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生徒

[生徒]


堕落したと言われた生徒の話をしよう。



大都市“ナトゥール”に建つ六年生の高等学校。

古き良き学校には、沢山の生徒が通っている。

そこの五学年の生徒には、優秀と言われる者がいた。

成績は常に一位、剣の腕は教員を超え、人に信頼される人間性……全てを持ち合わせた人間であった。友達にいれば、イジメられる事がないと言われる程には人望がある人間。


茶髪の癖っ毛に、紫のビー玉のような瞳。ニカッと笑う顔が太陽のように明るい。人の行為を踏み躙る事が許せず、不正を見逃さない正に勇者のような人物だった。


だがその笑顔が見えたのは、いつの頃までだっただろう。

気づけば勉学には励まず、剣の稽古もしない遊び人へと変わっていた。

だが、幸か不幸かその年に入った聖剣を抜いた一年生に生徒も教員も注目を集めていた。

彼の変化に皆が気づいたのは、半年経った頃だ。


そんな生徒の過去の話をしよう。



貧乏でも、裕福でもない家で彼は生まれた。

やりたい事、欲しいものは、理由を話せば買ってくれることもあるし、買ってくれないこともあった。

サンタさんはしっかり来るし、誕生日にはしっかりケーキとプレゼントをもらえる。

そんな家で彼は生まれた。


幼少期から人に好かれる性格の彼の周りにはいつでも人が輪を作っていた。


“あの子は魔法書店が大好きであり、特に魔王と勇者の伝記が好きだ”

“いつか、魔王を倒す勇者になるとよく宣言しているよ”と彼の周りにいる人々は口にする。


現に彼は、勇者が魔王を倒し、平和をもたらす話がなによりも好きであった。

絵本の中の勇者が本当に好きであった。



勇者になるためには、勉学が必要だと考えた彼は基礎の勉強に加え、

『魔法学〜基本から応用まで〜』

『魔法生物』

『魔法化学』

『魔法界歴史と、その主要人物について』という教科書をおよそ二年にしてマスターした。常人の人間が、八年かける内容を彼は二年でマスターしたのだ。


敵をなぎ倒すためには武術が必要と考えた彼は、剣、弓。魔法の勉強をした。

そのどれもが、達人の域に達することができた。


正に絵本の中にいる勇者のように、彼は完璧に近くなっていったのだ。



魔王が居れば勇者がいる。

僕は魔王がいる事が少し怖かった。だけど、少し嬉しかった。だって勇者になれるチャンスもあるって事だから。

僕はドキドキして夜寝れなかったのを覚えている。

未来、勇者として讃えられる自分を思い描くのが楽しかった。

周りから称賛されている自分を想像するのが楽しかった。



僕は学園に主席で入った。『新入生代表挨拶 原稿用紙』と書かれた紙を受け取った時、すごい嬉しかったのを覚えている。

勉学では毎年毎年一位を年続けた。実技テストでも教員を越した。


だが、これも六学年までだった。僕が七学年に上がる年。

その年は聖剣を抜いた少年が入学してきた。


噂では聞いていた事がある。でも、淡い期待を抱いていた。そいつがバカで、クズで、最低な野郎である事にね。

でも実際は銀髪が綺麗な少年だった。彼の新入生代表挨拶はとても完璧だったよ。よく通る声、僕はそれに絶望したさ。


新入生として、先輩を尊敬できる。

新人として、先輩に可愛がられる素質を持っている。

先生も、生徒も皆彼ばっか見るようになった。

女子は皆彼にキャーキャーいうし、みんな舞踏会には彼を誘おうとしていた。皆僕の元から去っていった。

聖剣を抜いた彼には敵わないと、実感させられたね。


今までの努力が無駄だったと言わんばかりに。彼は僕にこう言ったさ。

“先輩が羨ましいです”ってね。悲しそうな笑顔でな。

少なくともそれは僕の知っている勇者の笑顔ではなかったよ。



どうだっただろうか?

これが堕落したと言われた生徒の過去だ。



『あ”?取材〜?

はぁ、暇だしいいぜ。もう勉強も稽古もしなくていいしよ。

……まぁ、勇者になれるならなりたいよな。でも、無理だろ。フツーに考えて。

聖剣を抜いた奴が出たんだぜ?そして、そいつが完璧。本当にやめて欲しいよな。神のヤローは何を考えているんだろうな。神は不平等だよな〜。

俺の努力どうしてくれんのって感じ?

もう、俺が魔王になろうかなっ!ハハッウソだよ!ウソ。真に開けるんじゃあないよ。

でも、アイツ何か隠してるだろ。何だろうな。人生あきめてる感じ?何があったか知らねーが、俺だったら嫌になるね。世界を救えるとしてもアイツの人生を俺は送りたいなぁ。

少なくとも俺の知ってる勇者じゃないね。キラキラとした勇者な。

将来? あー花屋でもやるかな。

プロポーズ専用とか……、結婚式専用とか、な。

なんで花屋かって?そりゃ〜、初恋の子が花が好きって言ったからだな。』


No.8 本物にはなれなかった生徒

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