。めっちゃうるさいじゃん」
顔をしかめながら灯夏は言った。
そうして、いつもの自分の椅子に座る。
オレもそれに続いた。
「うるさいから、効果があるんじゃん?」
「そうだけどさあ…ってか、碧がちゃんと起きてくれれば問題ないんだよ」
「オレだって目覚まし聞こえてないし。目覚ましほんとは鳴ってないんじゃね」
「いっつもちゃんと鳴ってるわよ。はい、じゃあいただきますしようか」
父さんのコーヒーを沸かしていた母さんもテーブルにつき、皆でいただきますと言って、朝ごはんを食べ始める。
紅松家のいつもの朝。
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