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[鬼]


献身的と言われた鬼の話をしよう。



赤い提灯で灯された鬼市。

賭け事で賑わう市場。

そんな夜の街には、沢山の鬼が溢れていた。


鬼市の、外れに建つ立派な屋敷。

そこの主人はセンター分けの前髪。紅葉のような赤い艶髪に、陶器のような白い肌から伸びるスッとした鼻に隈が広がっている。

見るからに不健康そうな鬼であった。 


ある時代には、魔王と対をなす恐怖として信仰され、崇められていた実力者。

だが、鬼市では憧れの対象としてみられた鬼である。

その誰にも怯えない態度、圧倒的実力。味方にいたら誰もが信仰するだろう強者。

近接戦では右に立つ者はいないと言われ、彼の黄金の瞳と目があったら生きては帰れないと噂が立つほどだった。


彼の首には約鉱石一万個分の価値があると言われ、賞金狩りを倒していくうちに恐怖の対象となったとか。

そんな彼の口癖は、

“命乞いなど愚かなことをしたものから死に至る。”

彼らしい言葉だと、鬼市では賞賛の嵐だった。そんな噂を耳にした彼は、大きなため息を一つつき物音一つしない屋敷内を見回した。


そんな鬼の過去の話をしよう。



彼の生まれは、なんてことない商家だった。

有名で少し裕福な鬼の商家。立派な屋敷を構えられる程の家系が彼の出だった。


そんな家に生まれた黄金の瞳を持つ少年は、大変縁起者であり両親はそれはとても大事に育てたという。

だが彼は大変臆病者であり、物陰にすぐ隠れてしまうような子であった。婚約者を作れる訳もなく、彼の両親は頭を抱えたという。いつかでからだろうという考えも裏腹に、十五になっても婚約者ができなかった。


そんな時だった。

彼が思い人を連れてきたのは……。


連れてきたのはとても美人な人間の町娘。

茶色い髪に刺さった簪が、リンと可愛らしい音を鳴らす。めかし用の着物に身を包んで丸い瞳がキラリと光っていた。

鬼の両親を見てもびっくりするどころか、堂々と胸を張っている。

見るからに彼の性格とは真逆だ。

だが、問題なのはそこではなかった。


彼が連れてきたのは人間の娘だった。だが両親は息子の選んだ子だから、と快く許可をおろしたという。



だが世間がそれを許す事はなかった。

鬼が人間を娶ることを決して許さなかったのだ。それも、有名な商家の息子が……。

結局は、家柄にとらわれてしまうのだ。もしも彼が商家でなかったのなら、自由な身分ならば逃げることもできたかもしれないのだ。


だが、彼は臆病者だった。

牢獄に連れてゆかれる彼女を引き戻すことができなかった。


彼は臆病者だった、ただその一言に尽きる、出来事だ。


なら何故、彼は脅威の存在までのしあがったのだろうか?

その答えは、本当に簡単なものだった。彼女が一言、“私、この市場好きだなぁ”と呟いたからであった。

愛する人の好きなものを守ろうと彼は、市場がある国に尽くしたのだ。

……たとえ、自分が好きではなかろうと。

愛した者が好きであった場所を意地でも守り抜こうと。



目を奪われるとは、この事なのだろう。

リンとなる簪に、丸い綺麗な瞳に、その性格にオレは惹きつけられた。

だが、彼女は人間の子だったのだ。

おどおどしているオレを捨て置かずに、ゆっくりと話を聞いて、相槌を打ってくれる。

オレはそれがとてもつもなく嬉しかった。本当に胸の奥が温かくなったのを覚えている。



彼女が、牢獄に連れて行かれた。

僕はただそれがショックで、腹が立った。

彼女を連れて行った警官に? いいや、オレ達を批判した世間に? 違う。

何もできなかったオレにだ。

オレがもっと強かったら、オレにもっと権力があったら。


オレは本当に臆病者だ。そんな事知っているつもりだった。

だが、オレは……、愛する人すら守れなかったのだ。

オレはもっと強くなると決めた。彼女を迎えに行くために。牢から出し、また彼女が好きだと言った市場を歩くために。


またあの笑顔を隣で見たいと願ったから。



どうだっただろうか?

これが献身的と言われた鬼の過去だ。



『エッ、おわっ、びっくりしました。

よくこの屋敷に足踏み入れましたね。確かに鍵閉めてませんけど……。

取材……拒否権、ないですよね。知ってましたよ。ええ、聞きましょうか。


オレはこの立場でいることを別に恨んでいません。確かに人間だったらオレは彼女と幸せになれたかもしてないし、死ぬまで一緒だったかもしれません。

ですけど、もう嘆いても仕方がないことですからね。


……成程、彼女ともう一度市場は歩けませんでした。?、確かにもう牢から出せると思いますよ。だけど、人間の寿命はオレらよりもっと短いんで。オレが権力集める間にもう寿命が尽きてしまったようでね。ふふっ、寿命だと思いたいですね。

ん?オレはここを愛してはいませんよ。彼女がいなかったオレは彼女を捕まえたここを、消し炭にしてましたよ。でも、彼女が好きと言ったのです。たとえ魔王が襲って来ようと、人間の勇者が襲って来ようと、ここは守り抜きます。えぇ! 勝ちますよ。

全ては愛する人のためにね。』


No.11 ただ愛した者の為に頑張った鬼。

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― 新着の感想 ―
年末までお疲れ様です。 いつかこれらの物語が1つに紡がれるのか、そうでないのか、とても楽しみです。
2024/12/30 18:27 退会済み
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