マジシャン
[マジシャン]
魔法使いと言われたマジシャンの話をしよう。
ー
とある街の路地裏。
そこには天才的なマジシャンがいると噂されていた。
賑わう中心部とは裏腹に、ボロくさい暮らしをしている路地裏。普段は足を運ばない貴族までもが、彼のマジックを見るために足を運んだという。
足が運ばれたその先には、ダンボールで作られた会場となる机に、看板。
カラフルなスーツに身を包み、パーマがかった白髪を帽子の中にしまう男性の姿。
彼の灰色の瞳の中は未知の世界で溢れていた。
そんの彼はステッキ一本、帽子一つ、トランプワンセットでどんなマジックだって披露していた。
誰も彼の手法なんてわからない。
わかる事は彼がとてもなく素晴らしいマジシャンで、こんな所にいなくてもご飯を食べていける実力がある事。
かつて有名なサーカス団も彼を勧誘したが、
“僕はココで十分ですよ”とにこやかに返事をしたという。
そして彼は路地裏の魔法使いと噂されるようになった。
そんなマジシャンの過去の話をしよう。
ー
彼は、生まれた時から親を見た事がない。
気づいたら路地裏で、気づいたら同じような境遇の子が集まっていた、そんな環境。
そこで二人いる最年長の一人として彼は育った。
いつも誰かのために、自分の身を削る生活。
だが、彼はその生活を悪いとは思ってなかった。なんなら楽しいと思っていた。
元々年上気質だったのか、環境がそうさせたのか。
彼はのんびり過ごしていた。
元々のフワッとしている性格もあるのかもしれないが、彼はいつでも夢を見ていた。
沢山のお菓子に囲まれるとか、大金持ちになるとか、魔法を使うとか、それはもう大きな夢を描いていた。
そんな時だ。彼はマジックを見た。
それはもう大人が見たらタネも仕掛けもわかるようなマジック。
だが子供の彼にとって、それは大きな魔法だった。
手から次々に出てくる花、飛び出す鳩。
彼はそれはもう、感動した。
彼は夢を見た。
マジシャンになるという大きな夢を。
ー
彼はそれから道に落ちいた本を読んで、トランプを作って、マジックの練習をした。
沢山の夢を見せるマジックの練習。
彼はそれにのめり込んだ。それはもう、ご飯を忘れるほどに。
でもそれを周りが許す訳がなかった。
だから彼は約束した。
ー
それはもう僕は感動したさ。
目の前で花が飛び出したのだから。もう本当に夢かと思ったよ。
そこからの行動は早くてね。
本を読んで、作ったトランプを使って、マジックの練習をしたよ。
大変だったけど、好きなことだったからね。
こんな言葉があるだろう?
“好きこそものの上手なれ”って言葉。僕はその言葉が大好きだ。
僕はあの時確かに夢を見た。だから僕も夢を見せたかったんだ。
マジックという名の魔法で。
あの感動をみんなに味わってほしかった。
はじめて僕が子供たちにマジックを見せた時。
僕は最高の気分だった。
僕のマジックを見て子供たちが笑顔になったのだから。嬉しそうに、楽しそうに、夢を見たかのようなみんなの瞳に僕は高揚した。
約束を守れるかもしれないのだから、いや守ったのだから。
ー
『ん?お客様かな。
ごめんねレディー、今日はもう閉店時間なんだ。また来てくれ。楽しみにしてるね。
うん?え、取材かい?
あぁ平気だ。答えられる範囲で応えようか。
……成程。僕の産まれは決して羨まれるものではないけど、僕は良かったと思っているよ。だって最高に楽しかだからね。
仲間と笑って、一緒に腹を空かすのは。
他の人には味わえない体験をしていると思っている。
僕はマジシャンというモノに誇りを持っている。
夢を見せられる職業で、路地裏でも輝かしい希望と夢を見せられるから。
だから僕は決してココを離れないよ。
それに僕はココで夢を見せてらった。
あと僕は、もう一度彼に会いたい。
今度は僕のマジックを見せてあげたいんだ。夢が続いたことを教えてあげたいんだよ。
あぁ、後は……開店している時に是非来てください。
とびきりの夢を見せてあげますよ。ええ約束です。僕は約束は守りますよ。必ずね。』
No.15 夢を追うマジシャン。
ー
“だって僕は夢を見せると約束したのでね。”
と彼は、空を見て笑った。