人魚
[人魚]
完璧だと言われた人魚の話をしよう。
ー
温かい海の海底に深海都市を造って生活して
いる人魚。
人魚の鱗は高価で売れ、人魚の瞳を売れば一生遊べる金を手に入れる事ができる。
いつしかそんな人魚は高級品となっていた。
そんな人魚の世界。
そこには、姫となる女が存在した。
姫となるのは、銀髪の髪を水で揺らめかせ青みがかった瞳。そして鱗が宝石のように美しい、そんな少女だった。
姫というのは禁止された人魚魔法を使え、人間に化ける術を教えられる存在。言わば人魚界の頂点だ。
次期姫も例外なく銀髪の髪に青みがかった瞳、鱗が宝石のように美しい少女だった。だが一つ通常の姫と違う所があった。
誰が見てもわかる。瞳が一つ欠けていた。
それは、人間にくり抜かれたのかそれとも神様からの悪戯か。
それでも彼女はとても美しく、可愛らしかった。
それはもう、天使に匹敵する美しさ。過去の姫の中でも頭一つ飛び抜けていた。
そんな人魚の過去の話をしよう。
ー
彼女は、海が特別寒い日に生まれた。
凍るような海に人魚達が凍える中、次期姫となる少女が生まれたのだ。
人魚は卵生であり、人間で言う五歳程の見た目になってから孵化をする。
彼女は生まれた時、二つの輝かしい瞳があった。
それはもう美しい青みがかった瞳と真っ赤に燃える炎のような瞳。
両親はその姿を見て、息を呑んだ。
人魚界にとって赤い瞳とは、不幸を意味する。そんな瞳を持った少女を自分たちが産んでしまったのだ。
その日の晩、綺麗な海は真っ赤な血に汚れた。
次の日の朝、美しい少女の瞳は一つになっていた。
両親は次期姫に自分の子をする為、瞳をくり抜いたのだ。それはもう、一思いに。
それは自分達が富を得るためか、少女の未来を思ってか。
そして見事少女は姫に選ばれた。
彼女の絶望に染まる瞳はもうハマってはいなかった。
ー
髪を銀髪に染めれば、教会にはバレてしまう。
だが、くり抜かれた瞳は確かめる手段がなかった。
教会は彼女を姫と決め、姫を表すティアラを冠せた。
ー
歴代人魚姫。
その誰もが一際輝く長所を持っていた。
顔が美しい、頭がいい、尾が長い……とまぁ、色々とある長所。
だが、彼女は全てを持ち合わせていた。
顔は西洋人形のように美しく、頭にはパンパンに知識が詰まっている。
尾は、竜のように美しく長い。
そして、性格も良いときた。
彼女は完璧だったのだ。
片目がない事を除いては……。
民衆からの支持も高く、慕われている。
彼女の言葉を一声聞いた人魚の病気は治るという程、彼女は崇めかれていた。
それは、奉られている天使のように。
私は意識がハッキリした頃から、右半分が見えなかった。
両親は、“昔、人間に取られたの”と私を慰めてくれ、抱きしめて泣いていた。
その頃から私は強い憎悪を人間に抱くようになった。
私の瞳を奪った人間に、
両親を悲しませた人間に。
だが、私が姫になった頃。
私は思った。
本当に人間が、私の瞳を奪ったのだろうか?
両親が言っていることは、事実だろうか?
何故そう思った?
ー街でオッドアイの少年を見たからだ。
私の瞳も元はオッドアイかもしれない。
私は私の小さい頃の写真を見たことがない。
二つの瞳がキラリと光る頃の写真を。
私はより一層、右の瞳に焦がれるようになった。例えそれがどんな色、形をしていようとも私はソレを見たいと思った。
ー
『取材? ええ、ちょうど暇していたからいいですよ。
それにしても、アナタ人間ですか? いいや、珍しいモノだと思いましてね。
フム、私は姫になった事を後悔してはいません。ですが右半分が見えないことは、悲しいです。
皆と同じ世界を観れない。とても悲しいことですよね。同じ景色で一喜一憂できないのですから。
……望みですか?
瞳が欲しいですね、右目の。
海底には魔法使いが居ませんが、地上に入るのでしょう?
いませんかね。私の瞳を治せる魔法使いは。』
No.14 親の裏切りを受けた人魚。