【対談劇】03
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ほんと、今日は訪ねてくるやつが多いな……。
昼食を食べてから時は過ぎ、時刻はすでに午後九時を回っている。
生徒が図書室を使う放課後の間は、アビと今後のダンジョン探索について話し合い。
寮に生徒たちが戻ったこの時間帯に、もう一度図書室に戻ってきたわけだが――それを見越してか、当てずっぽうか、明かりもついていないというのに、俺に用があるのだろう訪問者が二人、図書室の扉を開いてその姿を現した。
「ほら、いたでしょ?」
「うん……」
そう言いながら姿を現したのは、ピンクのパジャマに、生徒が着る緑色のカーディガンを羽織った艶麗なスタイルを持つメイと――。
黄色のパジャマに緑色のカーディガンを羽織る、どことなくカナミに似た可憐さを持つリーナの二人。
格好からして就寝前の服装なのだろうが、寮とは違い暖房設備が機能していないこの時間の校舎で、その服装は寒くはないのだろうか。
特にメイの方は太ももを露わにした姿で、寒さよりもその露出の方が心配だ。
「こんな時間にどうかしたんですか?」
「ええ、あなたと少し話したいことがあって……明かりをつけても?」
「もちろん」
明かりをつけずにいた俺を少し訝しげに思いながら、メイは了承を得ると、すぐ図書室に施された発光石を点す装置に手を触れ、暗がりだった図書室に明かりを点した。
二人がこちらへやってくるまでの間に、机に広げられたダンジョン資料を整理する。
今日覚えられたのは十六と十七の二階層。
面倒だが、この調子で覚えれば、後四日前後で必要な部分は覚えられそうだ。
資料を机の端に寄せるのと同時に、二人が対面にやってきた。
机の端に置いた資料を横目に見つつ、メイが俺の正面に、続いてリーナがその隣に座る。
「明かりもつけずにこんな時間まで、とっても勉強熱心なんですね?」
「地図を覚えてただけで、勉強をしてたわけじゃないですよ」
メイの言葉からは棘のようなものを感じる。
授業に出席しない俺に対しての嫌みなのだろうか? だが、それにしては敵意がない。
何か、俺を試しているようだ。
「それで話って何ですか?」
「早急ですね。少しぐらい話をしましょうよ?」
「メイ……」
喧嘩を売られているのだろうか……。
メイの言葉に、隣に座っているリーナが動揺している。
要するに、二人とも俺の元にきた目的は同じだが、その思惑は違うということなのだろう。
「話って言っても、何を話すんですか?」
「男でしょう? 女に話題を振らせる気?」
「…………い、え――」
強烈だ――何と言葉を返していいかわからない。
相手に敵意があるのならまだ返し用はあるし、どうでもいい相手なのなら何とでも返答できるが……。
「あなた相当な口下手ね」
「――メイ! いい加減にしなよ!」
リーナがキレた。
メイの態度に痺れを切らしたと言った方がいいのかもしれないが――まぁ、端的にキレたのだ……。
「話すことがないのならあなたは黙ってなさい」
そして、そんなリーナの怒りに、メイが呆れたように言葉を返した。
思惑があっての挑発――そして、その魂胆を知らないがゆえの衝突。
普段からよく衝突している二人の関係からして、こうなることは想像できただろうに……。
「話すことがないのならって、ここにきたのはあなたが聞きたいって言ったからでしょ⁉︎」
「これだから――」
「俺は大丈夫です」
メイがこれ以上、そしてこの言い合いが悪化しないように会話に割って入る。
とはいえ、話すこともないが……さて、どうしたものか――
何か意図があって挑発してきてるメイの目的を達成させつつ、何も知らないリーナに不満を抱かせない方法……となれば一つしかないだろう。
「メイさん、俺の何が知りたいんですか? 理由があって挑発しているのはわかります。でも、その意図をリーナちゃんが知らない状況でやるぐらいなら直接聞いてください。答えられることならある程度こたえるので」
――直接聞いた方が早い。
これが俺の出した答えだ。
「……本当に早急ですね」
本心から不満そうだが、仕方がないことだ。
「仕方がないでしょ、口論されるよりこっちの方が早いんですから」
「…………」
俺の言葉に、メイは不服そうな表情を浮かべ。
リーナは事情がわからず、戸惑いの表情をメイに向けて説明を求めたが――不服そうに眉をひそめるメイから返事が返ってくることはなく。
そんな二人の様子を見て、俺は自分から本題を切り出すことにした。
「――で、何が聞きたいんですか?」
「……エリザに告白されたこと、あなたはどう思っているんですか?」
そのことか――答えづらいことを聞いてくれる……。
「嬉しいと思いましたよ」
「それで? 嬉しいと思ったあなたは、エリザに対してどんな感情を持っているんですか?」
……聡い子だ。
的確に俺が答えづらいことを聞いてくる。
「エリザちゃんに対して、いい子だと思っています……って、答えを求めてるわけじゃないですよね」
「ええ――」
当然だとでもいうようにメイが頷き、リーナもそれに同意するように頷いた。
そりゃ、知りたいのはそこだよな……。
大きめに息を吸って、俺は自分の考えをまとめるために息を吐くと、息がうっすら白く濁った。
「寒いですか?」
「……寒いです」
「すこし……」
二人に視線を向けて回答を聞き、認証盤から真っ白な毛皮の膝掛けを二枚取り出して、二人に手渡す。
感覚がバカになっているせいで体感温度はわからないが、窓から見える雪の勢いからして、それなりに冷え込んでいるのは間違いない。
「ユイの言っていたとおり、いやらしいんですね」
「…………」
寒いだろうなと思って膝掛けを渡しただけだというのに……あの時の体操服の一件か?
「体操服の件ですか?」
「ええ、ユイのおへそを凝視したとか」
「それはあっちから見せてきたのであって――」
「でも私の足も見ていたでしょ?」
「……凝視してはいません」
凝視してはいない……と、思う……。
「――と言うか、そんな指摘をするのなら、その服装で出歩かないでください」
あまり見ないようにしていたが、その姿はあまりにも無防備だ。
下は太ももの半ばから素肌を露出し、胸元はカーディガンで隠れているとはいえ、その薄着でその大きさはあまりにも目に毒だ。
「あなたが意識しているだけでは?」
「流石にそれはあんたが悪いでしょ」
リーナも俺と同意見だったようだ。というか、そうでなければ学園の風紀を疑っていた。
そして、指摘された本人は、眉をひそめてリーナに言い返そうと一度口を開いたが、先ほどのこともあって言い返すのはやめたらしく。
渡した膝掛けを無防備な膝もとに掛けると、先ほどの話題について再度質問をしてくる。
「それで告白したエリザを、あなたはどう思っているんですか?」
「エリザちゃんをどう思っているか――」
告白してきたエリザちゃんを、俺がどう思っているか――か。
「その質問に答える前に、俺からも質問していいですか?」
「ええ、もちろん」
「なら、メイさん――あなたに好きな人はいますか?」
「いますよ。それが?」
「それじゃあ、尊敬する人は?」
「いるに決まっているでしょう。それがどうしたんです?」
そりゃそうだ。学園にいる生徒の大半が尊敬している人がいる。
「それじゃ最後の質問ですが、あなたは好きな人とキッドさんどちらの方が大切ですか?」
メイが眉をひそめて怒りを露わにし、今の発言に、リーナまでも不快感を露わにさせた。
まぁ、それも仕方がないだろう。そう言った質問をしたのだから。
「その質問に答える必要はありますか?」
「ないですよ。その反応がわかっただけで十分です」
だが、その感情を持っているのなら、話したって問題はないだろう。
「俺がエリザちゃんをどう思ってるか――その答えは、好きな人を見つけて欲しいです」
「あなたは!」
「リー! まって――説明してもらえますか?」
「説明を求めるのならしますよ。まあ、あなたはすぐに察しそうですけど――」
リーナが声を荒げて立ち上がったが、それをすぐメイが止めに入り、俺に説明を求めてきた。
まったく……この子のどこが学生なんだ。
いや、すぐに口論を始めるところは子供か……。
ああ、でもそうか、学年でいうところの三年生ということは、今年で十八歳……この子達はフィーと同い年なのか……それなら十分に大人だ。
「エリザちゃんは俺を尊敬してくれてる。でもその感情が敬愛心になって、今はその感情を愛と錯覚しているんですよ。もちろん敬愛が愛と全く違うとは言わないし、対象から愛されれば、その感情は間違いなく愛情になる――でも、エリザちゃんの今の感情は違う」
「なぜそう言い切れるんですか?」
それを言うべきかどうか、俺は一瞬考え――考えることを放棄した。
「わかるんですよ、人の感情が――その疑念も、俺の言葉が事実だったらと考えたその驚き寄りの不安も、そして愕然とした今のあなたの感覚も――全部わかるんです」
「だったら……あなたはユイのこともわかっているんですか?」
その質問に対して答えを言うのなら。
「ええ――」
そう答えるしかないだろう。
ユイは俺が好きだ。
その感情はカナミから感じるものと同じ――レオとの試合のあと、突然その感情が芽生えていた。
優しい愛情だ。
フィーから感じていた暖かさと同じ……。
俺が今もフィーに抱いてる、愛と言う名の感情。
今日、ユイの感情が正確にわからなかったのも、愛情を強く感じて、他の感情がうまく捉えられなかったからだ。
「だったらなぜって言いたいんでしょうけど、俺の話って……その感じだと聞いてないんですね」
アビが俺のことについて、フィーを――愛する人を無くしたことをユイとエリザに話したと言っていたが、この二人はそのことについて聞いていないのだろう。
「ユイとエリザには話したってアビから聞いたんですが、二人とも、俺に気遣って言わなかったんでしょうね」
話したって構いはしないのに、二人とも優しいからこそ言わずにいてくれたんだろう。
「俺にも好きな人がいるんですよ。大切な人です……名前をフィナと言って、年齢はあなたたちと同じ今年十八歳になる女の子です…………フィーは……フィーは…………」
……きっとこうなるとわかっていたから、アビは俺の口から言わせるのではなく、自分の口で、俺の代わりに話したのだろう。
しょうもない……こんな自分が苛立たしい。
わかっているというのに、本当に……しょうもない……。
「フィーは俺のせいで死んだ。ユイとエリザはそれを知っているからこそ、一歩距離を引いて関わってくれているし、俺もその方が気楽だから一歩引いて関わってる。特にエリザは、俺が関わらない方がいい。今でも十分依存気味なのに、これ以上関わったらダメになる。俺の存在が支えになるぶんにはいい――でも、依存はだめだ。依存したらあの子の人生がダメになる……あの子は幸せになるべきだ――」
喋り過ぎだな……感情的になり過ぎだ。
二人とも、どう言葉を返せばいいかわからないで困っている。
しかたない、俺がそういった内容の話をしたのだから。
「喋りすぎましたね」
「……謝罪は、必要ですか?」
「いらないですよ、それに罪悪感を抱く必要もない。リーナちゃんも、罪悪感を抱く必要はないよ。二人ともユイさんとエリザちゃんのために聞くべきことを聞いて、言わなきゃいけないと思ったことを言っただけ、その行為に間違いなんて何一つない」
ただ俺が、勝手に感情的になっただけにすぎないのだ。
「ああでも、感情がわかることについては秘密にしておいて欲しいな。その方がいい――そう思うでしょ?」
「「…………」」
俺の言葉に二人は返事を返さなかった。
でもその沈黙が、その感情が肯定している。
「ありがとう」
二人は今回の会話について、ユイとエリザに話すことはない。
話したとしても、それは俺からフィーの話を聞いたことだけ。
二人とも、今ここにいない二人を大切に思っているからこそ、話すことなんてできないのだ。
「一つだけ……わがままを言ってもいいですか?」
ここまであまり話さなかったリーナが、戸惑いながら、それでも切望するように聞いてきた。
「なんですか?」
「距離を取る理由はわかりました。でも、私のことはリーナって、読んでください。メイのこともメイって、エリちゃんもユイちゃんも、エリザって、ユイって呼んであげてください――」
泣きそうな声だ。
切実に頼んでいるのだとわかる。
その頼みに答える必要性はきっとない――でも。
「ねえ、リーナちゃんは俺が好き?」
「……嫌い」
「――はは、いいね。正直でいい。いいよ、わかった。リーナ、君の頼みどおりそう呼ぶよ。メイもいいかい?」
「……ええ、それはもちろん」
二人とも困惑気味だが、知ったことか。責任は頼んできたリーナにとってもらう。
「リーナ、君の頼みを聞くわけだけど、俺が急に敬称を外すと普通に変だ。そこは君が責任持って、二人に何でそうなったのか説明しなよ」
「うん……わかった」
「何故ですか?」
何についての『何故』なのだろうか、何故突然リーナからの頼みを了承し、一歩引いていたのに踏みよるような真似をという意味か――それとも何故突然態度を変えたのかということか。
まあ、どちらでも一緒か――。
「友達思いの優しい子は好きだから――もちろん人としてって意味でね」
どことなくカナミに似ていたのもあるが、友達思いの優しい子の願いを断る気にはなれなかった――理由はただそれだけだ。
「あなた……素でそれをやっているの?」
「…………?」
「あきれた……」
何故なのか、言葉通りメイは俺に呆れているらしく。
リーナもその言葉の意味がわからず、頭に『?』を浮かべ。
俺はそんなリーナと数秒目を合わせ、メイに説明を求める視線を向けたが――呆れたと言いたげに肩をすくめたメイから返ってきたのは、大きなため息だけだった。
読んでくれてありがとう!
活力になるので評価おねがいします。




