表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
後の悔い先に立たず  作者: 狸ノ腹
第二章 学園邂逅
46/46

【二十二】03

●○●○●○


 目の前にいるカズが、得体の知れない何かになった。

 これが本来の修羅道を使ったカズの姿なのだろう。

 肌が痺れていると錯覚するほどの威圧感を感じる。

 学園で過ごした影響か、使っていなかったせいなのかわからないが、先ほどまで無意識的に抑えられていた力が、その存在感と共に解き放たれたようだ。


「アビ……今すぐ俺の首を刎ねるか、死ぬか選べ」


 そしてこの選択……感情がわかるわけじゃない俺だって、冗談で言っているのではないとわかる。

 本能が斬れと叫んでいる。

 そうしなければ殺させると、そう俺の本能が警告を鳴らしている。

 だと言うのに俺は……俺は笑っていた。


 お互いの過去について話した時の雑談。


『――は? お前、先生に一撃入れたのか?』

『入れたって言っても、無茶な体勢からの大したことない一撃をだけどな――』


 大したことない一撃だとカズは言ったが、先生に一撃を当てる、その意味をこいつはわかっているようでわかっていない。


 だから試したいと思ってしまった。

 キッドさんと戦い、その実力を出させることができなかった俺が、この状態のカズとどこまでやり合えるのか。

 それをどうしても試したい。


 意識を集中し、スキルを全稼働させ。

 そして、俺が『こいよ――』と、言う必要もなく。

 再開の狼煙はカズの猛攻と共に始まった。


 尋常ならざる速度で迫ってきたカズの拳を、刀と左腕を盾に、衝撃を後ろへ逃して防ぐ。


「――ッ」


 ――が、盾とした左腕が折れ。

 そんなことお構いなしに、次の拳が――それを躱しても次が――次から次へ。

 怒涛の如く命を刈りにくる。


 攻撃は先ほどまでと同じように躱せる。

 躱せるが――その全てが、当たれば致命傷を免れない。

 そして何より、そんな攻撃をしてくる当の本人は、こちらの攻撃を躱すつもりがなく。

 だからこそ、その隙を狙おうとは思わなかった。

 カズは斬撃を喰らおうと、攻撃を誘っている。

 そして一刀で決め切らなければ、刈られるのはこちらの方だ。


 全身の汗が妙に水っぽく感じる。

 躱し続ける攻防の中、距離を取るための魔術を使う余裕もない。

 息をするのもやっと……いや、最後に息をしたのはいつだ?……。


 加速する攻防と思考の中に生まれた疑問。

 ――いや、構うかそんなこと!

 だが、苦しかろうと、そんな思考をする余裕はないと、その思考を切り捨て。

 ――――が、しかし。

 そんな思考が――思考をしない為の思考が、その隙を生んでしまった。


「――――ッヴ」


 左脇腹に襲う衝撃は破壊的で――魔装を纏い破損はないが、闘気と身体強化だけでは補い切れないその衝撃に、骨と内臓が被害を受け――――。

 死が――――自身の死が脳裏によぎる。


 あっけない終わり。

 そしてその時は刻一刻と、次の攻撃が放たれたことによって目前に迫り。

 ――負けられない。

 決意にも似たその感情が、死を理解した頭と魂に、再三の火を灯した。


 闘気をさらに強固に練り纏い。魔力を魔装へ絞り出す。

 この攻撃は避けられない。

 ならば、避ける前に斬り殺し、その威力を殺せばいい。


 一刀あれば十分だ。

 崩した体勢から渾身の一撃を振り下ろす。

 その一刀はカズの動きを正確に捉え。

 俺の命を奪う攻撃より先に、その鋒が当たる。

 ……はずだった。


 あぁ……そうだ。

 この土壇場で、こんなイカれた戦闘をするくせに――最後の最後で理性を保っているからこそ、こいつは修羅道を、堕ちるとは言わず使うと言っているんだ。


 渾身の一刀は空を斬り。

 避けたカズが目前に迫る。

 急いで刀を戻そうとするが、次の攻撃は不可避。


 ――だが、なぜだかその一瞬、カズの意識が俺から離れた気がした。

 そして、その動きが遅くなった気がした。

 ――でも、気がしただけではなかった。

 その一瞬の隙によって、振り下ろした刀を切り返す猶予が生まれ。


「――っあ」


 隙が生まれた理由を考えることなく、俺はカズの首を斬り裂いた。

 致命ではなかったが、追撃が来ることはなかった。

 カズの首からは血が流れ出し、骨が繋がっているのかも怪しいが、その断面からは呼吸が漏れ、真っ赤に染まった瞳は俺の顔を捉えていた。


 終わりだ――。

 戦闘の意思を手放したカズに対して、俺は最後の一刀を振りかぶり。

 最後にカズが何かを伝えようと声を発したが。


「ワぁ、ア゙ど……だンダ――」


 その言葉が耳に届く前に――俺はカズの首を斬り落とした。


「何をやってるんだ‼︎」


 道場の入り口から声が聞こえた気がした。

 だが言葉を返す余裕はない。


「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ――」


 苦しい、呼吸と共に、汗が溢れんばかりに流れ出る。

 死にかけたのだ。

 カズにどの程度理性があったのかはわからないが、少なくとも俺は死を覚悟した。

 修羅道という外道な技を許容する気はないが、この経験は貴重だろう。


「――アビくん!」


 崩れそうになった俺の体を、突如現れたキッドさんによって支えられる。

 なるほど、先ほどした声の主はキッドさんか……。

 頭に血が上っているせいで、音がうまく拾えない。

 キッドさんを見れば状況がわからず、困惑した表情を浮かべている。

 それはそうだ。

 いつから見ていたのか――きっとカズの首を斬り落とす少し前から見ていたのだろう。

 カズが俺から意識を離した理由。

 おそらくキッドさんの気配がしたからだ。

 あいつはあんな状況で、気配に気づく余裕があったのだ。


「――これを飲むんだ」


 キッドさんが瓶を口元につけてくる。

 回復薬だ。

 そしてそれを一口飲んで――。


「ゲホッ、ゲホッ」


 と、俺は咳き込むように血を吐き出した。


「キッドさん……」

「これはやりすぎだ……」


 息が整い視界が広がっていく。

 そしてわかったのは、道場内の一部が半壊しているということ。

 俺たち二人の動き全てに、この道場は耐えられなかった。

 決め手はブラストによって生まれた衝撃波だ。

 その衝撃によって、道場のガラス全てが割れていた。

 どう足掻いても、謝罪は必要だろう。

 でもその前に、キッドさんに見せなければいけないものがある。


「見ておいて、ください……」


 そう言いながら指を差す。

 差し伸ばした先はカズの死体だ。

 キッドさんもカズの不死性について察したのだろう。

 だからこそ、カズの死体が目の前にあるというのに、まず俺に駆け寄ってきた。

 なら一度、自分の目で見ておいた方がいい。

 その方が、カズとやり合う時に全力でぶつかれる。


 そして始まるその現象――。

 カズの体が黒い霧となり、その血肉までもが散り消えてゆく。

 そして突如、意識してなお、いつ現れたのかわからない裸の男が――。


「これが――」


 その手に黒の認証盤をつけた傷一つ無いカズの姿が、道場の真ん中に横たわっていた。


「カズくんの不死性……」


 不死だとわかってなお説明がつかないこの現象に、流石のキッドさんも驚きを隠せないようだ。

 そりゃそうだ。

 こんな死闘を行なって、やっとの思いで倒したというのに、そんな相手が無傷の姿で現れたのだ。

 ――いや、これは俺の感想か。

 まあ、驚くことばかりのこの現象、何に驚くかなんて人それぞれ違うだろう。


「――ぅ」


 痛みで声を漏らすと、呆れたように睨まれる。


「もう一度言うけど、やりすぎだよ」


 左腹の肋骨と左腕の前腕が折れている。

 脇腹に至っては筋肉と、内臓にも多少の損傷があるだろう。


「すいませんねぇ」

「謝るなら申し訳なさそうに謝って欲しいんだけど、今はいいから、その回復薬を早く飲みなさい」


 やれやれと呆れるキッドさんの言葉に従い回復薬を飲み干し。

 腕の骨を正常な位置に戻すため、左腕を右手で引き伸ばす。

 そして最後に、大きく息を吸って、


「――ッ‼︎」


 肺に空気を溜めたまま腹圧を上げることによって、激痛を対価に肋骨を正常な位置へと戻した。

 そしてそんな俺を、キッドさんは痛々しいものを見るような目で見つめていた。


「無茶な方法を……フェルトならもっと楽に直せるよ?」

「あんなババアの手なんてかりませんよ」

「道場もフェルトが主導して直すんだけど?」

「……それは、今度のダンジョン探索で、チャラにしてください」

「まったく……高い授業料だ」


 苦笑気味にキッドさんはそんな皮肉を口にしたが、俺からすれば正当な請求だ。

 あの兄妹に与えようとしているのは、俺が今経験したのと同じ、死んだと錯覚し、これから死ぬのだと理解する感覚。

 その経験が安いはずない。


「そりゃ高いですよ、あいつらにこんな経験させようとしてるんですから」

「ここまで凄惨なものは求めてないよ」

「わかってますよ。でも、絶望はしますよ」

「そうだね」


 俺だって今までの人生でそんな感覚を五回しか経験していない。

 強くなればなるほど、この感覚は死と隣り合わせになり、一生記憶にこびりつく。

 だから今のうちに経験させる必要がある。

 どれだけ絶望しても動けるよう。

 本当の死の瞬間に少しでも抵抗できるよう。

 この感覚を経験して、死を覚悟できるようにならなければいけない。



●●●●●●



 初めて見る天井だ……。

 目覚めて最初に目に映ったのは、真っ白な清潔感のある高天井と、周りを覆う白緑色のカーテン。

 薬品の匂いがするので、おそらく医務室なのだろう。

 体を起こしてカーテンを開ける。

 窓の外を見るに今は日暮れ時、死んだ時間から考えると大体午後五時前後だろうか。


「起きたかよ……」

「おう、おはよう」


 眠そうな声で言葉をかけてきたのはアビだ。

 アビは先ほどの俺のように隣のベッドで横になりながら、眠たそうに目だけをこちらに向けていた。


「お前も寝てたのか?」

「ああ、お前と違って、怪我がすぐ治るわけじゃねぇからな」


 どの口が言ってんだ。

 確かにその皮肉どおり、俺は死んで甦れば怪我は治るが、治る速度でいうのならアビも人のことをいえない。

 おぼろげな記憶だが、その左腕を砕いた記憶がある。だというのに、今のアビの左腕はなんの固定もされているようには見えない。


「お前こそもう腕はいいのかよ?」

「よかねぇよ。くっついてるがまだ二、三日は無茶できねぇ」

「はっ、逆に二、三日で無茶できるなら十分だろ」

「やんのか?」

「もうやったろ?」

「――ふっ、確かにな」


 とりあえず、軽口を叩ける程度には元気そうでよかった。

 だが気になる部分がもう一箇所ある。


「肋骨も二、三日で治りそうか?」

「骨はな、内臓の方は十日はかかる」

「やっぱあれはまずかったか」


 記憶を掘り起こして思い出すのは、絶え間ない攻防の中で、避け損なって攻撃を喰らったアビの姿。

 流石にあの一撃は、修羅道を使っていた俺も多少焦った。

 まあ、すぐに臨戦に戻り正気を取り戻した様子に俺も戦闘を続けようとしたが……。


「――っあ、そういやキッドさんいたよな? 俺の首切った時……あれどうなった?」

「多少怒られただけだよ。ああでも、甦りについては話しちまったぞ、特性も込みでな。修羅道についてはバレてなさそうだったから黙っといたが、何かしらの力を使ってたのはバレてると思っとけ」

「さすが――任せた甲斐があった」

「丸投げしただけだろ?」

「任せるって、そういう意味だろ?」

「ったく……」


 呆れて物も言えないという表情をされてしまったが、個人的には悪くない。

 これで、いつでもキッドさんに挑める。


「いつやんだよ?」

「ダンジョン探索から戻ったその日中に」

「キッドさんには伝えたのか?」

「もちろん。ダンジョン探索を頼まれた時に伝えたさ」


 今回のアビとの戦闘のおかげで感覚も戻った。

 あとは戦いに備えるだけだ。

 まあ、その前にダンジョン探索があるが、全快したこの状態なら問題ない。


「怖ぇ顔してんぞ」

「……してない」


 アビからの指摘に、頬を触りつつとりあえず否定する。

 笑っていたのか、それとも言葉どおり人でも殺しそうな怖い顔をしていたのか――その気は無かったが気をつけなければならない。差し迫る問題があるからだ。


「どっちでもいいけどよ――」

「ああ、わかってるよ」


 アビもそれに気づいたから指摘してくれたのだろう。

 エリザたちがこちらに向かってきている。

 医務室にいることは、彼女たちにも伝わっているようだ。


 今回の件がエリザたちにどう話が伝わっているのかわからないが……狸寝入りを決め込み、彼女たちの対応を丸投げしたアビにもう聞くことはできそうもなく。

 俺は悶々とエリザたちの訪れを待ち。


 そして『失礼します……』と入室してきたエリザが、俺の姿に安心した笑顔を浮かべる様子に、どう嘘をつこうかと考え……。

 続いて入室してきたユイの姿に、俺は再度悩むことになるのだった。


読んでくれてありがとう!

評価してくれると活力になります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ