心躍ることを見つけたい
「ごめん、心配かけちゃったね」
「ごめんなさい」
アロハ、オハナちゃんと会えたのは、二人が家出して3日後だった。
藤沢駅南口すぐそばのハンバーガーショップで向かい合って座っている。ソファー席はもちろんアロハとオハナちゃん。
「良かったんじゃねえの? とりあえずは住むところができて」
「うん、そうだね」
「ごめんなさい、私のために」
「大丈夫、大丈夫だよ、本当に。私もこれで良かったと思ってる」
アロハとオハナちゃんは血が繋がっていない。オハナちゃんの生後まもなく、彼女の両親は交通事故で他界し、大学時代の友人であるアロハ父のところに養子として引き取られた。だがアロハの母は家計の負担を嫌がり、今回、アロハとオハナちゃんがアロハ父と交渉して、二人でアパートを借りて暮らす運びとなった。
つまるところ、アロハは実母と喧嘩別れとなった。オハナちゃんはそれに対して強い罪悪感を抱いている。
俺も両親の離婚で親父と離別したばかりだが、家族でも離れるべきだと思えば離れればいい。そのうちまた前向きに顔を合わせる機会があるかもしれないし、ないかもしれない。
「なんだか、生きるのって大変だな」
「うん、でも私は、大変だった分は取り返して幸せになりたいと思ってる」
「俺も、まあ、みんなこれからだな、まだこの先いろいろあるだろうけど」
アロハとオハナちゃんにあのビーズを渡そうとも思ったが、あれは幸せや痛みを分け合うビーズ。現状では俺もとても大変な状況で、分け合ったところで効果が見込めない。
まあ、でも、一応、俺の気休め程度に渡してみるか。あくまでも俺の気休めに。
「なあ、これ、やるよ」
言って俺は、バッグからビーズ細工のセットが入った箱を出してテーブルに置いた。
「なあに? これ」
アロハが言った。オハナちゃんも「なんだろう」と言いたげに首を傾げている。
「これ、中身はビーズなんだけど、これをテグスに一日一粒ずつ通すと運気が上がるんだ」
と、なんとなくな説明をしてみた。運気が上がるかどうかはビーズを渡した俺に懸かっているが、俺が今より大変になったところでアロハとオハナちゃんを巻き込むことはない。
「え、そうなんだ、すごい!」
こういうのが好きなのか、オハナちゃんが目を輝かせている。
あ、そうか、そうだ、そういえば俺、恋愛以外で何かに関心を示して心を躍らせたこと、なかったな。
「今、オハナちゃんが喜んでくれたのを見て思ったんだけど、そういえば俺、将来の夢っていうの? 叶えたくて心躍ることがなかったなって」
「ああ、そっかあ、そういえば私もそうだなあ。料理は好きだけど。オハナちゃんは?」
「うーん、このビーズみたいなご利益のあるものとか、占いは好きだなあ」
「そっか、二人とも、ちゃんと持ってるんだな、そういうの」
「持ってるって言っても、私は趣味程度にだけどね」
「うん、私もかな」
「俺はほぼ無趣味だから、それがキツイんだよ」
「見つかるよ、そういうのは、行動すればね」
「行動?」
「そう、海行ったり山行ったり街を歩いたり、いろんな人と触れ合ったりしていく中でね。って、偉そうなこと言ってるけど、私もまだまだそういうのを見つける旅の途中だけどさ」
アロハが珍しく、俺に向かってニッと笑った。
「そっか」
「ま、とりあえず今はちょっとゆっくりして、それでも心が晴れなければ思い切って動いてみればいいんじゃない?」
「そうだね、広視くんも大変だから、ゆっくりして、みんなでいっしょに進もう?」
「うん、そうだな、ありがとう、二人とも」
礼を言うと、アロハとオハナちゃんはやわらかく笑んだ。