時限爆弾、爆発!
落ち着け広視。二人を護るにはどうすれば良い? 答えは簡単だ。二人を逃がすんじゃない。むしろ二人をここに残して、俺がパイプを持って、あの広い庭に置いて来れば良いんだ。
止まれ全身の震えよ、止まってくれ!! 女の子二人くらい護れないで何が漢だ!!
俺はブルブル震えたまま立ち上がり、けれどなるべく振動を与えないようにそ~っとパイプを持ちながら玄関の方向へ向かった。
「広視!? どこ行くの!?」
「広視くん!!」
二人は心配そうに俺を見ている。
「二人とも、ここで待ってて。コイツは俺がなんとかするから」
恐いけど、二人を不安にさせないため、努めて冷静に言った。
「だめ!! これで広視が死んだら呼び出した私のせいじゃない!! そんなの絶対に許さないんだから!!」
アロハは言いながら後に付いてきた。更にオハナちゃんもそれに続く。
「大丈夫、死んだりしないから」
だから、付いてくるな!! 巻き込まれるぞ!!
「死ななくても、怪我でもしちゃだめ!!」
ギュギュッ!!
うおっ、背後から姉妹に抱き着かれた!! 背中に異なる感触の弾力が!! 抱き着いた二人は、お互いの身体を縛るようにグッと力を込めてゆく。あぁ、天国だぁ。
しかしなんなんだこのシチュエーションは!? 清純清楚なオハナちゃんだけじゃなくて、俺を侮辱して罵倒しまくるアロハにまで抱き着かれるなんて…。やべぇ、胸のドキドキ半端ねぇ。女の子ってこんなに華奢なんだ…。
でも…。
「放して。じゃないと二人ともヤバイぞ」
「ダメ、離さない!! 爆弾は私が処理するから広視は逃げて!!」
アロハが、侮辱王女アロハが、俺のために泣いてくれてる!! ありがとな!!
「私も、頑張って処理する!!」
オハナちゃんも泣いてくれてる!! ありがとうオハナちゃん!! なんだか俺まで泣きたくなってきたよ!!
アロハもオハナちゃんも絶対護るからな!!
「ありがとう。でもやめときな。もう爆発寸前だから早く庭に置いてこないと」
しかし、時、既に遅し。恐れていた事態が起きてしまった。
ベチャッ!!
「うううううう!!」
食われる、俺、食われる!! 息がっ、息ができない!! 前が見えない!!
「「きゃーっ!!」」
うるせぇ!! 耳元で悲鳴上げるな!! と、悲鳴を上げたのがアロハだけなら言っていただろう。でも身も心も高級ワイングラスのようなオハナちゃんにまでそんなこと言えないよ。
ドスッ!!
二人は悲鳴を上げると同時に俺を突き放した。そりゃこんなの見たらそうするよね。
ひんやりヌメッとしたものに顔を覆われてパニックになった俺はひたすら呻き声を上げてその場で転げ回った。12年前の恐怖、再来。
ぴょこん!
よっしゃ、顔面から離れてくれた!
「はぁ、はぁ、窒息死するかと思った」
パイプから飛び出して俺の顔面をまるごと覆った時限爆弾、ウシガエル。5歳の時に浸地に投げ付けられて以来だぜ。
ウシガエルとは、迷彩色をした、ちょうど顔面を覆うくらいの大型のカエルで、池や沼の周辺で、牛のように「ぅも~ぉ」と鳴く。烏帽子家の庭にも池があるので生息していてもおかしくない。
俺はパイプに詰まったコイツを逃がしてやろうと庭に向かったのだが、姉妹に抱き着かれて歩みを止められ失敗。でも俺を心配してくれた二人の気持ちは嬉しい。
ウシガエルは寝転ぶ俺の腹の上にずしっと座り込んでいる。どうする事も出来ない俺たち三人は、ただウシガエルの動向を見守るしかない。
ノソノソノソ…。
やばい! ウシガエルが俺の下半身に向かって匍匐前進し始めた!
俺は慌てて立ち上がると、ウシガエルがジーンズの中に滑り落ちた。
しまった、少しキツイからってベルト一段階緩めとくんじゃなかった!!
「やべぇやべぇやべぇ!!」
オチン食われる!! タマタマ食われる!!
「「きゃああああっ!!」」
ジーンズを脱いだら再び悲鳴を上げたアロハとオハナちゃんは、両手で顔を覆いながらも指の隙間から右目を少し出している。イヤン、そんなに見ないで。
「くそっ、離れろ!」
口で言ってもウシガエルに触りたくないから払い除けられない。
あたふたしているうちにウシガエルは太股まで下り、再上昇しようとノッソリ這い上がってくる。このままだとオチンにダイレクト接触だ。カエルに睨まれた弱虫な俺は、コイツを振り落とすために走り回って抵抗するしかなかった。
やめてくれ、こんなの誰得だよ。男の局部だぜ? あ、さっきから走り回る俺を頬を赤らめながら興味深そうにじっと眺めてる姉妹が居るな。
ピタッ!
俺の念が通じたのか、ウシガエルは歩みを止め、俺をじっと見ると、なぜかニンマリした不敵な笑みを浮かべたように見えた。わかりましたぜ、ダンナ。にひっ。みたいな表情。
ピョコン!
「きゃあっ!」
わお! ウシガエルの野郎、アロハの小さな胸に飛び付きやがった! これは目の保養になりそうな予感!
「いやああっ! 助けて! 助けてぇぇぇ!!」
ストン!
アロハは恐怖のあまり床に尻餅をついた。
しょうがねぇなぁ、俺としてはもうちょっと見ていたかったが、助けてやるか。
重たい腰を上げた俺は後ろへ数歩移動し、アロハの左胸にくっついたウシガエルに手を伸ばした。
ピョコン!
あ、ウシガエル逃げた。
むにゅっ!
「あっ!」
なんかアロハがカワイイ声出した。
あれ? このハンディーサイズの柔らかくて弾力のある感触は何? いや、判ってるんだけどさ。
「ごめんなさい」
とりあえず謝っておこう。
ズコッ!!
「ぅおおおおおお!!」
無言で表情も見えないアロハに急所を膝蹴りされた!! 下半身トランクス姿だからクッション効かない!! 痛みほぼダイレクト!! 俺から見てアロハの右隣に居る清純系学園アイドルのオハナちゃんは顔を真っ赤にしてこっち見てる!!
「きゃっ!」
オハナちゃん!?
両手で急所を抱えながら蹲っていた俺は、オハナちゃんの方を向いた。
「オハナちゃん!!」
俺が動くより前にアロハが声を上げて立ち上がり、助けに向かった。
なんとウシガエルはオハナちゃんに飛び付いて全身を這っている。眼福だけど乙女のピンチ! 俺もアロハに加勢して助けなきゃ!
あれ? そういえばウシガエルの野郎、アロハに飛び付いた時は胸に留まるだけで全身這ったりしなかったけど、オハナちゃんは身体の隅々まで…。コイツ、人を見比べてるのか?
おっと、そんな事考えてる場合じゃない。オハナちゃんを助けなきゃね。
「いや、いやぁ、助けてぇ…」
あたふたするオハナちゃんの上半身を伝い、ほどよくふっくらした胸の谷間に入り込むウシガエル。羨ましい。
「い、いひゃぁ…」
パタン。
あら、オハナちゃん失神しちゃった!
「ねぇ広視、カエル料理、食べてみる?」
オハナちゃんからウシガエルを引き離すべく息を荒げ、獲物を狙う肉食獣のような形相で気合いを込めながら構えているアロハは、何かとち狂った事を言い出した。そして…。
むぎゅっ!
アロハは右手でウシガエルを掴んでオハナちゃんの胸の谷間から引き離した。
「今日のおかずは特製珍味よ。広視も食べて行って」
アロハに捕まったウシガエルは涙目で俺を見ている。あぁ、なんて可哀相なんだ。
「やめてくれアロハ。ウシガエルだって悪気があった訳じゃないんだ。たまたまパイプに詰まっちゃっただけなんだ」
アロハに冷静に諭してみたが…。
「問答無用!! オハナちゃんに手を出す奴は例えカエルでも許さないんだから!!」
アロハすげぇ気迫だな。ああ、なんて素晴らしき姉妹愛。ウシガエル、絶体絶命の大ピンチ!!
三人にエッチなイタズラをしたウシガエル、アロハに捕まって料理にされそうです。広視は5歳の時に幼馴染の浸地お姉さんにウシガエルで顔面パンチをされたようですが、生き物を遊び道具にするのはやめましょう。