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いちにちひとつぶ2  作者: おじぃ
湘南のなつやすみ編
10/52

ナゾのビーズ

「「くはあぁぁぁ、うんめぇ!!」」


 風呂上がり、ロビーに出た俺たちは、二人揃って腰に手を当て、瓶入りの牛乳をぐいっと一気飲み。これがたまらなくうんまぃ。所持金十円の俺は、また浸地の世話にかってしまった。次に会った時は何かご馳走しなきゃな。


「よし、牛乳飲んだところで、そろそろ帰りますか」


「そうだな。今日は色々ありがとな。おつかれさまです」


「うん、おつかれさま。今日は久しぶりに広視に会えて嬉しかったよ」


「う、うん…」


 こういう時、どう返事すべきかなんて解っているけど、それが素直に出来なくてもどかしい。


 ◇◇◇


 18時20分より少し前、俺たちは茅ヶ崎駅(ちがさきえき)東海道線(とうかいどうせん)ホームでベンチに腰掛け、電車を待っていた。所持金10円でも定期券を持っているので電車には乗れる。


 俺は藤沢(ふじさわ)に住んでいるので上りの東京方面、浸地は小田原(おだわら)に住んでいるので下りの熱海(あたみ)方面の電車に乗るため、ここでお別れとなる。


 少し陽が陰ってきて、富士山をバックに空が徐々に茜色に染まってゆく。この時間がなんとなく好きだ。


 程なく5番線に、15両編成、全長300メートルと長い東京行きのE231系電車が、ウィィィィィン!! グォォォォォン!! と、勢い良く滑り込んできた。時速80キロ以上は出ているだろうが、それでも停止位置にピッタリ止まる。


「広視、電車乗らないの?」


 電車が来たのにベンチから立ち上がらない俺を、浸地は促す。


「俺は浸地を見送ってから行くよ。次の電車は四分後に来るから」


 そんな会話をしている途中、反対側の6番線に下りの伊東(いとう)行きの電車がゆっくり入って来た。5番線のものとは違う、少し古い211系というタイプだ。


「そうか。じゃあ私はこれに乗ってくね」


 降車客が居なくなり、発車メロディーが鳴り始めたタイミングで浸地は電車にちょこんと乗り、出入口の前で立ち止まって俺の方へ振り返った。


「今日は本当におつかれさま。帰ったらゆっくり休むんだよ」


「浸地もな。おつかれさま」


 あ、なんか今、素直に笑顔になれた気がする。


「うん、じゃあね」


「じゃあな」


「あと、私には、何でも遠慮なく相談してね」


 ポイッ。


「えっ?」


 浸地が俺に向かってお手玉くらいの透明の小袋を投げ渡した。


 プシューッ、ガタン。


 投げてから、浸地が優しい笑顔を向けてくれたところでドアが閉まり、電車はゆっくりと富士山が(そび)える夕陽へ向かって走り出した。


 なんだこれ? 中にビーズがびっしり詰まってるぞ。赤、緑、青、金、銀、その他色々。カラフルで綺麗だな。


 俺は疑問を抱えたままホームの端へ向かい、暮れなずむ遠くのカーブの向こうへ電車が消えてゆくのを見送った。それと入れ替わりで現れた湘南新宿ラインに乗り、俺は帰路に就いた。


 ◇◇◇


「私には、何でも遠慮なく相談してね」


 車中、別れ際の浸地の優しさが、俺の脳内で何度もリフレインしている。


 俺の事なんか、お見通しなんだな。年月が経って大きくなっても、やっぱ浸地には敵わないや。


 小さい頃から知ってた。浸地は可愛いとか美人なだけじゃなくて、とても心温かくて優しい女の子だと。だからその、俺にとって初めての、胸が苦しくなるような、なんていうかだということを。

 次回、新キャラクターの女子高生姉妹、アロハとオハナの登場です。どちらもハワイ語の名前です。

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