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群衆

[群衆]


個性なしと言われた群衆の話をしよう。



とある太陽が眩しい日の大都市“ナトゥール”。


勇者に群がる人々。

その人達にも一つの物語があるのだ。

いつもは重視されず、人に語られることのない物語が。


今回のターゲットは、クルクルとまかれる茶髪に、鶯色(うぐいすいろ)の上着を羽織っている。

歳は……四十代だろうか。

手には苦労をあわらしているかのように、歪な形をした爪が付けられている。

優しそうな黒目の女性。


何でもないただ平和な日常を過ごしている彼女。

彼女は周りの人から、

“困った時、適切な助言をしてくれる”と評価されていた。


そんな彼女の過去の話をしよう。



彼女の生まれは、民宿を営んでいる小さな家だった。少し古臭い建物。そこが彼女の家。

そんな彼女は六人兄弟の長女として生まれ、責任感ある少女だった。


昔からオモチャを兄弟にあげ、自分は絵を描く生活。勿論魔法なんて使えない。

ただの平凡な女の子。

勉強は少し苦手で、元気なハツラツとした幼少期を過ごした。


そんな彼女の夢は、ロールケーキを丸々一本食べる、というなんとも可愛らしい夢。


周りの人からはいつも、

“未来は看板娘かね”と言われていた。



その周りの期待に応えるように彼女は看板娘となった。

元気で、ハキハキと喋る彼女は特に老人に人気で可愛がられてる存在になる。


そしてとある客が彼女にこう言った。

とても綺麗なお婆さんだ。

「年頃の女の子なんだから、オメカシしないの?」と。

意味がわからないと言うような顔をする彼女に、客人は(かんざし)を一本差し出した。

キラキラと光る緑のガラス玉がついた簪。

あげると言わんばかりに差し出してくる。


「もらっていいの?」と彼女が尋ねると、

「いいよ、私の髪にはもう映えないからね」

と客は言った。そして、

「短い髪がすきなら、仕舞っておいてもいいよ」と優しく頭を撫でた。

「ありがとう!」

「ええ、」

「でも、まだお婆ちゃんにも似合うよ!返さないけどね。」

「ッ! ふふっありがとう」

お婆さんは嬉しそうにそう言った。


彼女は初めて兄弟にあげない、大切ものができた。キラリと光る簪、彼女はそれを大切そうに棚に仕舞った。



本物の簪を初めて見た。

簪はとても高級品で結婚を申し込む時、

“指輪か簪が欲しい”という女性が多くいると聞く。


お客さんがくれた簪はとてもシンプルな黒軸だったけど、緑のガラス玉がとてもキラキラとしていた。

中にヒビの入ってるガラス玉はキラキラと太陽の光を反射しながら、コロコロと笑う。

それを身につけるのはとてもじゃないけど、怖くって私は棚に仕舞った。


妹達に見つからないように、私はコッソリと仕舞った。

もしも見つからったら強請られてしまうだろう。

コレを仕舞うのは心苦しい。

だけど、私のものだと実感したい。

私はとても丁重に棚のカナへと簪を仕舞った。

本当に愛する存在ができた時、私は頭にこの簪をさしてあげようと思った。

このキラリと光る簪を。



「はーい、お客さんかな。お名前は?

ん? ああお客さんじゃあないのか。道にでも迷ったのかな。ええ、違うのかい!

……取材、珍しいね。私は何でもないよ。ただの一般市民さ。

それでもいいって? しょうがないね。いいよお客様が来なくて暇だったから。

ほら茶を出すから、ココに座りな。


んー、この民宿は両親から受け継いだモノだから手放せはしないよ。

だけどもし自由に未来が選べたならば、私は旅をしたかったね。

自由に赴くままに沢山の景色を見たかってさ。

だけど最近の写真はすごいね。とても綺麗だし、その場にいるように感じられる。

歳をとったからコレで十分かな。


私は、今が一番楽しいさ。

いつでも自分が生きている時が一番楽しいと思っている。

それに今は店の経営も、何せ子供も育ったからね。コレからは自由なんだよ。

何をしようかな。

子供を育てるのも楽しかったけど、自分の好きなことはできなかったからね。」


No.16 自分の人生を楽しむ群衆。



追記ー


彼女の宿の入り口には、簪が一本置かれていた。緑のガラス玉がキラキラとヒカリ、美しい。

彼女はそれを見て、“宝物さ”と笑った。

その隣には家族写真が置かれている。

彼女はとてもよい母親だったのだろう。

だって写真に写る彼女の娘が、頭に簪をさしていたのだから。その笑顔はとても嬉しそうだった。

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