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いちにちひとつぶ2  作者: おじぃ
福島のなつやすみ編
29/52

合宿開始!

「私たちもその合宿、参加するよ。ねー祐紀ー」


「うん! ウチ等3年は受験控えてるのに大丈夫かなとか思うけど気にしな〜い」


 いやいや少し気にしたほうが…。ってかこの口振りからして若干気にしてるよな。


 来週から近くの山にある旅館で行われる軽音部の合宿について話したら、美里さんたちの学校も参加予定であると判明した。二人とも、軽音部だったんだ。


 時刻は17時7分。そろそろ陽が陰り始める頃。お店にはなんやかんや3時間くらいお邪魔している。昨日知り合ったばかりの者を手厚く持て成してくれる温かさを実感しているところだ。


 俺はお店の皆さんや美里さんに挨拶して、その後すぐに来た最終バスで親戚宅へ戻った。田舎のバスは終わりが早い。きっと周辺にある観光施設の閉場時間に合わせているのだろう。


 ◇◇◇


 一週間が過ぎ、俺は叔母に車で送ってもらい、山間やまあいにある定員約300名の広い旅館に来ている。合宿開始だ。今日までの間、俺は毎日食堂に顔を出し、祐紀さんやご家族、美里さんともすっかり打ち解けたが、祐紀さんのお父さんから『彼女居ないの?』と毎日のように問われたのには困った。俺にもプライドがあって、失恋直後です、なんて言えなかった。


 宿題以外やる事がないので、俺は旅館に入り、フロントのソファーでコーラを飲みながら寛ぐ。ガラス張りなので眺望が良く、眼下には森を隔てて全体像を把握出来ないほど雄大な猪苗代湖が見える。30分ほど寛いでいると、大型の貸し切りバスが2台入って来た。バスもハイブリットの時代なんだな。


 バスからは見慣れた顔触れが続々と降りて来た。うちの学校の生徒と顧問だ。幼少期から慣れ親しんだ場所に部活の面子が揃うのは、不思議な気分だ。


「Ah、神に導かれし我は今、より神に近しマウンテンに光来せし」


 訳の分からない事を言っているコイツは、俺と同じバンドのギタリスト、田村神太郎たむらしんたろう。親がどんな人間なのかつい想像してしまう名前だ。ついでに名前の響きと見た目がミスマッチだ。


 金髪に染めててビジュアル系バンドに居そうな細身のイケメンだが、俺に負けじと色々残念なヤツだ。出身は俺や烏帽子姉妹が住む藤沢ふじさわ市の二つ隣にある、七夕まつりが有名な平塚ひらつか市だ。


「ハッハッハッ! 山だ! 山に来ると地が騒ぐわ!」


 こっちはガタイが良くこんがり焼けた肌で山が似合う、ドラマーの水城隆盛みずきりゅうせい。俺がコイツとケンカしたら100パー負ける。殴ってもガッチリした筋肉に弾かれるだろう。出身は藤沢市と平塚市の間にあり、俺たちが通う湘南海岸学院のある茅ヶちがさき市。サザンオールスターズの桑田佳祐さんや、歌手の加山雄三さん、宇宙飛行士の野口聡一さんなど、中規模な街でありながら出身著名人が多い。


「おーす! 二人ともよく来たな!」


「神が音楽を求むならば、我はいずこにも光来せし」


「ハッハッハッ! 広視はじぃちゃんみたいな事を言うなぁ!」


 俺たちのバンドはこの二人と、ベーシストの烏帽子姉妹、ヴォーカルの俺の5人編成だ。


「居た性欲の塊」


 ムムッ! 毎度出合い頭に失礼な事を言うのはアイツしか居ない!


「アロハちゃん、やめなよ。いつも失礼だよ」


 そう、烏帽子姉妹の姉、アロハだ。んで、俺をフォローしてくれたのはオハナちゃん。今日もオハナちゃんは可愛いなぁ。髪型や白いワンピースと麦藁帽子が浸地を連想させるが、清純でおしとやかなイマドキ珍しい女の子だ。


「そうだそうだ! 失礼だぞ! オハナちゃん、フォローありがとう!」


「ふふっ」


 いやぁ、やっぱオハナちゃんは可愛いなぁ。この笑顔に墜ちる男は多いぞ。


 美里さんに対してもそうだが、失恋直後で情緒不安定な俺は、今は恋には踏み切らない。


「ふんっ! 事実じゃない」


「んも〜」


「あっ!? ちょっと! さっき部屋に着くまでは静かにしてって言ったじゃない」


 アロハのハンドバッグから発っせられた牛のような声の主はアロハのペット、ウシガエルの『ぴょこたん』。外出時はクリアプラスチック製の小さな虫カゴに入れて潰れないようにしている。虫カゴの中には水を含んだ脱脂綿が敷いてある。


「おーすぴょこたん!」


 俺はアロハのハンドバッグに向かって言った。ぴょこたんの姿は確認出来ない。


「んも~」


「さっき電車の中でも鳴いちゃったんだけど、たまたま電車の電気が消えてて誤魔化せた」


 湘南海岸学院軽音楽部の部員は約150名。神奈川県から3台のバスで行くには環境負荷が大きいため、学校の最寄駅である茅ヶ崎駅から貸し切り電車で猪苗代いなわしろ駅まで来て、貸し切りバスに乗り換える。


 きっとぴょこたんは電流の方式が直流1500Vから交流20000Vに切り替わる死電区間デッドセクションで鳴いたのだろう。場所は確か東北とうほく本線の黒磯くろいそ駅だ。関東地方の死電区間は他に常磐じょうばん線や水戸みと線にある。


 デッドセクションという読みは中二病的に格好付けているのではなく、本当にそう読むのだ。


 ぴょこたんの鳴き声に周囲の視線を浴びたが、男子三人で風呂上がりの牛乳について異様な盛り上がりトークをして誤魔化した。


 ご覧いただき本当にありがとうございます!


 鉄道ファンの方、団臨は架空のスジですので調査しても恐らくありません! 車両はイルカ模様の485系という設定です。

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