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精神科で見た、宗教と信者の絆

作者: 神谷透
掲載日:2026/04/12


 その男は、もともと寺の住職だったという。



 統合失調症の診断で、閉鎖病棟に入院していた。



 気分の波が激しく、状態が悪いときは大声で読経を唱え、

 他の患者に干渉してはトラブルを起こしていた。



 診察では、決まって同じことを言った。



「薬を強くしないでほしい。聞こえなくなる」



 医師が理由を尋ねると、男は静かに答えた。



「幻聴じゃない。神のお告げだ」



 信者を、それで救ってきたのだと。



 私は、よくある誇大妄想だと思っていた。



 医師も同じだったのか、薬が減ることはなかった。




 男には、毎日決まった時間に電話がかかってきた。



 受話器を握ると、数分間、念仏を唱える。


 手には数珠。上下にゆっくりと揺れていた。




 ある日、面会があった。



 スーツ姿の、身なりの整った男だった。



 菓子折りを差し出し、深々と頭を下げる。



「その節は、本当にありがとうございました」



 そう言って、さらに頭を下げた。



「子どもの命を、助けていただいたと聞いています」



 面会は、短時間で終わった。



 問題は、何も起きなかった。



 帰り際、その男はもう一度、深く礼をした。




 私はそれとなく関係を聞いた。



「信者だ」



 男は、そう答えた。



「お告げで、救われたらしい」



 そして、ぽつりと続けた。



「だから、早く戻らないといけない」



「待っている人がいる」




 その後、男は退院した。



 それから先のことは、分からない。




 ただ――



 あのとき、



 何を信じるべきだったのかは、



 今でも、分からない。







最後まで読んでいただきありがとうございます。


あのとき見たものが、

どこまで現実だったのかは分かりません。


ただ、ひとつだけ確かなのは、

誰かにとっては“救い”だったということです。


それをどう捉えるかは、

人それぞれなのかもしれません。


もし感じたことがあれば、

一言でも残していただけると嬉しいです。

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