剣士
[騎士]
非の打ち所がないと言われた騎士の話をしよう。
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大都市“オスト”。
城下町が賑わう都市は、剣の聖地と言われるほど剣術の街だ。そこのトップ“王室騎士団”の団長を務める騎士、それは物凄い実力を持っていた。
城のような見た目の騎士団本拠、そこの最上階にある大きな一室。
今の時代、剣の術なら右に出る者はいないと言われる程の実力者。かの魔王とも、剣の術だけなら渡り合えると噂れていた。
その剣の一振りは、天からの救いと言われるくらい素晴らしいモノであり、必ずその戦に勝利をもたらすと言われているほど。彼の長い異常なまでの長い刀身は、勝利の象徴として崇められ、恐れられた。
透き通る程輝いている群青色の髪を耳に被らない程度で整え、月を埋め込んだかのような瞳には、魅了されてしまう。何もかも見通すような瞳は、酷く輝いていた。
大きな口の口角はあげられ、常に警戒を解く事はない。ニコニコと不敵な笑みを常に絶やさず浮かべている。
好きな物は特になく、嫌いな物も特にない。周りには弱みになる事を何を伝えずに、誰も頼らない。分かる事は、毎日勲章のブローチを胸に光らせている事。毎日毎日、綺麗に磨いているのだろう。
そんな騎士の過去の話をしよう。
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彼は生まれも育ちも“オスト”であった。
生まれは騎士として名を挙げられている貴族だ。父は“王室騎士団”の団長を務めるほどの実力を持っていた。
だが、生まれは庶民の一般家庭。貴族の一代目、それが彼の父親だった。
三人兄弟の次男坊。だが兄よりも剣は上手かった。勿論弟よりも。
普通の貴族なら、弟が兄よりも秀でている事は問題である。特に後継の問題で……。
だがこの家族は、とても暖かかった。
兄は素直に褒め弟を尊敬し、父は良く褒めて、母も良く喜んでくれた。いい意味で貴族らしくない家族、それが彼の生まれだ。彼はとても良い家庭に生まれたのだった。
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彼は剣が大好きだった。キラリと光る刀身も、装飾の凝った柄の部分も、全てが綺麗で輝いている。
そして父はよく彼に言い聞かせていた。
『お前は将来、王様に仕える事ができる人間になるかもな』と。
その言葉に彼は、満面の笑みで『うんっ!』と頷いていた。とても嬉しそうに、黄金の瞳を輝かせる。
兄弟からも、『流石俺の弟だな!』『兄様!凄いですね』と褒められてスクスクと育った。
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僕は剣を見るのも、振るのも好きだった。
父上が振るのはとても力強くてカッコいい。
兄上が振るのは曲線を描くように滑らかだ。
弟が振るのは身軽で素早い。
僕はその人たちを見て育った。剣が茶菓子より身近な存在であり、見慣れた物。それが僕の家。だけど父上は、“剣をやりたくなかったらやらなくていいからな”とよく言っていた。その人個人を尊重する人だった。その感性は貴族にしては珍しい。どうにかして血を絶やさないようにと子供に跡を継がせようと、普通の貴族はする。
その感性はきっと、幼少期庶民だったからだろう、と僕は勝手に思っていた。
だけど僕は剣が好きだ。
なによりも。
人の剣筋をみて研究するのも好きだし、自分で実践するのも、調べるのも大好き。だけどそれでも、父上ように力強くはいかないし、兄上のように滑らかには振れない、弟のように身軽には動けない。
だけどよい先生が近くにいるみたいで、とても楽しかった。人から見て吸収するのは難しい。だけど、その分達成感が凄かった。僕はソレの虜になった。
あれから何年が経っただろう。
私は“王室騎士団”に入団し、過去最速で勲章をもらい団長となった。
その時にもらったブローチ。父から譲られたそれはとても、重い責任感を感じさせた。同時に気分が高揚した。
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どうだっただろうか?
これが非の打ち所がないと言われた騎士の過去だ。
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『ああ、やっと来ましたか。そこに腰をかけてくれて構いませんよ。
紅茶に何か強い拘りはありますか? 砂糖は? 茶菓子はこの街で一番おいしいものを用意しましたよ、焼き菓子ですが。
フフッ、魔法使いからの手紙なんて珍しいので、ついつい読み込んでしまいましたよ。それにしても本当に幽霊が運んでくるのですね。はじめての経験ですよ、魔法使いの手紙も、幽霊を見たのも……ね。
それにしても貴方、すごい度胸ですよ。前に秘書まで取材したんですって? 私だったらやりたくないですね。あの人はよくわからない。
そうですね、本題に入りましょう。
……私は今が楽しいですよ。剣を極めるのも、家族と団欒するのも。後悔なんて何一つもありません。
王室騎士団に入ったのも、剣の道に進んだのも。それに兄弟仲良くやってますしね。
私の趣味ですか?
ええ? 剣以外で。難しいですね……ああ!そうだ私はその人の特性を見るのが好きですね。
その人のいいところを見つけ出して、自分のものにする。とても楽しいですよ。』
No.19 人を見て育つ剣士。