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いちにちひとつぶ2  作者: おじぃ
湘南での日々
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自殺なんて考えたことないんだろうな

 無情にも時は流れ、長く暮らした鵠沼の実家を発つ前夜が来た。


 黙々と家財道具を段ボールに詰め込む金曜の夜。


 住み慣れた土地をなぜ離れなければならないのか。


 出て行きたくないなら行かなくていい。


 母親にはそう言われた。


 だがこのまま父親と暮らしたら間違いなく毎日殴り合い怒鳴り合いで精神崩壊する。


 更に言えば俺自身に経済力がない。


 それらをわかっていて、母親はそういうことを言う。


 それでも引っ越しを決めて段ボールに荷物を詰め込んでいるのは自分だろうと第三者は言うだろう。とても恵まれた第三者だと、俺は思う。自殺なんて考えたことないんだろうな。


 天井から俺を照らす丸いカバーに覆われた蛍光灯とも明日でお別れだ。消灯するとしばらく青い光が灯る。いまでこそ当たり前だが、9歳で初めてそれを見たときは驚いた。今までどんなときも俺を照らしてくれた。本当に世話になった。ありがとう。


 できることなら、別れたくない。


 明日の今ごろ、自分は別の場所での生活を始めているという実感が湧かない。


 湘南台という、市内でありながらあまり馴染みのない場所。1ヶ月前に内見するまでは存在さえ知らなかった賃貸マンション。


 漫画の単行本、教科書、ノート、文房具、服、ラジカセ、荷造りは淡々と続く。


 次は学習机に置いてあるビーズのセットを入れる番。


 さて、この家でテグスに通す最後の一粒だ。何色にしようか。


 いずれ穏やかな日々が送れるよう、リラックスカラーの緑を選んだ。


 針に糸を通すより簡単なそれを、今回はゆっくりゆっくりと通した。


 通し終わった。集中力が途切れると、母親が荷造りする音がやけに耳に入る。雑然とした不愉快な音。荒んだ心が露呈している。


 荷造りは深夜2時半までかかり、22時にはドラマを映していたリビングの液晶テレビはアニメを映していた。


 その放送が終了したところで、ようやく床に就いた。テレビやベッドは引っ越し業者に運んでもらう予定だが、ここでの使用は最後だ。


 惜しみながら照明をオレンジにすると、それに混じって青い光が発生した。8年間慣れ親しんだ光景だ。


 ここ最近は色々なことがあった。浸地との再会は嬉しかったと同時に苦い思い出で、福島合宿での交流やオハナちゃんのこと、結果的に良い方向へは歩めなかった。


 長い長い地獄のような日々は、あとどれくらい続くのか。


 俺はそんな日々を送らなきゃいけないくらい悪事を働いたのか。


 そりゃ、まったく何もしていないといえば大嘘だが。


 それとも、引っ越しがきっかけで何かが好転するのか。


 その期待は早計だ。期待は裏切られるもの。


 期待するんじゃなくて、希望する未来に自分で進むしかない。


 どんな状況にあっても、しんどいどころじゃない、死にたいどころじゃない。絶望しかない、そんな状況であっても。


 現実というものは、おおよそ厳しいもの。


 逃げる逃げないの匙加減もあるが、どうしたって避けられないものもある。


 もしいま俺がこの家での健全な暮らしを手にするなら、すぐに芸能人か作家か、何か自分で大金を稼げるようになって、想像もつかないレベルの重圧をかけられても受け止めながら受け流す。そんなことをしなければならないだろう。


 ならいますぐそこへシフトするべきか。


 それはどうだろう。


 いまはもう、精神状態が著しく乱れている。


 だから難しいことを考えるより、世話になった家や家財道具に感謝する、そんな夜にしよう。そのほうが、絶対に良い。


 お読みいただき誠にありがとうございます。


 更新遅くなり大変恐縮です。


 次話の執筆を始めております。

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