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吟遊詩人

[吟遊詩人]


自由人と言われた吟遊詩人の話をしよう。



吟遊詩人、旅をしながらその場、その時にあった詩を書く者の事である。


“フルーク大山脈”の麓。色とりどりの葉をつける木の下で鼻歌を歌う少年がいた。

古びたブーツと裏地が青になっているローブ。中に着ているシャツと半ズボン、その全てが少年に似合わない物だった。全てに年季が入っている。

豪華に飾られたソレは、とてもではないが旅をするには向かない格好。いいところの貴族のような格好だ。

その少年の溢れそうなほどにキラキラとエメラルドグリーンの瞳は未来を豪華に彩っている。そしてクルクルと鳥の巣のような金色の頭は、その髪の毛一本に価値がつきそうなくらい美しかった。


彼の書く詩は、少年のものとは思えず老若男女の心を今現在も鷲掴みにしている。繊細な言葉遣いと、想像を絶する表現力。

ふらりと現れ、詩を書いたら幻覚のように消える、そんな言い伝えのある彼はいつしか伝説のように語られていた。


そんな吟遊詩人の過去の話をしよう。



少年の生まれは定かではない。

記録が残っていないのだ。わかる事は詩の一部にある『虹色の橋が空を駆けた時、私は産声を上げた』から虹が空にかかった日に彼は生まれたという事。

残っている記録で一番古いとされているモノは詩集に入っている。大都市“オスト”を舞台とした詩を書いた詩『そのワルツは空も踊った』。

彼は忽然と姿を現したのだ。


その初の詩集も芳しい売り上げを残こし、その頃から絶賛の嵐だったとか。

それを読んだ人々は、口々にこう言った。

“彼は天才だ”と。これ以上当てはまる言葉が見つからないくらいピッタリな言葉だった。



彼は、その昔仙人の住む山ー“オーベル山”。そこで修行をしていた。それは仙人になるために……、というのは建前で親が仙人だったから、強制されたのだ。

それに仙人になれば少なくとも五百年は生きられるだろう? それに見た目が変わらないしね。そんな理由で幼き彼は同意してしまった。だがその修行は思ったよりも退屈なモノで、ワクワクする冒険や秘密道具はなく、ただ独坐して精神統一をする日々。本当につまらない日々だった。


だが文句を言える立場に彼はなかった。

なぜなら毎日逃げ出して、大きな古い屋敷を冒険しているから。そしてある日辿り着いたのは、古い一室だった。埃被った机や本棚などの家具、埃が積もった床。

そこで彼は古い詩集を読んだ。


それに心を奪われた。その繊細な表現に、そのワクワクとする本の内容に膨らむ想像。きっとこうだろう、ああだろう、そう考えるのがとても楽しかった。


そしていつか夢を見た。

自分でワクワクするモノを書くと。



彼は、史実上最少年で仙人になった。

老化が止まり十五歳の青々しい見た目のまま、彼の成長は止まった。



私は、景色を見るのが好きだった。


それはきっと生まれた時からずっとだ。だから旅に出た。勿論仙人になってからね。

もっとたくさんの景色を見るために、私は輝かしい自然の中へと飛び込んだのだ。今までの退屈な日々をひっくり返そうと、高鳴る胸を押さえながらね。

そこではたくさんのものに出会ったよ。

色とりどりのキノコだったり、図鑑でした見たことのないような魔法動物。息を呑むほど美しい風景に、たくさんの人々。

もうそれは、本当に美しかったよ。


そして旅を続けて何百年か経った日のこと、私は思った。

どうにかしてこの感動を他の人に伝えたい。昔の私のような人に、感動を届けたいとね。

この景色を見たことがない人にさえも、この感動を想像してほしい。

この世には存在しないと思った物が、存在する。ファンタジーだと思った物が、本当に動き出す。この感動を少しでも多くの人に感じ取ってほしい!

私はそう思って初めて、モノを書いた。筆がスラスラと動くし、どんどん書きたいことが湧いていくる。

これが私の幸せなんだ、その時本当に心からそう思ったね。


何百年も生きていて初めて感動したさ。



どうだっただらうか?

これが自由人と言われた吟遊詩人の過去だ。



『おっと、私としたことが人に捕まるとは……。君なかなかのやり手だね、美しい人。

そうだね、私も暇なのだよ、ずっと一人旅だからさ。だからお話くらいならしてあげようじゃないか!

おっと君は私のファンかい? それは嬉しい。特別にこれを読ませてあげよう。題名はね『天使に殺された男』だよ。結局は殺されなかったけどね。

おっと本題に入ろうか、君は何か私に聞きたいことがあるのだろう? 驚いたような顔をするね。わかるよそれくらい、私は何百年も生きているのだからね。これでも一人前の仙人になった経験もある。


……フフッそうだね。私はこの仕事が天職だと思っているよ。だから楽しいし、本当に良かったと思っている。後悔なんてこれっぽっちもないさ。それに人々に希望を持たせられる素敵なことだと思っているしね。


ん? なんだい。仙人をやめた理由? 

本当に暇で始めたのだけど……。それが私の性に合わなかったみたいで、だからより一層コレができてとても楽しいよ。


ああ! そうだ言い忘れてたね。

物事を始めるのに遅いも早いもないよ、美しい人。』


No.20 自由を掴んだ吟遊詩人。


追記ー


彼の書いた詩集には、多くの夢を語っていた。

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