ハツラツ少女!
背後からの黄色い声に振り返ると、50メートルくらい離れたバス停の前にポニーテールにラフな黄色いTシャツと青いジーンズ生地のショートパンツというアクティブな格好をした女の子が手を振っていた。
「祐紀ちゃーん!!」
「おーっす!!」
美里さんがユウキちゃんと呼ぶ女の子は小走りでこちらに寄ってきた。
「そちらは彼氏さん? やるねぇこのこのっ!」
美里さんの左頬を右人差し指でぷにぷに突く彼女。俺が彼氏だって? いやいやそんなぁ、照れるなぁ。
「ううん、さっき知り合ったばっかりの人だよ。私が白鳥橋でマムシに噛まれそうになったのを助けてくれたから、お礼に家でご飯食べさせてあげようと思って」
屈託なく否定する美里さん。確かに彼氏じゃないし友達ですらないだろうから否定されて当たり前だけど、なんか落ち込むわ~。さっき一期一会って言われた事もあって余計にず~んとくる。
「おぉ、命の恩人さんだね!! 美里を助けてくれてありがとう!! 私、勿来祐紀! 祐紀って呼んで!」
美里さんに俺の武勇伝を聞かされた祐紀さんは、目を丸くして驚いた後、爽やかな笑顔で自己紹介をしてくれた。溌剌として美里さんとは違う魅力がある。なんだか俺も元気出てきた!!
「磐城広視です!! 神奈川から来ました!!」
「神奈川かぁ、遠いなぁ。観光で来たの?」
「観光というよりは、親戚に顔出しってところっス」
それ以外にも理由はあるけど重苦しい空気になりそうだから言わない。
「へぇ、じゃあ今までも何度か来てるの?」
「はい。年に一度は必ず来てます」
「じゃあ前にも会ったことあるかもね!」
「そうっスね! 親戚の家もここから近いし」
「広視くんと祐紀ちゃん、相性良さそうだね! 私と初めて話した時、広視くんテンパってたもん」
言って、微笑みながら俺たちを見ている美里さん。確かに祐紀さんとは割と自然な会話が成立しているような。でも俺は…。
「俺は美里さんとも仲良くなりたいです!!」
「うん! 仲良くしようね!」
すると美里さんは右手を差し出し握手を求めてきた。俺は躊躇うことなくその手を握ると、その華奢で柔らかな感触に胸が高鳴った。
「よろしくです!!」
「うん、よろしくね! ほら、祐紀ちゃんも!」
「あっ、うん」
美里さんの左手に引っ張られた祐紀さんは、少し慌てながら繋がったままの俺と美里さんの手に右手を覆い被せた。
途端、美里さんは、ぐすん、と鼻をすすった。
「美里さん?」
「どうしたの?」
「ううん、なんでもない」
どういう訳か、美里さんは笑顔のまま涙を流してした。
「なんでもないって言われても」
祐紀さんは同意を求め俺に視線をくれた。
「ですねぇ」
美里さんに泣きたくなるような事情があるのは確かだろうけど、祐紀さんもそれを知らないようだ。なのにさっき知り合ったばかりの俺が踏み込む気にはなれない。
「ごめんね、本当になんでもないから!」
言って左手で涙を拭う美里さんは、同時に何かを振り切ったようにも見えた。人には知られたくない過去くらいあるものだ。 美里さんがそう言うなら、ここは空気を換えるか。
「もしかして、俺に出会えたのが嬉しくて泣いたんですね!?」
「うん、そうかもね」
良かった、冗談に応えてくれて。
「え~、ホントかなぁ?」
「ホントですよ! きっと祐紀さんも俺に会えて良かった! って泣けるくらいに思える日が来ますよ!」
「どうかなぁ、ま、そんな日が来るのを楽しみにしてるわね!」
「うっす! 頑張りまっす!」
いやぁ、しかしいいねぇ、今の俺、両手に花じゃん! 慣れない状況下で中二病の症状が出ないようにくれぐれも注意しなきゃな。
露骨に中二病の症状を発症していることに気付いていない広視であった。
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更新遅れまして申し訳ございません。
しばらく福島での夏休みが続きます。