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出口の見えない闇
「おざーす、きょうはよろしくおなしゃーす」
翌朝9時30分、引っ越し業者が来た。チャラくて歪んだ、感じの悪い連中だ。
業者選びが良くなかったのか、引っ越し作業員たちはドタドタと雑に家財道具を運び出し、トラックに積み込んでゆく。
そりゃ、業者からすればこの家の思い出などどうでもいいことで、雑だろうがなんだろうがさっさと作業を終わらせたい。ただそれだけだろう。しかし本当に酷い業者だ。この家を新築してアパートから越してきたときに利用した業者とは大違い。引っ越し業者もピンキリだ。
慣れ親しんだ家からは無情に家財道具が運び出され、部屋の生気はまるで魂を強盗されたように、一気に失われていった。
しばらく俺はそこで、茫然と座り込んだ。
呆気なかった。もう、何を言っていいのかわからない。この状況の比喩とか、何かを考える余裕はなかった。
空になった部屋はなんだか悲しそう。
ずっと過ごしてきたこの家での暮らしと家族揃っての暮らしが、終わりを告げた。
それくらいだろうか。
好きな人にフラれ、家は出なきゃいけなくて、カネもない。
出口の見えない闇だ。