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いちにちひとつぶ2  作者: おじぃ
湘南での日々
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思春期からサナギになるとき

「俺さ、こんど引っ越すんだ」


 店を出て歩道を東へ進み始めたとき、ラーメンを食べ始めた頃から言おうと思っていたことを俺は口にした。


 静かな店内でする話ではないなと空気を読んで、ここで言ってみた。


「引っ越す!? どこに!?」


 と、驚いているように見せかけて、うちの家庭事情を知る浸地にとって俺の引っ越しは想定内なんだと思う。


「湘南台」


「あ、湘南台か。もっと遠くに行っちゃうかと思った」


「遠くに行ってほしかったのか」


「肯定したらずんとショック受けるでしょ」


「……」


 あぁ、受けるよ。荒んだ環境下にいるのに浸地にまでそんなこと言われたら本気で自殺を考えるくらいに。


「図星だ。私もせっかく再会できたのに、また会えなくなるのは寂しいな」


 なんだよ、俺のことフッたくせに。


 俺はそう思っても何も言い返せず、黙っているしかできなかった。


 浸地と並んで、なるべく幅を取らないように知らない裏道を歩く。


 どこに住宅があるのかわからないくらい大きな木々が生い茂る広い庭と人通りの少なさが開けていて明るい鵠沼の住宅街とは対照的。


 小田原に住む浸地はなぜこんな場所を知っているのかと問うと、茅ヶ崎に住む友だちと何度か歩いたからと答えた。


 観光スポットでも娯楽施設でもない、ただただ落ち着いた時間が流れるこんな場所を歩くという過ごし方もあるんだと知ると同時に、やっぱ浸地は大人の女性。


 出かけといえば明確な目的地があって、わいわいがやがや楽しめる場所を選ぶ、ごくありきたりで安直な思考の俺には手が届かない存在だと、痛いほどに思い知らされる。


 粋がって髪型や服装をこだわってみたり、やさしい言葉を取って付けてみたり、浮足立ってる自分には心のどこかで気付いている。


 そんなスカスカな姿を同年代の大半が美徳だと思ってて、でもそれは大人から見たら滑稽こっけいで、嘲笑あざわらう対象でしかない。


 背伸びした自分が実は退化した自分だって気付いた、思春期の出口。まだ翼は広げられないけど、サナギになった、そんな気がした。


 お読みいただき誠にありがとうございます!


 更新遅くなりまして大変恐縮です。


 自分の家のことや失恋、友人のこと、複数の荷を背負った広視たちの物語が次のステップへギアチェンジする回となりました。


 当方としてはラノベとは異なる書き味といった感覚ですが、日常のリアルとちょっとしたファンタジーに今後ともお付き合いいただければ幸いです。

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