アロハとオハナ
藤沢駅に到着すると、俺は水を買うため、ホーム上にある売店に入った。この売店、オレンジとグリーンのツートンカラーに塗り分けられた、きっと昔走っていたであろう古い電車を模っていて、駅のちょっとした名物だ。
所持金10円なのになぜ水が買えるかって? そりゃSuica定期券の電子マネーが少し残ってるからさ。
おっと、見知った貧乳が居るではないか。
貧乳は俺が買おうとしているのと同じ水の会計をしていて、会釈して店員からそれを受け取った所で俺の存在に気付いたようだ。
「げっ、広視!?」
「『げっ』て何だよ!?」
貧乳こと烏帽子アロハは、中学一年から高校二年の現在に至るまで同じクラスで、部活では、俺がヴォーカルをやってるバンドのベーシスト。身長は160センチ。軽くパーマのかかったベージュのロングヘアが特徴だ。
「そりゃ、性欲が歩いてんの見たら『げっ』てなるでしょ」
「おいっ!? ちょっとちょっと!! それじゃ俺が歩く性欲みたいじゃん!?」
「だからそう言ってるじゃない」
「うおおおおおっ!! ひでぇ!! お前あれだ、侮辱罪だ!!」
「なにが侮辱罪よ? 存在が猥褻物陳列罪のくせに」
「二人とも、楽しそうだね」
「おう、オハナちゃん。残念ながら全然楽しくないぞっ!」
ケンカの途中、にこっ、と天使の笑みで現れたのは、アロハの買い物を待っていた烏帽子オハナちゃん。彼女もアロハと同じく俺たちのバンドのベーシスト。俺を猥褻物扱いする貧乳アロハと違って人当たり良く、とても穏やかな性格で、身長はアロハより5センチくらい低いが、胸が程好くふっくらしていて男子にも人気だ。浸地と同様、長くて艶やかな黒髪が特徴だが、浸地の明るく爽やかな顔立ちに対し、オハナちゃんは少しお嬢さまっぽく、清純な顔立ちをしている。
アロハとオハナちゃんは同じ年、同じ日に生まれた姉妹であるが、双子ではない。これについては後に語るとしよう。
「広視くん、それなあに?」
オハナちゃんは俺が手に持ってるビーズの入った袋を見て言った。
「あっ、そうそう、私も気になってた。ビーズなんて、広視らしからぬ可愛らしいもの持ってるから」
悪かったな、可愛らしいものが似合わなくて。
そんな気持ちを抑えつつ、二人の問いに俺は、さきほど茅ヶ崎駅で幼なじみから貰ったもので、どういう意図でこれを俺に渡したのかよく分からないという旨を伝えた。
ホント、何なんだろ、これ。今日は疲れてるだろうから、明日浸地に電話して訊いてみるか。