失恋相手と待ち合わせ
『広視、ちょっと会わない?』
翌朝起きたら、浸地からメッセージが届いていた。
フラれた相手に呼び出されるとは何事かと思いつつ合意し、待ち合わせ場所の茅ヶ崎に足を運んだ。
だが茅ヶ崎という街は湘南周辺の住民にとって憩いの場だったりする。俺が住んでいる藤沢や隣の鎌倉ほど名所がなく、よって観光客は比較的少ない。それでいて小洒落たカフェやバー、レストランはかなり多く、落ち着いて会話をするには最適な土地だ。
正午過ぎ。乗り慣れた東海道線を降り、サザンオールスターズの発車メロディーを浴びながら改札口へ続く階段を上がる。改札口を出ると正面にガラス張りの駅ビルがあり、ショーウィンドウの役割を果たすそれには店内側からサーフボードや折り畳み式自転車が立て掛けられ、その上から藁のようなものが端から端まで垂れ下がっている。
さて、浸地はまだ来てないか? それとも視界の範囲内にいる?
いくら幼馴染みとはいえ、フラれた相手に会うのは気まずいが、誘われて断るのも傷を深くしそうで気分が悪い。
「わっ!」
以前もこんなことあったような。背後から女性に抱き付かれ、胸を押し当てられ髪に頬や首をくすぐられる事象。
「さすがに駅では恥ずかしい」
ていうかなんでフッた相手にこんなことできるんだよ。
「ひひひー、大丈夫だよぉ。チャラ男がお姉さんにからかわれてるくらいにしか見えないから」
「チャラくねぇし」
「そっか。うん、そうだね。じゃあどっか行こっか!」
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