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いちにちひとつぶ2  作者: おじぃ
湘南のなつやすみ編
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ハダカのつきあい

 高ぶる鼓動を抑えつつ、俺は浸地より少し遅れて浴室へ入った。(ひのき)で出来た少し大きな浴槽は、人が十人くらい入れそうだ。浸地は浴槽の縁に(かんざし)を用いて丸く束ねた髪を乗っけてもたれ掛かり、ゆったりと脚を伸ばし寛いでいる。俺という狼が襲い掛かることを警戒している様子はない。いや、俺が襲い掛かったところで、さっきのお爺さんたちみたいに返り討ちにされそうだ。


 俺も恐る恐る浴槽へ浸かり、浸地の横に落ち着いた。檜の香りで高ぶる鼓動を少し落ち着かせ、ちゃぽちゃぽと掛け流しのお湯が流れる音が響くが、会話なく暫しの沈黙が続いた。


「広視は最近どう? 悩みとかある?」


 そう訊かれて真っ先に思い浮かぶ悩みは家庭問題だが…。でもそれ相談したら重たい空気になりそうだし、ここは当たり障りない青春らしい話題にしておこう。


「う~ん、そうだな、高校入ってから、中学の時と比べて女子が構ってくれなくなったのは悩ましいな」


「モテたいの?」


「いや、モテたいのは確かなんだけど、それは別として、特に小中学校も一緒だった女子たちに嫌われちゃったのかと不安に怯えてる訳ですよ」


「なるほどね~」


 数秒だけ間を置いて、浸地は右の頬に人差し指を押し付けて何か考えるような素振りで再び話し始めた。


「それはきっと、女の子たちに彼氏ができたとか、広視自身が変わったとかじゃない?」


「俺が、変わった?」


 確かに、ケータイ買ったり、オシャレに少し気を配ってみたり、髪にワックス付けたりするようになったな。今日は祭のボランティアだから半ジャージに白いTシャツというラフで機能的なスタイルだが。でもオシャレとか髪のワックスだって、した方がモテるんじゃないのか?


「うん。でも変わるのは広視だけじゃなくて、高校生って、そういう年頃なんだと思う」


「変わる、ねぇ…。確かにクレペリン検査では情緒不安定って判定されたけど、それは人格を形成する過程だったりすんのかな?」


 補足説明すると、俺が通う湘南海岸学院では、性格検査を兼ね、将来訪れる就活の参考として、どんな職業に向いているかを見極めるためにクレペリン検査を実施している。


「私が高校生の時なんか、恥ずかしい事とか、悪い事もしちゃったりして、いつしかふと過去を顧みると、あの頃の自分はどうしようもない人間だったって、過去を修正したくなるくらいだよ」


「つまり浸地は、今の俺はイタイ人間だと言いたいのか?」


「何を今更。広視はちっちゃい時からイタイ所あるよ」


 グサッ! そりゃ重々承知だけどさ! まあいい、今はそれについてどうこう言うより話を続けよう。


「ってことは、イタイ人間なのが原因で構ってもらえなくなったって訳じゃないよな」


「う~ん、広視が中学から高校に至るまでの過程を知らないから何とも言えないけど、そういうのって、私みたいに後で自ずと解るんだと思うよ」


「う~ん」


「私が言えるのは、今の広視は育ち盛りだってことだ! 迷惑にならない範囲ではっちゃけたり、色んな葛藤をしたりしておっきくなるんだよ」


 浸地は偉そうに言いながら、ポンポンと肩を組んで俺の左肩を軽く叩いた。俺が柔らかい二の腕と、胸の感触にドギマギしていることに気付いているだろうか。


「ところで、浸地が高校生の頃にした恥ずかしい事とか悪い事って、どんな事?」


「それは日を改めて話すよ。せっかく再会出来たんだから、時々会ってお話ししよう?」


「そうだな。じゃあ別の質問。浸地ってCカップ?」


 祭のボランティアで顔合わせした時からずっと気になっていたので、つい間髪入れずに質問してしまった。


「エッチ」


「いや流石にHカップじゃないだろ」


「そうじゃなくて、私をそういう目で見てたんだ、ってこと」


 浸地は頬を赤らめながらムスっとした表情で俺を軽く睨んだ。


「そりゃそうだろ、そういう年頃だし」


 お互いそういう配慮があってタオル巻いてるんだし、浸地だって脱衣所で「後ろ向かないでね」って言ったじゃないか。


「そうだよね、私もね、お風呂入ろうって提案した時は何の気なしだったけど、いざ脱衣所に来ると緊張した」


 浸地は少し照れながらも柔らかく、優しい表情で少し目を細め、幼少期を懐かしんでいるようだ。俺にとっても福島で浸地と過ごした日々は懐かしく、嫌がらせは多々されたが、良き思い出だ。


「ガキの俺なんかに見られるの恥ずかしかってるようじゃ、まだまだだな」


「恥じらいがなくなったら女は終わりなの」


「だな、俺も例え若い女でも露出狂には引いちまうわ」


「でしょ?」


「「はははははっ!」」


「よし、広視、頭と背中洗ったげる! 広視が小さい頃、頭触られるの好きだったよね」


「よく覚えてるな。なんだか気持ち良くてな。じゃあよろしく頼むわ」


 それから俺は、照れ臭いと思いながらも浸地に頭や身体を洗ってもらったり、頭皮や肩をじっくりマッサージしてもらった。当然、大事なトコロは自分で洗ったけど。


 そのお返しに浸地にも同じ事をしようとしたら、ついでにあちこち触るつもりでしょ? と断られた。セクハラ男扱いなんて、全く失礼な話だ。俺のことよく理解してるじゃねぇか。


 せめてもと思い、半ば強引に背中流しをした。もちろん背中以外には触らないよう、欲情を抑えながら。


 それはそうと、浸地の背中って、あんなに華奢で小さかったっけ? 十年の間に俺の方が大きくなったんだな。

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