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後の悔い先に立たず  作者: 狸ノ腹
第一章 三度目の始まり
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【呪いと言う名の毒】02

「……それで、何で俺を里に?」


 鍋を食べ終え、カナデが台所で食器の後片付けを行なっている最中。

 なぜ俺を龍人の里へと行かせようとしているのか、その真意を先生に聞く。


「さっきも言っただろ、お前には里に行って酒を持ってきてもらいたいだけさ。あの子に明日、朝食と酒の二つを持って来させるわけにはいかんだろ? お前だって前金を貰ったんだ、文句言わすに行ってきな」


 前金って……さっきの食事のことか? はなからから断るつもりはないが……。


 間違いなく里に行ったら面倒なことが起きる――絶対と言ってもいいだろう。

 なんせ人間を敵だと思っている人々の里へ行くんだ、何も起きないわけがない。


 それに今の先生のニヤつき顔には何か裏がある。


「酒樽は里の神社に置いてある」


 先生はそう言って一枚の手紙を渡してきた。


「それを神主のカイに渡しな、そうすりゃ事情はわかるはずだ。それと夜までには戻ってきなよ、酒が無いと晩酌が楽しめないからね」

「……わかりました」

「ああそれと、これを飲みな――」


 先ほどの手紙とは別に、今度は親指ほどの透明な液体が入った小瓶を渡してくる。


「何ですかこれ?」

「気にしなくていい」


 気にするなって……何かもわからない液体を飲めというのか? 


「はぁ〜」


 ため息を吐きながら、それ以上何かを言うのは面倒だと思った俺は、小瓶の蓋を開けて、その中身を一気に飲み干した。


「どうだい?」

「……不味いです」


 味は正直わからないが、苦味があるのは何となくわかる。


 これはそう、にがりのような味だ……味覚が弱くなっているのにこれほど味を感じるという事は普通に飲めば相当に苦いもので……。


「喉がイガイガするんですけど、これって毒ですよね……?」


 これが毒であると確信する。


「ああ、そうだよ。それは魔術で作った即効性の神経毒さ。いつ質問してくるのか待ってたが、自分から聞いてくる気が無さそうだったから教えてやろう。カズ、お前は自分は死ぬとそれに対してのスキルかアビリティが備わると思ってたろ? それに死因ごとに耐性を得られるとそう思っていたろ?」

「えぇ、思ってましたよ」


 まぁ、能力値のスキルとアビリティ欄が空白だと確認するまではだが、確かに俺はそう思っていた。

 俺の『甦り』にはそう言った耐性を得られる力があるのだと、そう思っていたのだ。


 実際この力によって、何度か眠らずに死んだことで眠らずに済むようになり、餓死することで食事を必要としなくなった。おそらくバジリスクに、記憶はないが殺された時に毒の耐性も得られたのだと……そう錯覚していた。


「この力って何なんですか?」

「鬼才のことかい? それとも耐性のことかい?」

「できれば両方聞きたいですけど、今聞きたいのは耐性の方です」


 自分の力なのだから知りたくはある。

 スキルや魔術を習得できない代わりがこの力なのだとそう俺は思っていた。


 けれど能力値欄には何も記されていない。

 それはこの力がスキルやアビリティではないという事であり、ではいったい何なのだろうか……そう思うのは当然だった。


「そうだね、お前の耐性が何なのか、簡単に言っちまえば耐性だよ」


 この人に聞いたのが間違いだった。


「おいおい。そんな呆れた顔をするな、もう一度言うがその力は耐性だよ。この世界の加護じゃなく、お前の純粋な耐性なんだ」


 先生はそう言うと机の上に置かれていたお茶を飲み干し――


「殆どの奴らが勘違いしてるが、スキルやアビリティは純粋な自身の力じゃない。世界の神々が与えた加護や恩恵にしか過ぎない。だからこそお前のそれは耐性――毒や病気なら抗体や免疫だし、空腹や睡眠ならただの慣れ」

「慣れって……」


 毒の耐性が抗体や免疫によるものだと言うのはまだ理解できる。だが眠気を感じないことや食事を必要としないのを慣れだと言われても、素直には受け入れられない。


「慣れは慣れさ。お前の記憶を垣間見たが、確かに眠気を感じるような様子もなく無意味に歩き続けてた。だがありゃ脳の機能は大半眠ってたようなもんさ。人は一割程度しか基本脳を使ってない。まぁ一日を通せば使うが、歩くだけの動作に脳の機能を一割も割く必要はない。それに人が眠る主な理由は精神的な負荷を解消させて体を休ませるのが理由であって、脳を休ませることなんておまけさ。今更お前の狂った精神にどんな負荷をかけようが変化なんて起きやしないし、お前の体の異常性で体が段々とお前の無茶に慣れていってるんだよ。普通は何世代もかかるってのに順応が早いこった」


 そう説明を終えると先生は廊下へと視線を移し、片付けを終え、鍋を両手で抱えるカナデを見ながら。


「里まで頼んだよ」

「はい……」


 返事を返したカナデを見るに、気乗りはしていないようだ。

 それはそうだ。

 自ら問題の種を蒔くような行為なのだから、気が進むわけがない。


「話は帰ってからまたしてやる。今は行きな――」

「はい」


 話は大体終わっていた気もするが、とりあえず返事を返して俺は屋敷を後にする。


「走っても?」

「もちろん」


 鍋を抱え、こちらを見ることなく聞いてくるカナデに返事を返しながら、カナデは一度俺のことをチラリと見ると『はぁ』と、短いため息を吐き。


「一つ言っておきますが、いくら貴方がセン様の弟子なのだとしても、怪しい行動をしたら問答無用で殺しますから。それと里に入ったら誰とも目を合わせないでください。殺されでもしたらセン様に申し訳ないので」

「わかった。できる限り気をつけるよ」


 一方で殺すと言い、もう一方で殺されないよう忠告をする。

 矛盾しているが、彼女なりにその気持が嘘偽りのない本心なのだろう。


「もしかして……セン様に何も聞いていないんですか……?」

「何のことを言ってるかわからないから、多分聞いてないんだと思うけど――君たちが俺……と言うか。人間を嫌う理由のことかな?」

「……はい」


 カナデの声色が下がった。

 この話をしたくないようだが……聞けば教えてくれそうだ。


「人間が君らの里を襲った? それとも身近な人が捕まった?」

「…………」


 どうやら正解だったらしい。

 それもおそらくは俺が想像する以上に悲惨だったのだろう。


「いつのこと?」

「十一年前です……」


 十一年前――人間が龍人達にどのようなことをして、どれほどの被害を出したのかはわからないが、彼女や他の龍人達にとっては忘れることができない記憶となり。人間とはそういった残虐行為を平然と行う生き物なのだと、そう思っているのだろう。


「……それでは走るので遅れないで下さいね」

「わかった」


 連れて行ってもらうのだから鍋を持ってあげた方がいいかとも思ったが、俺がした質問で嫌な記憶を思い出させてしまったらしく。鍋を強く抱きしめたその様子に、俺は言葉をかけることなどできなかった。


 手慣れた様に山を駆け降りるカナデの後ろをついて行く。

 鍋を抱え白いポンチョの中にはハイカラな着物を着ていると言うのにその速度は――身体能力が高いせいか並外れていた。

 少しでも気を抜けば置いて行かれてしまいそうだ。


『魔物、亜人、人間。この中で一番基礎能力が低いのは人間だ。それではなぜそんな人間が魔物に勝てると思う?』


 ――以前、こんな質問をされたことがあった。


 俺はその質問に『スキルを使い身体能力を限界まで引き上げ、その限界まで引き上げられた身体能力を、別の攻撃系統のスキルによって昇華するから』と答えた。


 まぁ、正解を言えば俺の回答に加えて、人間はパーティーを組み一対一での戦闘を出来るだけ避けるから。と言うのが正解だそうで。


『それではなぜ人間よりも圧倒的に基礎能力が高く、人間と同じ知能がある異種族が人間達の奴隷になっているんだと思う?』


 その答えに俺は迷うことなく『人間の方が数が多いから』と答えた。

 いくら亜人が人間より強くても数の力には勝てないだろうと考えたからだ……。


 ――だが、正解は違った。


 人間が亜人を奴隷にできている理由――そして、亜人が人間に従いざる負えない理由。

 それは、人間が亜人の子供や家族を人質にとり、奴隷になるよう強要しているからだそうだ。


 三百年以上前、この世界の亜人と人間の割合は三対一で、人間より亜人の方が圧倒的に多かった……だが今の割合は三対一で、人間の方が亜人より多く人種割合が入れ替わり。

 そして今、残った亜人達の、その七割以上が奴隷として生きていた。


 それがこの世界の現状。


 なんて人間らしい――人間による地獄なことだろうか。


 本当に吐き気がする。

 人間という種族を、フィーと同じ人間をそう思わせる(ゴミ)どもには心の底から反吐がでる。





「着きました」

「里ね……」


 里に到着し周りを見渡した俺は呆れたようにそう呟いた。

 馬鹿にしたわけじゃ無い、その逆だ――


 里と聞いて勝手に山奥や森にある集落のようなものを想像していたが、龍人の里の街並みは、子供の頃の授業で習った大正時代――大正ロマン漂うものであった。


 カナデが街の入り口にいる番兵の元へ、小走りに駆けよって行き。


「入ってください」


 番兵に俺のことを説明し終えたカナデに里の中へ入るよう手招きされ。

 そして、俺が街の中に入ると、カナデは里の奥へと指を差し、その先には鳥居が見えた。


 あそこが神社か。


「私はこれで……」

「色々ありがとうごさい――」


 お礼を言おうとしただけだった、だが……。


「――里の中で! 里の中で、笑うのはやめてください……」


 お礼を言う際に笑顔を作ったのがいけなかった。


「ごめん。気をつけるよ」


 カナデの声は張り裂けそうな声だった。


「はい……気をつけて下さい……」


 それでいて今にも泣きそうな声だった。


 カナデが離れて行き、その後ろ姿を俺はただ見送った。


 里へ入る際の番兵達が俺へと向ける視線からも気づいてはいたし、里中にいる龍人達が俺を見る視線には、皆が皆――殺意と憎悪を持っていた。

 今、俺はカナデに最後の忠告をされたのだろう。


 さっさと神社へ向かうため遠くに見える鳥居の方へと進みながら、里にいる人たちの着物姿を横目に見て。

 男達が履いている下駄を見て少しだけ興味が湧いた。


 今の俺の服装は真っ白な、先生の元でもらった武道袴を着ており、靴は以前、盗賊から奪った革製のブーツを履いている。

 ここのところ走りすぎて靴底がすり減ってしまっているので、そろそろ代わりになる靴を用意しなければいけなのだ。


 そんなことを考えて、街中にいる男達を見て……。


 あぁ、最悪だ……。


 里の違和感に俺は気がついた。


 わかっていたはずだったというのに、本当に最悪な気分だ……。


 街には殆どいなかった。

 人がじゃ無い……。


 龍人の里には女性が殆どいなかった……。


『この世界は腐ってる』


 そう思いながら、俺は口から出かけた言葉を飲み込むのだった。


意見大歓迎です、評価も待ってます!

誤字脱字わからない表現があれば教えてください。

読んでいただきありがとうございました。

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