天使
[天使]
使い物にならないと言われた天使の話をしよう。
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あるか上空にある天使の都“シュマッツ”。
死んだ人間の中でも特に善行を積んだ者がなれる天使にも、位というものは存在する。
翼が大きく美しい者は地位が高く、小さく見苦しい者は地位が低い。
だが、全ての天使が“幸せ”と言われる生活が保障されているのがこの都。
それでも禁忌というものが存在する。
1.人間界に近づく事を禁ずる
2.同族に力を使う事を禁ずる
3.生命の創造、自然の破壊する事を禁ずる
この三点を守り生活すれば、生活には困らなかった。
だが、破った者がいた。
ピンクのウェーブのかかった髪に、優しげな目元。オレンジの瞳には、キラキラと光が差し込んでいる。その美人の翼は四枚で美しい。最上級に地位が高い天使の証だ。
彼女が破った禁忌は、
『1.人間界に近づく事を禁ずる』
彼女は人間界にひっそりと近づき、ある男をつけていた。それが大天使様にバレてしまい、近日中に処刑となったのであった。
そんな天使の過去の話をしよう。
ー
彼女は一般的な人間であった。
シロツメグサが広がる小さな村にあるパン屋の看板娘で、天真爛漫な手の姿はとても人気だったという。
“よく笑う顔はとても可愛く、無邪気な姿は見ていても飽きなかった”
と周りの人々は口した。
そんな彼女には男の幼馴染がいた。
一つ年下で、よく彼女の後をつけて回るような子。
この地域では珍しい澄んだ緑の瞳をしている男の子。
そんな二人は家族のように仲が良くかたった。よく遊び、よく一緒にご飯を食べた。
そんな二人が付き合ったのは、彼女が十六歳頃であり、手を繋ぐだけで二人とも照れていたとか。
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“二十歳になったら結婚しよう!”
と約束した。
そんな彼女だが、彼女は十九歳の時に人生のレールから足を踏み外した。
流行りの伝染病だったとか。
ー
天使になった彼女は、水面越しに彼の事をよく見守っていた。
だが、いつしかそのままの姿を見たいと強く願うようになった。
ダメだとはわかっていた。
だけど、最後に見たかった。
彼の姿を……どのようになっていても。
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彼女は、人間界に降りて生まれ育った故郷に戻った。
何も変わらないシロツメグサが広がる風景にホッと息を吐く。そして、辺りを見回りて、彼の姿を探す。ニコニコと笑う彼の顔を見ると彼女は頬を緩めた。
仄かに白目が赤く染まり、キラキラと瞳が輝いた気がした。
「お疲れ!」
彼は手を振りながら、ある人物の元へ駆け寄った。
茶色のロングの髪に、丸く可愛い大きな瞳。見たことのない顔。
説明されなくてもわかる。“彼女”なのだと。
だってあれ程幸せそうに笑っていたのだから。
だってあれ程優しく笑っているのだから
その日の夕方、彼女は死刑を言い渡された。
大天使様の口によって。
ー
どうだっただろうか?
これが、使い物にならないと言われた天使の過去だ。
ー
『処刑寸前のに……天使に取材ですか?それも人間が、わざわざ上界パスポートまで取って。
えぇ、いいですよ。どうせ短い命です。ふふっそんな事ですか。
はい。後悔なんてしていません。
彼に新しい人ができたことについてですがね、幸せにしていてくれて安心しました。私の事を引きずってなくて……。
えぇ、安心しましたよ。』
No.6 ただただ一途な天使
ー追記
彼女が死んだ後の墓には、シオンの花束と結婚式の招待状が添えられていた。
コレを見たのは、彼女が死んでから丁度三年後だった。
シオンの花言葉。
ー 一生貴方を忘れません。
遠くにいる貴方を思う。