時計屋
[時計屋]
古臭いと言われた時計屋の話をしよう
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大都市“ナトゥール”の郊外に建つ、年季のこもった煉瓦造りの建物。
正面には大きな時計が飾られ、歯車が丸出しの状態になっている。そんな時計の下には可愛らしい丸窓のついたピンクのドアに、小さな色とりどりの花が咲く花壇があった。
そこの店主はとても可愛いと有名だ。
青空をはめんこんだかのような丸々とした瞳に、短く整えられている茶色の髪。
そして人懐っこい性格を持ち合わせた彼女はとても周りに愛される時計職人だった。
クッキーに目をキラキラと輝かせ、パプリカには渋い顔をする。
雨の日はあからさまに気分が下がり、雪の日にはどんな日よりもワクワクしている。
喜怒哀楽がしっかりと分かれているのだ。
周りから可愛がられ、歳下からも妹のように扱われるような人物。
だがそんな彼女が作る時計は、
“想いが込められ、美しい”と一部では評判がとても良い。だが世間一般的には、昔ながらのその時計はあまり評価される物ではなかった。
そんな時計屋の過去の話をしよう。
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お世辞にも裕福とは言えない家。
それが私のお家。
服なんてお古だし、ご飯には沢山のジャガイモが入っている。
だけど私の腕にはいつも豪華な腕時計が、つけられていた。沢山の色で飾られた盤面には、カンガルーが木で掘られている。
木で作られたスプーンにお皿。
煉瓦造りの壁には、少し隙間が空いている。
でも涼しい地域だったし、木こりの父のおかげで薪には困らなかった。
そんな家だからか、いつも『パチパチ』と火の燃える音が鳴り響いている。
私と父と母とおじいちゃんの四人暮らし。
でも、おじいちゃんと喋った事はない。無口で無愛想で、人と接するのが不器用な人。
そんなおじいちゃんの事が私は怖かった。
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ある日、おじいちゃんの仕事場……工房のドアを意を決して開けてみた。
開けた瞬間、沢山の歯車とおじいちゃんの後ろ姿が目に飛び込んでくる。
小さな工房だけど、ワクワクするようなものが沢山あった。
そんな工房のど真ん中。
大きな机に向かい杖を構えて、小さく呪文を言うおじいちゃんの後ろ姿はとてもとてもカッコよかった。
『キュルル、ギィ』とパーツがなる音が不思議と心地よかった。
「お、おじいちゃん……」
「なんだ?」
低い落ち着いている声。
こちらには顔を見せずに、淡々と作業を続けている。
優しいとは言えない声には、不思議な力があると思った。だってとてもワクワクするような声だったから。
「なぁに?それ」
「あぁ、コレは、振り子時計だ。」
「おじいちゃんは時計が好きなの?」
「あぁ」
「じゃあこれもおじいちゃんが作ったの?」
私は自分の腕についた腕時計を指差した。
「……そうだ」
「なんで?」
ここまで話した時、初めておじいちゃんが杖を机に置いた。
茶色い丸椅子を『キィィ』と回しながら、おじいちゃんがジッとコチラを見つめてきた。
その黄色い瞳は、キラキラと光ってる。
「いいか? 時間は有限だ。大切な人と一緒に居れる時間も有限で、その大事な時間を時計によって測ることができる。」
「だから、お前さんにはいつも時間を見ていて欲しい。自分のために……時間は有限という事を覚えていてほしい」
「そっか……」
「そうだ。やってみるか?」
「うんっ!」
初めておじいちゃんがニヤリと笑った。
それがとても嬉しくて、嬉しくて多分私は大きな声で返事をしただろう。
この時私は初めて、時計を作った。
誰かの時間を測るための大切なものを、初めて作ったんだ。
ー
「おじいちゃん! ここは?」
「ここは、こうはめる。わかるか?」
「うん!」
おじいちゃんの時計の作り方は、昔ながらの作り方だった。
全て手作りで、温かみを感じる作り方。
私は気づいた。
おじいちゃんはとてもとても、愛情深いと。表現するのが苦手なだけで、本当は優しい人。
そんなおじいちゃんの大きな手が大好きだ。
そんなおじいちゃんが大好きだ。
私はこの工房を継いでいくと決意した。
私はこの技法を継いでいくと決意した。
ー
どうだっただろうか?
これが、古臭いと言われた時計屋の話だ。
ー
『えっ、取材!やば。私初めてかも……。
ええと。はい、なんですか!
えっ、はい。私は家族の愛によって、ここまでやってきました。とても時計屋に満足していますよ。
古臭くても、不恰好でもコレはおじいちゃんの形見に等しいですしね。
ふふっ、いつかおじいちゃんみたいな立派な職人になりたいです!なって見せますよ。絶対に』
No.4 昔からの愛情がこもった時計屋
追記ー
彼女はニカッと笑い、腕時計をこちらに見せてきた。少し古いその腕時計には、カンガルーが掘られている。