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義弟・海斗


 温かく柔らかなベッド。

 まだ熱にうなされていたが、ふいに目が覚めた。

 ベッド脇のサイドテーブルに、水差しが置いてあるが起き上がることはできない。

 

 まだ此処がどこだかも、何がどうなっているのかもわからない。

 熱で頭が朦朧として、息が苦しい。


「……わたし……」


 部屋の外で、男性の声が聞こえる。

 彼は大きな声を出していないが、叫ぶように謝っているのはメイド長だ。


「す、すみません!! 申し訳ありません!!」


「謝罪を聞きたいのではない。どうして萌黄さんが、このような扱いを受けている? と聞いているんだ。彼女は兄の妻だ。つまりは君達が仕える、冠崎家夫人ということだ」


「そ、それは……」


「兄さんはどこへ?」


「今は外出されております……海斗様は、留学先から、何故お戻りに?」


「君達には、あとで説明をする。早く医者を……彼女にもしもの事があったら許しはしない!」


「ひぃ! こ、これには理由がございますゆえ……なにとぞ陸一郎様にご確認を……! 医者が着きましたらすぐにお連れします……! 失礼致します」


 向こうの部屋の扉が閉まる音がした。メイド長が出て行ったのだろう。

 そして寝室のドアが開いた。

 

「萌黄さん……っ。目が覚めましたか」


「……あの……わたし……」


 喉がカラカラで、声が出ない。


「お水を飲みましょう」


「……あの……」


「もう大丈夫ですよ。貴女に危害を加えるような事は二度とさせません」

 

 水差しを優しく口元に添えてくれた。

 まるで命の水のように萌黄の喉から身体へと染み込んでいくようだった。


「……はぁ……」


「医者を今呼んでいます。安心してくださいね」


「……あなたは……一体……」


「俺は冠崎海斗(かんざき・かいと)です。……貴女の義弟(おとうと)ですよ。義姉さん」


「え……?」


「陸一郎の弟です。……もしかして俺はいない事にされていたのかな?」


「……すみません……初耳でした……陸一郎さんに弟さんが……」


「謝ることはありません。この家ではただならぬ事が起きていると察しました。でも俺は貴女を必ず救いますから安心してください萌黄姉さん」


「……かい……とさん……」


「今はまだ無理はしないでください。しっかりと休んでください」


 優しい声と優しい言葉……。

 高熱で意識が朦朧とするが、安全な場所に来れた。

 これだけはわかった。


 少し眠ったあとに医者の診断を受けた。

 折檻での怪我も医者が見抜き、風邪もかなり酷く拗らせ絶対安静だと言われてしまう。

 これ以上悪化すれば、命の危険もあると……。


 うなされながらも、不安になってしまう萌黄の傍で海斗はしっかりと対処方法など聞いてくれる。

 

「先生ありがとうございます。こちらを萌黄姉さんに使ってもらっても良いでしょうか?」


 海斗が、綺麗な宝石のついた数珠のような物を取り出した。


「冠崎家は、魔道具の貿易業も手掛けているのでしたな。これはどういう魔道具です?」


「身につけた者の治癒力を高めます」


「おお……見事ですな。是非、身につけさせてください。では急変などありましたら、すぐにお呼びください」


 医者は部屋を出て行った。


「あの……あ、ありがとうございます……」


「必ず治りますからね、これを」


「なんて綺麗な魔道具……」


 美しい湖のような、海の水面のような……水色の玉。

 そこに刺繍が施された護符、そして力強い守護の力を感じる数珠。


 萌黄が胸元に当てると、熱が引くように楽になる。


「すごい効果がありますわ……呼吸が楽になりました」


「それは良かった」


「素晴らしい力です……これは、特殊な青色水晶に回復増進の呪術を込めて更に……なんでしょう。細かな術式が……」


 熱があるのに、つい護符に魅入ってしまう。

 その様子に海斗は、微笑んだ。

 ふと微笑む海斗を見ると、彼が大層な美青年だという事に気がついた。

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