地獄へ堕とされて
メイド長は、萌黄に怒鳴り散らす。
「こんな面倒な仕事をさせられて、こっちも苛つくんだよ! ご指導代でも払ってほしいもんだよ!」
「あっ……やめてください!」
メイド長は萌黄のボストンバッグをあさりだす。
萌黄が止めようと手を伸ばしたが、また突き飛ばされてしまった。
「なんだい、意味不明な道具に本? 汚い古着だね! 口紅のひとつもないのかい! あんた本当に令嬢かい!?」
酷い暴言だった。
「やっと財布が出てきた」
「お、お返しください!」
「うるさいねぇ! 上納金ってやつだよ。これから少しでも楽に生きたいなら、私に金を払わねばね。さぁ! さっさと来な!」
呆然とする萌黄のボストンバッグを、メイド長が持った。
「あっ……」
ボストンバッグには祖父から贈られた宝物が入っている。
だが、声を荒らげれば金目の物だとメイド長は思うだろう。
バッグを人質にとられて、萌黄は黙ってついていく。
「こっちだよ」
朝だというのに、薄暗い離れの和式の家。
ここが使用人の部屋だという。
朝の支度をしてメイド服に着替えた使用人達が、萌黄を見る。
惨めな萌黄を見て、クスクスと嘲笑するメイド達。
「あんたの部屋はここ」
案内された部屋は、引き戸がもうボロボロ。
部屋は三畳間ほどで、畳はもう腐ったように凹んで、畳まれた布団も黄色く変色している。
窓は小さくて日も入らないので、かび臭く、ジメジメとしていた。
家具は、脇にろうそくのランプが置いているだけだ。
物置だと言われても、物が痛んでしまうのでは? と思うほどの酷さ。
人間がここに住もうものなら、心も身体も病むだろう……まるで牢獄だ。
「本当にここなのですか?」
「当然だろ。さっさと着替えてきな」
萌黄は腕を引っ張られて、物のように部屋に投げ入れられた。
汚い畳の上で、萌黄は絶望しか感じなかった。
ショックで身体が動かず、時間が過ぎてしまったので怒ったメイドに何度も頬を打たれた。
そして放心したままメイド服に着替えて、言われるがままに屋敷の玄関に立つ。
そこに陸一郎と真白が現れた。