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いちにちひとつぶ2  作者: おじぃ
湘南のなつやすみ編
6/52

いちごみるく登場だぉ♪

 俺一人しかいない静かな脱衣所の扉の向こうから、わいわいがやがやと賑やかな声が響いてくる。客入り上々! 大事なトコロはタオルで隠して突撃準備完了! 曇りガラスの扉の向こうはパーラダーイス!!


 …の筈だった。


 希望の光が見える脱衣所という洞窟の先は、もわ~っと湯気が全身を覆う断崖絶壁。その先にも地面は続いていると疑わなかった冒険家に突き付けられた残酷な現実。なんて事だろう、俺のにやけ顔は、一気に樹海に迷い込んで絶望に暮れる冒険家のものへと変わった。


 要するに、混浴には、ウラがある。初めて知ったぜ…。


「あたしネ、これ全部入れ歯なのヨ!」


 うゎ、入れ歯外してる…。


「あらヤダ、私の髪はカツラなのヨ!」


 あら、ハゲてらっしゃる。円形脱毛ってヤツですね!


「「お互い苦労が多いと大変ねぇ」」


 見渡す限りお年を召された方々ばっかりやん!!


「あらちょっと見て見て! 若い男の子よ! グンソクちゃんに似てなぁい?」


 やべぇ、おバァさん二人組に目ぇ付けられた…。


「おや本当。美味しそうねぇ。パクッと頂いちゃおうかしら、ソーセージ」


 に、似てねぇよ…。韓流(はんりゅう)スターに似てるなんて言われた事ねぇよ。なんだよ、その『ま○もっこり』みたいなイヤらしい目つき。まるでたった今までの俺じゃないか…。それに、そ、ソーセージって何の事だよ…。ガクガクガクガクぶるぶるぶるぶる…。やだ、怖い、恐いよぉぉぉぉ…。だ、誰か助けて。ひ、浸地はまだか…。


 シャワーを浴びていたおバァさんたちは重たそうに腰を上げて、不敵な笑みでこちらへゆっくり近寄っている。俺は脚が震え、蛇に睨まれた蛙のように動けない。


「ねぇねぇお兄さん、アタシ、『いちご』っていうんだぉ♪」


「アタシは妹の『みるく』だぉ♪」


 嘘だろ。偽名だろ。名前と語尾イタイぜ? 年齢考えろよ。いやむしろこのくらいになるとやりたい放題か?


 それを察してか、二人が見事にハモる。


「「ちなみに『いちごみるく』は、ほ・ん・みょ・う♪ うふふっ♪」」


 うううっ! 浴場は暑いくらいなのに「うふふっ♪」って語尾で全身に寒気が走った。それに『いちごみるく』本名かよ!? ならしょうがねぇなぁこんちくしょう!!


「「アタシたち、さくらんぼ狩りに来たんだぉ♪」」


 さくらんぼ!? まさかおバァさんズ、俺がまださくらんぼを摘まれてないの知ってるのか!? でもな、俺のさくらんぼは可愛い()か美人で綺麗なお姉さんに摘み取ってもらうって決めてるんだ。おバァさんに渡す訳にはいかねぇ!!


 しかし意志とは裏腹に、脚の震えが止まらない。どうする? どうなる俺!!

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