夜の片瀬海岸で
俺と浸地は茅ヶ崎の街を当てもなく散策。砂浜で伊豆半島に沈む夕陽を眺めながら歩き、雄三通りから駅へ戻って電車に乗った。浸地は小田原行き、俺は東京行き。
藤沢の自宅に戻ると相変わらず荒廃した現実が待ち受けていて、当たり前だが事態は好転していない。
この家で暮らすのはあと何日か。
海に近い閑静な住宅街は、すぐそばで繰り広げられている都会の喧騒を忘れさせてくれる。少し広い家も、近所にアロハとオハナちゃんがいることも、俺にとってはこの土地を好きでいる要素だ。
引っ越し先の湘南台は同じ藤沢市内とはいえ雰囲気が全く異なる。
字の通り台地で、海の雰囲気はない、言ってしまえば首都圏における平均的な普通の街。
気分がモヤモヤした俺は家を出て、江ノ島と水族館に挟まれた浜辺に歩いて来た。
砂浜に沿ってコンクリートが棚田式に詰められていて、腰を下ろしやすい。
「広視くん」
潮で少しベタつく夜風に吹かれていると、背後から誰かが俺を呼んだので、座ったまま顔だけ後ろを向いた。
「オハナちゃん」
「隣、いい?」
「うん」
俺が言いながら首肯すると、オハナちゃんは俺の左隣にそっと腰を下ろした。福島の夜を思い出す。
観光客が引き上げ、人がまばらな砂浜。シーキャンドルが数秒おきに眩く照らす。
見上げれば、街にしては綺麗な星空。瞬く星たちを見ていると、意識が空へ吸い上げられるような感覚になり、思わず鼻唄を口ずさみたくなる。
「坂本九?」
「えっ、もしかして俺、口ずさんでた!?」
「うん。『見上げてごらん、夜の星を』」
「うん、歌おう」
俺は頬笑みながらオハナちゃんに言った。キモくないだろうか。
お読みいただき誠にありがとうございます。
なんと1年以上も更新していませんでした……。
申し訳ございません。
少しずつ間隔を早めてまいります。