夏の小田原、貴女と再び
「まもなく小田原~おだわらで~す。今度の新幹線は、こだま号、新大阪行きで~す」
目が覚めると、目的地の小田原に到着直前。ここは小田原城という割と有名な城がある城下街で、蒲鉾も有名。新幹線の発祥地でもある。隣町は温泉で有名な箱根である。
眠い目を擦って電車を降り、ホームから階段でコンコースへ上がる。
14時10分、沿岸部で海風が吹いているとはいえ、電車を降りると汗が噴き出して目眩がするくらいメッチャ暑い。俺はこんな暑い中浸地を待たせてるのか。
浸地を待たせている罪悪感から速足で改札を出ると、高さ10メートルくらいありそうな小田原提灯のぶら下がるコンコースがある。周囲を見渡して浸地を探すが、まだ来てないのか見当たらない。
早く会いたいけど、緊張して喋ったら噛みまくりそう。それ以前に会話を切り出せるか不安。浸地から話しかけてくれても会話のキャッチボールが上手く出来るか自信がない。
ビタッ!
「ん!?」
突如、冷たくて柔らかい手に顔を覆われた。
「キミはだぁれだ!?」
お前が誰だよ!? っていうかあなたは知らない人にそういう事するんですか!?
とツッコミたいところだが、浸地だと判りきっているので逆にノッてやろう。
「俺は、え~と、誰だっけ?」
なんか上手い言葉思いつかないな。
「う~ん、とりあえずイタイ子だよ!」
はい、重々承知でございます。
顔面を覆っていた柔らかい両手から解放されて視界が戻り、俺は浸地の方へ振り向いた。
「よっ! 二日ぶりっ!」
「ぅす」
やべぇ、白いワンピースにサンダルと麦わら帽子って、田舎の少女? ってか小さい頃と同じ格好だな。そう、俺が初めて胸を焦がした十年前、小学一年生の夏と同じ格好だ。六年生の浸地は少し胸が膨らんでいて、俺は目のやり場に困りながらも、チラチラとワンピースの隙間を覗き見てたっけ。
「え~、なんかぎこちな~い」
会えなかった十年間、一緒に遊ぶ度にイタズラされて泣かされた悪ガキ浸地はトラウマの元凶だったって自分に言い聞かせて、自分に嘘つき続けて、おとといのボランティアでもう一生会えないと思ってた浸地と十年ぶりに再会できたのが嬉しくて、ボランティアが終わって一緒に銭湯行って、ふたりで貸し切り風呂に入った時、俺に何か悩みがあるのを見抜いてくれて、やさしい声をかけてくれて、居場所を与えてくれたのがすごく嬉しくて、ベッドで転げ回るくらい嬉し過ぎて、きょう会ったら緊張しまくって、上手く喋れないんだよ。
なんて言えないよな。
「う、うるせぇ、色々難しい年頃なんだよ」
やべぇ、やっぱ俺、浸地のこと変わらずに好きだわ。いや、ちっちゃい時より好きだ。
見た目も好みだけど、なんかこう、会っただけで、いや、何処に居ても思い浮かべるだけでざわざわ胸騒ぎがする。
「青春真っ盛りの高校生だもんね。さ、暑いから早く家行こう! まぁ家も節電してるからそんなに涼しくないけどさ」
困ったな、俺みたいなガキっぽいガキに、5歳も年上の女性への恋なんて叶えられるだろうか?