ピエロ
[ピエロ]
器用貧乏と言われたピエロの話をしよう。
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とあるサーカス団に所属しているピエロは、何もかもを軽々とこなす事で有名だ。
“飛行団”というサーカス組織、その名にふさわしく飛行し、世界を回るサーカス団である。
そこのピエロは長い青髪を振り回しながら、小さい墨のような真っ黒な瞳で芸を披露するともっぱらの評判であった。
大きな食べられてしまいそうな口、滅多に出さない長い舌にはピアスが開いている。
命綱なしの綱渡、急死に一生空中ブランコ、びっくり人間の炎吹きなど……とにかくなんでも一週間でマスターしてしまう。
だが、その技たちは突出して素晴らしいまでいなかった。
『ヘルプには役立つが、代表者としては役立たず』それはまさしく彼の事だ。
だが、彼がいるおかげで飛行団のサーカスは失敗を知らなかった。
いつ誰が、風邪をひいても怪我をしても全て彼にまさせればいいという風潮があった。そのおかげか、団の雰囲気はいつも和やかだったとか。
そんなピエロの過去の話をしよう。
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雨が降り、視界が悪い日のことだ。
ある程度なの通った名門家に次男坊となる男が生まれた。
母も父も青髪兄も青髪だったから、生まれてくる子もきっと麗しい青髪を拵えてくるでしょう。と思っていたのだろう。
実際に生まれてくる子が黒髪だとは誰も予想しなかった。
この世界にはある程度、髪の色に対する偏見が存在する。赤髪が魔女と思われるように、黒髪は縁起の悪い悪魔の子という印象を植え付ける事が多かった。
父と母は、この事実を隠し通すために次男坊を青髪に染めることにした。だが、目の色は変えられなかった。失明してしまう恐れがあったためだ。
次男坊なのだから、どうせ将来領土も財産も継げずに他所へ出されるのだからと目だけは残したということだろう。
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彼はスクスクと成長した。
だが、同時に嫌気がどんどん大きくなった。
剣の稽古に、勉強。食事のマナーにお辞儀をする訓練、そしてダンスの練習。
何でもすぐにできるし、何でもすぐ形になった。
周りは皆、“神からいつくの才能をもらった?”と不思議がっていたという。
だが彼はいつもつまらなそうだっとか。
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もっと大きな、ドンとした事をしたい。
確かに僕は、何でもできるように見せてきた。
勉強もダンスもなんでもすぐに見せてきた。
だから、なにかドンとした事をやってみたい。
空を飛びたい、沢山の人を笑顔にしたい。そんな漠然とし夢だった。
僕は日頃からそんな事ばかり考えていた。
そんな時だ。僕がサーカスに出会ったのは。父の付き添いでサーカスを見に行った時。そこで僕は腰を抜かしたさ。
空を飛ぶ人間に、魔法生物を操る人間。
火を吹く人間に、ナイフを自由に操る人間。
そしてそのどれもが魔法を使っていなかった。全て生身の人間による技だったのだ。
観客は息を呑んだり、笑ったり、拍手したり、いつも見る愛想ではなくて本当に楽しんでいた。
僕は、とてもすごいと思ったね。
おいおいウソだろ……と言いたくなる程に、僕の思うドンとした事だったのだから。
父の口癖は、
“お前はいつかこの家を出て、独り立ちする”
母の口癖は、
“貴方は成人したら身分なんて無くなりますよ”
なら僕はサーカスをやってみたいと思ったよ。
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「よぉ、ボク。飛行団は、元貴族の坊ちゃんには厳しいぜ?」
「おぉすげーな。やっぱり育ってきた環境のちがいなね」
「才能のかたまりじゃあないか。
何かできない事はないのかい? だけど器用貧乏になるな、お前」
「風呂はみんなと一緒に入れよ。仲を深めるためにな。」
「ほら、綱渡の奴が今日風邪ひいたってよ。代わりにでな。」
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なぁ、本当に才能だと思うのかい?
それに、こんな短時間でマスターしたら、そら極められないだろ。
怪我をするだろう、アザもできるだろうよ。
綱渡なんかできるわけないだろう。
火なんか吹けるわけないだろう。
空中ブランコで回れるわけないだろう。
だが、僕はいつでもこう言ったさ。
「神様は僕を溺愛してますからね〜」ってね。
だって僕はサーカスが楽しかったからね。
ー
どうだっただろうか?
これが器用貧乏と言われたピエロの過去だ。
ー
『おっ、かわいー子発見!
なになに、しゅ、取材……か。団長に話通したかい?
嬉しそうに快諾してくれた?ハハッ団長らしいな。で、何聞きたいの?
……なるほどねー。
僕は貴族は向いてなかったみたいだし、サーカスのピエロ気に入ってるし、沢山の事できるから嬉しいよ。でも、流石に体調管理してない奴はどうかと思うけどね〜。
ん?なになに〜。アアー、それはね。
“僕努力してここまできました”よりさ、
“いや、才能ですよ。”の方が余裕?あってよくない?僕だけかな〜。まぁ、話すのも面倒だしね。
それに、努力は全てピエロの涙に詰めといたからね!
じゃあ、またね〜。いつかサーカス見においで。
とびきりの感動を届けるから。』
No.9 努力を隠したピエロ
追記ー
私は“飛行団”のサーカスを見に行った。
そのでの彼は、何でもこなすスーパースターのように完璧に全ての事をこなしていた。