魔王
[魔王]
冷酷無慈悲と言われた魔王の話をしよう。
ー
とある砂漠の大きな王国……だった亡国に大きな城が建っていた。
そこの玉座に腰をかける、蜂蜜のような瞳に奇抜なショートカットの髪を拵えた男。
凍ったかのように人を見る目は冷酷無慈悲な魔王、そのものの瞳だった。
かつての大戦争時代。
一人で敵およそ千五百人を滅殺。
血の海に静かに立つ姿。
ピクリとも表情を動かさない。
睨みつければ50人が意識を失う。
剣を抜けば、150人が死に至る。
剣を振り下ろせば470人が痛みもなく息を引き取る。
そう言い伝えられている。
一人で玉座に腰を下ろし、魔王と怖がられ、恐れられたただの人間。
そんな男の過去の話をしよう。
ー
とある小さな砂漠の村に、とても綺麗な瞳を持った男の子が生まれた。
風が気持ち良い日のことだった。
その後、その子は神の子として崇められた。
理由は簡単。
その地域に伝わる神も黄色い瞳をしていたから。
とても美しい容姿だったから。
いくつもの項目をクリアし、ギラギラとした装飾品を身に纏う。
そんな少年に課せられた仕事は、とても簡単な事だった。
神聖な者として誰にも姿を見せてはいけない。
神聖な者として誰とも話してはいけない。
ただ神に願わなければいけない。
“民を守ってもらえるように”
なんと、人任せなことだろう。
ー
オレはなぜ生まれたのだろう?
幼いながらオレは疑問を持った。
月が綺麗に見える季節のことだった。
ー
幼いオレに頭を下げる大人。
幼いオレを恐れる子供。
毎日毎日姿を見せない神に、祈りを捧げる。
毎日毎日よくわからない悩みを聞く。
「子供を恵んでください」
ー勝手にすれば良い。
産まれた子が幸せになるとは限らない。
『きっと、このままで平気ですよ』
「お友達と喧嘩しちゃって」
ー友達が居るとこが幸せだと知らずに……。
『素直に謝るのが良いと思いませよ』
「あぁ、本当に素晴らしいお方だ」
ー貴方がオレの何がわかる?
見たことすらない癖に。
『ありがとうございます』
思ってもいないことをつらつらと述べる簡単な作業。
貼り付けた笑顔に、貼り付けた優しい声色。
ほら、また誰もオレを見ていない。
他人により、一番上にオレは立たされた。
ー
とある日、稲刈りの季節のことだった。
村に盗賊が襲いにきた。
叫び声と、真っ赤な視界。
誰も神を責めなかった。
誰も自分を責めなかった。
ただただ、全員オレを責めた。
ー
「おい、どうなっている?」
ー叫ぶ男の声
「アンタを信じなきゃよかったわよ」
ー頭に響く女の声
「今まで、よくしてやったのに」
ー地を張るような老人の声
「何のために生まれたのだ!」
ー責め続ける父親の声
ー
神様なんて居ない。
この村の結果を見ればわかるだろ?
畑は荒され、家は燃やされ、金品は奪われる。
神が居るならオレの味方になって欲しかった。今までのオレに慈悲を与えて欲しかった。
これも、あれも、全て…………、
“他人任せの結果だ”
自分の力で自分の思うように、自分の力でトップに立ちたい。
オレはそこら辺に落ちていたナイフを手に握った。
それは生きるためだったのか、はたまた自分のためだったのか?
ー
どうだっただろうか?
これが冷酷無慈悲と言われた魔王の過去だ。
ー
『はっ、こんな俺に取材しにくるとは。
その度胸に免じて一つだけ質問を聞いてやろう。ん?あぁなんだそんな事か……。
いいか? 俺は自分で神になった。
恐れされる……いいや、一番の存在に、
自分で一人になった。
他人に何も頼んではいないぞ。
それに俺は憎んでいない。村人を?
いいや神をさ。』
No. 1 本当の姿を見て欲しかった魔王
追記ー
立ち去ろうとする私に魔王はボソリと呟いた。
話し出したのは村に強盗が入った日のこと。
『オレはそこで初めて人を切った。
相手からは血が噴き出ていた。
だが、何も思わなかった。ただ高揚感を覚えた。
そこで俺は魔王となった。いいや、魔王になると決めた。魔力もないのにおかしな話だろ?
選ばれた者には自分からなると決めたからな。』
そう言い、魔王は優しく砂を撫でた。
読んで頂きありがとうございます。
反応して頂けると活動の励みになるので気軽にしていってください。