就職
この世界は人間と魔族が共存している世界。
この世界にいる1人の魔族の物語…
俺は魔族領土に住む魔族だ。名前も与えられない。いわるゆ下級魔族というものである。
今、街に出ている。仕事を探すためだ。ただ、こんな下級魔族を雇ってもらえる職場なんてない。
そう思っていたとき、ふと張り紙が目に入った。
『魔王城で働く人募集!』
その下には、どんな人でも大歓迎と書いてある。
どんな人でもという言葉を信じて魔王城に行ってみることにした。
「何をしにここへ?」
門番に止められた。事情を説明したら通してくれるだろうか…
「ま、魔王城で働けるという張り紙を見て…」
服もボロボロな見た目だ。通れるわけが…
「――それでは案内します。ついてきてください。」
予想外の言葉で驚いた。言われる通り門番の人について行く。
10分ほど歩いてついたところは…
――魔王様の部屋だ。
「魔王様。この方が、仕事をしたいという者です。」
『この方』……
今までこのような言葉を使われたことはない。常に差別されて生きていたからだ。
「名は何と言う。」
魔王様が見た目に反し優しく喋りかけてくれる。
「――無い…です。」
「…そうか。
それでは、アズライトと名乗りなさい。」
まさか名前がもらえるとは思って無かった。
「名前を持っていないということは、住む場所はないのか?」
「はい。」
「見たからわかるだろうが、この城は広い。私一人だとどうしても持て余してしまうのだ。だから、どこかの部屋を好きに使っていいことにしよう。」
「いいのですか?!」
「何だ?嫌か?」
「いえ、全然!ありがとうございます!」
「なかなか人が集まらなくてな。先に3人ほど働いてる人がいる。あとは後ろのやつに聞いてくれ。」
……後ろ?振り向いたらさっきの門番とは違う人が立っていた。気づかなかった。
とりあえず、部屋を出る。
「魔王様、失礼しました」
「私はウヴァルヴァイトです。魔王様の秘書官をやっております。それでは、着替えましょう。」
連れて行かれたのは服がズラッと並んでいるウォークインクローゼットのようなところだ。
「好きなものをお選びください。」
好きなもの。なんでもいいのか。
といったものの、自分には高級な服は似合わない。だから質素なものを選んだ。
「それでよいのですね?」
「はい。」
「ところで、なんでこんなことまでしてもらえるかって思ってません?」
「な、なんで分かるのですか?」
「私もそうだったからです。」
「魔王様は差別が嫌いなので、誰にでも対等に接しているのです。」
「だから…」
納得した。魔王様が自分に色々してくれる理由が。
「先ほど『私もそうだった』と言いましたよね。
私もあなたと同じ下級魔族だったのです。だから、アズライト様のお気持ちは痛いほどわかるのです。」
「…そうだったんですね。ここでの生活は楽しいですか?」
「はい。とても。」
このときにこぼれた笑みはとても明るく不思議と安心するような笑みだった。
最初は、仕事見学から始まった。
部屋の掃除や料理、城下町の見回りから人間界との交流など様々な仕事をやることになっている。
ただ、待遇はとても良い。
「お疲れ様です。明日から仕事が始まりますのでよろしくお願いいたします。」
「はい。よろしくお願いします。」
貧乏魔族の魔王城仕事が幕を開いた…