第5節 扉の前
人と話すの、久しぶりだな。
レイナは、そう思いながら、こっそり頬をもんだ。
口がちゃんと動くか、確かめるみたいに。
頬に泥がついていた。
何日も歩いてたから、仕方が無いけど
ちょっと恥ずかしい。
目の前にいるのは、おじちゃん。
ひとりじゃない。
それだけで、ちょっと嬉しかった。
しかも、科学者。
都合が良すぎて、笑ってしまいそうになる。
「こっち」
レイナは歩き出した。
おじちゃんがついてくる。
昨日見つけた、
城壁の影に隠れるように建つ、小さな建物。
古い整備室みたいな場所。
中は、埃っぽくて、静かだった。
床の一部に、地下へ降りる階段がある。
金属の縁。
石とは違う、少し冷たい手触り。
下へ。
地下の回廊は、妙に整っていた。
古いのに、壊れていない。
——これ、昔のだ。
ずっと眠っていたところの床と似ていた。
その先に、扉があった。
分厚くて、継ぎ目がない。
おじちゃんが、前に出る。
腰の袋から、
技術者っぽい道具をだした。
おじちゃんが扉の横を触ると、
中から紐や小さな金具がたくさんでてきた。
指先で確かめるように、触っている。
真剣な顔。
何かを、小さくつぶやいている。
レイナは、その横顔をじっと見た。
(……あれ)
どこかで、見たことがある。
昔。
もっと明るい場所。
聖堂。
石の床。
転んだとき。
「いたずらっ子め」
そう言って、笑った人。
(……あ)
あの時の、お兄ちゃんだ。
頬が、ゆるむ。
思わず、くすっと笑ってしまった。
「……何か?」
おじちゃんが、振り返る。
「ううん。がんばって!」
自分でも、変な返事だと思ったけど、
ほかに言葉が出てこなかった。
カチリ、と音がした。
扉が、開く。
奥から、あたたかい風が流れてくる。
レイナは、息を吸った。
見てるだけじゃ、変わらなかった。
だから——
今度は、一緒に行く。




