旅人
[旅人]
目標なし、と言われた旅人の話をしよう。
ー
険しい道を登った先には絶景が待っている。
そう言われた“フルーク大山脈”。
その噂は正しく、フルーク大山脈な頂上からの景色はとても美しいものであった。
小さく可愛らしい白い花が咲く大草原に、綺麗に落ちる夕日までもが見える絶景スポットだ。
そんな山頂で風に吹かれながら夕日の写真を撮る男がいた。
手に構えるのは古いカメラ。風に吹かれる短い金髪はとても絵になり、褐色の肌はまた男の存在を目立たせた。
赤い……ワインレッドのマントに身を包んだ男だ。
彼は写真家の中で有名で、何の統一性もなく、ただ自分が美しいと思った所を写真に収めていた。それ行為は一部の人間にとって、
“目標なし”とみられていた。
彼は今まで沢山の都や街、村に訪れその日暮らしの旅をしていた。
雑用をして宿に泊めてもらったり、血液を売りお金を稼いだり……まぁ方法は色々あるが彼はそれでも旅を続け、写真を撮り続けた。
前に旅を続ける理由を尋ねた宿主が居たという。その宿主に彼は、“もうなくなりましたね”とそう言ったそうだ。
宿主は終わりが来るのを待つ“目標なし”と思ったそうだ。だが、それも間違いではなかった。
彼は、終わりを待っているのだ。
自ら向かうのではなく。
そんな旅人の過去の話をしよう。
ー
小さな村の大きな農家で彼は生まれた。
村の中でもいい地位をもらっている家系。
その小さい村は、白い綺麗な花が沢山と咲いている地域にあった。
僕はいつか都に出て、沢山の世界を見たいと言った。
でも、その農家から逃げられないと両親は言った。先祖代々続く農家、この一族に生まれたら農家を継がなければいけない。逃げる事は決して許されないとだと。
そして、両親も言った。
“沢山の景色を見てみたかった”と。
だが二人はこの人生に満足していると言ったそうだ。
それでも両親はとても優しく穏やかな人で、愛情深く育てられた。
しっかり注意をしてくれる、意見を聞いて考えてくれる、褒めてくれる……本当にしっかりと親をしている両親だ。
そんな両親の元で育った彼は、とても優しい子に育っていった。
友達にも恵まれ、環境にも恵まれて本当によい幼少期を過ごしていた。
だが、幸せはすぐに崩れていく。
あるクリスマスの日。
小さな村に大きな鐘の音が響き渡った。
先住民との戦争が始まったのだ。
ー
真っ赤に染まる目の前。死んだ両親の亡骸。血のついた手。少年は一人で立ち尽くしていた。血の海となった故郷の村で……。ただ一人だけ。
暗闇に立つ夜叉のように。
赤く染まった白い花を踏み躙った。
ー
そこから彼の旅は始まった。
父が残したカメラを持って、母が残したマントを被って。
彼は、両親が見たいと言っていた外の写真を撮り続けた。見たことのない景色や、建物。村では考えられなかった人の活気。
沢山のモノを見て学んだ事がある。
僕たちの村で起こった事は、本当に小さい事なんだと。載っていたとしても、記事の一番端に小さく書いてある程度。
世界からして本当に小さいことでも、たくさんの命が奪われていくのだと……彼は実感した。
そんな世界に絶望した、僕は死に場所を探すために旅へ出た。
最後を彩る場所を探す旅に出たのだ。
そして、彼の旅は続いた。
ー
ある時、僕は絶好の死に場所を見つけた。
綺麗に立つ天使の石像。
それは、忘れ去られたかのように海のそばに建てられていた。だが、不思議と真新しい花も飾られている。
そんな事はどうでもいい。
天使の下で死ぬ。それはとても絵になるのではないか。僕はそう考えた。その時天使の手ナイフを持たせ、刺されて死ぬと決意した。
最後の晩餐を食べて明日の早朝僕は死ぬ。
朝方、僕は一人で荒れ果てた海のそばまで足を運んだ。強く吹く風、空はどんよりと曇っていた。
天使の手に冷たくなったナイフを持たせる。そして、心臓を刺そうと近づいたした瞬間。下に置いてある花束が目に入った。
白く小さな花の花束。
きっとプロポーズ用の花束。
だが、振られましたと言わんばかりにズタズタにされている。
何故だろうか。僕は心臓がナイフから遠ざかっていった。
何故だろうか。僕はとても懐かしい気分になった。
何故だろうか。僕の目から涙がこぼれ落ちてきた。
何故だろうか。僕は昔語った夢を思い出した。
僕はその場で泣き崩れた。
その捨てられている花束を握りしめて……。
ー
『取材ですか?
こんななんでもない男に?まぁいいですけど。
…………自分の人生は思い描いてない事ばかりですよね。
家族が死んで、故郷は血の海になったり、それにまだ生きていたり……。
ですけどこの人生で良かったですよ。
綺麗に散るのもいいですけど、結構ドライフラワーもいいと思いますしね。
それに、ほらこんなに綺麗な景色が見れるんですから。母と父にも見せてあげたいモノです。
でも死人には、無理ですよね……。
でも、昔の“死に場所を探す旅”はもうしたくありません。そんな目標よりも、何も考えない今の方が何千倍も楽しいですから。
この旅は両親の為ではなく、自分の為ですからね。』
No.10 目標を捨てた旅人。
追記ー
彼は、死ななかった理由についてこう語った。
『もう、白い花を他の赤で染めあげたくはない』と優しく笑いながら。
いつも読んでくれてありがとうございます!