DEATHです!
しばらく後、浸地はいつの間に白いワンピースから黒いTシャツに着替えて、アツアツの一口ギョギョウザを俺の待つテーブルまで運んできてくれた。
「お待たせ~」
「おぉ、美味そうだな! 緑と黄色と赤い皮の三色ギョウザですか!」
「うん。緑のはほうれん草を練り込んで、黄色の皮はカボチャを練り込んだカスタードクリームギョウザで、赤はパプリカを練り込んだチョイ辛ギョウザだよ。ちょっと苦いかもしれないから、醤油付けて食べてね」
「は~い」
これは信号の色だな。じゃあまず緑からいただこう。
「いただきまーす」
「はいどうぞ」
俺の「いただきます」に笑顔で返事をした浸地は、やっぱり可愛い。
「うん、うまい! 外はパリパリ、中はジューシー!」
最初に口にしたのは緑のシャキシャキ野菜たっぷりギョウザ。キャベツとオニオン、ニラとガーリックのパンチが効いている。
「でしょでしょ? この調子で黄色と赤もパクッといっちゃって!」
俺は言われるがまま黄色と赤のギョウザを口にした。黄色はおやつにピッタリの甘いクリームギョウザ。続いて赤いチョイ辛ギョウザもパクッとな。
……。
…!!
「ぎゃあああっ!!」
やべぇやべぇなんだべこれ!? 頭が燃える!! 食道と胃も燃える!! 徐々に辛味がでるのは予想してたけど、それがどんどん強くなってく、かつて体験したことのない辛さだ!!
「はっはっはっ! 掛かったね坊や!」
浸地は辛さに悶える俺をざまぁみろと言わんばかりに爆笑しながら見ている。バカだな俺。コイツが何か企むなんていつものことだったじゃねぇか!
「水! みず! ミズ! Water!」
「Water! ってドヤ顔でネイティブっぽく言う余裕があるならまだ平気だね!」
「平気じゃねぇ! いいから早く水よこせMs Hitachi!」
「はい水」
ゴクッゴクッゴクッ!
俺は受け取ったカップオブウォーター、つまりコップ一杯の水を一気に飲み干した。
「ぷはぁ、ああっ!? ひぎゃあああ!!」
なんだこの水!? ギョウザより辛いんじゃね!! やべぇよ、俺、浸地に殺される!!
「この水もスパイス入りだったりして。てへっ☆」
「てへっ☆ じゃねぇよ」
可愛いじゃねえか!
「でもリアクション大袈裟じゃない?」
「大袈裟じゃねぇよ。浸地もギョウザ食べて俺にくれた水と同じの飲んでみ?」
「どれどれ?」
言って浸地はギョウザをパクッと一口、続いてギョウザを飲み込まないうちに朱色の水で流し込んだ。その間わずか3秒程度。
「う~ん、我ながら旨味があってなかなか…」
更に5秒後、浸地の額に次第に汗が吹きだし、顔が真っ赤になった。こんな浸地、初めて見た。
「…ごめん広視。私が悪かった」
言い残して、浸地はスタスタとキッチンへ小走りして行った。俺も後に続いて、ウォーターサーバーのクリーンな水を口中で舐め回してから飲み込んだ。
「「ぷはあっ! 水うめぇ!」」
それでも口から胃に至るまで焼けるような強烈な痛みが残る。
「なんだべこのスパイス。タバスコより半端なく辛いじゃん」
「デスソース」
「デスソース?」
「一般的なスパイスより40倍辛いらしいよ。ドンキで売ってたから気になって買ってみた」
言って、浸地はタバスコのビンに似たデスソースの小さな容器を差し出した。
なになに、鍋一つに二滴が適量とな。
「浸地、ギョウザ一個に何滴入れた?」
「う~んとね、三滴!」
一口ギョウザに三滴!? コイツ何考えてんだ!?
「水には?」
「五滴だよ~」
「五滴!? 鍋一つに二滴が適量なのに、コップ一杯に五滴!?」
「ごめんごめん。あんなに辛いとは思わなかったんだ。お詫びに広視のいうことなんでも一つ聞くよ」
ん~、せっかくだから冗談じゃないけど冗談っぽく言ってみるか。
「じゃあ、俺の彼女になってくれ」
やべぇ!! いざ言ってみたら途端に恥ずかしくなってきた!! あの浸地に俺が告白!? いやいや有り得ないだろ!! 自分でやったことだけど!!
「え?」
ああもう後戻りできねぇ!! こうなったら男らしく想いをぶちまけてやろうじゃねぇか!!
デスソース、半端なく辛いです。勇気のある方もお試ししないほうが良いかもしれません。ちなみに小田原のドンキにデスソースが売っているかはわかりません。