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後の悔い先に立たず  作者: 狸ノ腹
第二章 学園邂逅
42/46

【対談劇】02

●○●○●○


「――こっちは、初めにトマトの酸味がして、その酸味を抑えるチーズのコクとチーズのクセを抑えるレタスの……味がします……」


 私は一体何をしているんだろう……。

 カズさんに頼まれるがまま、私はエリザたちが作ったサンドイッチを食べ、その味を言葉にしていた。


 喉が詰まる。

 このサンドイッチはカズさんのために作られたものなのに、それを私が食べている。

 もちろん頼まれたから食べているが……断ることも出来たのに、私はそれをしなかった。

 断れなかった……。

 話の流れとして、断りづらかったのもある……でも、それが断れなかった理由じゃない。

 カズさんを好きだという感情が私の中にできたことで、断るという選択肢が思い浮かばなかったのだ……。

 味を伝えるために食べているというのに、余計なことを考えてしまったせいで味がしない……これじゃ本末転倒だ。

 そもそもこんなつたない表現で味が伝わってるというのだろうか……。


「あの……こんな感じで伝わってますか?」

「十分伝わってますよ。俺が食べても、どろっとするなとしか思えないので――」


 そう言いながら、カズさんは私が今食べたのと同じ、一口大のサンドイッチを口の中に放り込んだ。

 美味しそうとも、まずそうともいえない表情のまま食べ進めていくその姿は、一種の作業のように見え。

 無理しないでください。

 と伝えようと思い口を開きかけて――私はその言葉を言うのをやめた。


 今カズさんが食事をしているのはエリザへの優しさから、それを私に止める権利はない。

 それを止めてしまったら私は、私は本当に最低な人になってしまう。

 だからこそ、私に今できることは――。


「次はこっちですが、こっちは茹でた卵のまろやかさと、その味を引き立てるように瓜を酢漬けにしたものを薄く切ってあって、卵だけではパッとしない味をその酸味と塩味で引き立てています」

 何も考えず、ただこうやってカズさんに味を伝えるだけなのだ。





「味を教えてくれてありがとうございました」

「いえ、気にしないでください。ただ、できればバスケットは明日直接エリザに」

「そうします」


 三人分ほどあったサンドイッチは思ったよりもすぐに無くなった。

 図書室に備え付けられている時計を見れば、時刻は十二時半。

 当初の予定では昼食はメイたちと食べる予定だったが、昼休みも折り返し、すでにみんな昼食を食べ終えている頃だろう。


「それじゃ私はそろそろ」

「ええ、またダンジョン探索について細かいことが決まったら伝えます。あと探索の際の薬品や食料はこっちで準備しておくので、自分の衣類や予備の武器なんかは当日までに用意しておいてください」

「わかりました。私にも手伝えることがあれば言ってくださいね」


 そう言って私は席を立ち上がり、図書室を後にして食堂へ向かった。

 ダンジョン探索の件でまだ確認することはあったし、ダンジョンの十六階層以降の記憶だって協力すると伝えた方がよかったが、あの場に居続けるのはよくないとそう思った。

 あれ以上深くカズさんに踏み込んではいけないと、そう私の理性が訴えたのだ。

 日に日に悪化しているような気がする……。

 この焦がれる感情が、押し殺せば押し殺すほど私の心を焼き。

 食堂の奥で座るエリザのその微笑んだ笑顔に、私は胸に痛みを感じた――。




「大丈夫?」

「わかんない……」

「午後からずうっと上の空だったけど、これは相当重症みたいね」

「…………」


 放課後の自室、ベッドにうつ伏せ状態の私に言葉をかけてくるのは、学生服を脱ぎ楽な部屋着に身を包んだメイ。

 そんなメイからの言葉に、私は肯定も否定もできなかった。

 それだけ今日は疲れた、肉体にではなく精神的に……。


「あなたその調子で、ダンジョン探索は大丈夫なの? かなり深く潜るんでしょ?」

「うん……」

「もう――前も言ったけど、自分の感情を押し殺すといくら正の感情でも負の感情になるの、そんな状態を続けたらあなたがダメになるわよ」


 心配そうに叱ってくるメイの姿を、うつ伏せのまま視界に入れる。

 返す言葉もない……メイの言うとおりだ。

 普段と同じ生活を送るだけなら何の問題もないが、そこにカズさんが関わってくると感情が揺れ――エリザのことを思い胸が傷む。

 この頃ずっと、こんなことを繰り返してる……。


「ユイ、あなたエリザを逃げ道にしてるんじゃないの?」

「…………」


『――違う』と、そう言いたかったが……言えなかった。

 エリザの予てよりの想い人だったというのもあるが――あの試合の日、私はカズさんの心の軸を聞いてしまった。

 大切な人を失ってしまい悲しんでいるだけではないのだと、その心に怒りと憎しみを抱えているのだと知ってしまったのだ。

 だから軽々しく好意を伝えるなんてことはできない。

 エリザを引き合いに出すことで、できないと自分に言い聞かせている。

 でもそれが苦しい――苦しくてしかたがない。


「まったくもう――抱きしめられるのと怒られるの、どっちがいい?」

「抱きしめて……」


 何も言えないでいる様子を見かねたメイからの選択肢に、私は縋り付くように声を出すことしかできず。

 私のベッドに座り、覆い被さるように抱きしめてくれるメイの温かさに、目からは涙が溢れ出した。


「もう限界よ。諦めてエリザに告白しなさい」

「でも――」

「でもも何もない。今のあなたにエリザを心配する余裕があるの? ないでしょ? それともエリザに何も言わないでカズさんに好きだとでも言うつもり?」

「それは……」

「無理でしょうが――そもそも二人のことで板挟みになっているからこうなっているの、ならどちらかの悩みを解消するしかないし、今のエリザなら言っても問題ないはずよ。この二ヶ月であの子は強くなった。あなたもわかってるはずよ」


 否定はしない、確かにエリザは強くなった。

 ……でも、それはカズさんが現れたからこそで――。


「またエリザのせいにするの?」

「――――」


 覚悟を決めなければいけない。

 エリザの為ではなく自分の為の選択を――そしてもうその選択はできている。

 あと足りないのは勇気だけだ。


「抱きしめてって言ったのに……」

「抱きしめてるじゃないの」

「怒ってる割合の方が多いのよ」

「それはあなたがきっぱりしないからでしょう?」

「それはそう」


 溢れた涙をベッドに顔を押し当て拭い。

 抱きしめてくれているメイの手を握りながら、姿勢を起こしてベッドに座る。

 私に寄り添ってくれているメイを見れば、その表情はいつもどおりの毅然としたもので、私が決心したことを察すると、息を吐くように口を開いた。


「今から話すか寮食後に話すかどっちにする?」


 メイからの選択肢はあまりのも無情で――。


「明日じゃだめ?」

「だ〜め」


 私の決心を揺るがさない為の最善な選択肢だった。


「なら寮食後にする」

「その方がいいわね。お風呂に入って顔を洗った方がいいもの」

「ひどい?」

「少しだけ――でも、本音で話そうとしてるんだから、ちゃんとあの子も本音を言えるようにしてあげないと――私はあなたの親友だけど、あの子の友達でもあるんだから」


 そう微笑んだメイの言葉に、私は彼女が親友で本当に良かったと思いながら。

 刻一刻と迫るエリザとの対談に向け、自身の想いを整理することにした。





 部屋をノックする為に上げた腕を、意を決して振り下ろす。


「コン――コン――」

「はい⁉︎ あ、どうぞ――――って、ユイさん?」


 部屋の中からの返事に扉を開けると、ベッドから慌てて姿勢を正したパジャマ姿のエリザが、私のことを出迎えてくれた。

 寝ようとしていたのだろう、足を崩して座るベッドの上には、布団を慌ててめくった跡がある。


「急にごめんなさい……少し時間いいかしら」

「もちろん大丈夫ですけど……リーちゃんはいま――」

「わかってる、リーナは今メイといるはずだから」


 私がエリザと二人で話せる様に、メイがリーナを連れ出している。

 そして今頃、リーナも今回のことについて、メイの口から聞いているはずだ。


「今日はあなたに言わなきゃいけないことがあって来たの……」

「……カズさんのことですか?」

「うん」


『どうして⁉︎』なんて言わない。

 私が一対一で話すことなんて、きっとこれしかないのだから。

 それでも、エリザの次の言葉に――


「好き……なんですか?」

「――――ッ」


 私は動揺を隠せなかった。


「好き――なんですね」


 動揺する私の様子から、エリザの予想が確信へと変わったのだとわかった。

 でも、だからこそ私は余計になんと言えばいいのかわからなくなり、頭を下げることしかできなかった。


「ごめんなさい――」

「なんで謝るんですか?」

「なんでって、あなたが好きだと知ってるのに私……」


 謝ることしかできない。

 そうでもしなければ、私はこの罪悪感に押し潰されてしまう。

 ……結局、私は自分本位なんだ。

 こんな状況でも、私は自分の感情を優先しまっている。

 それでも、これだけは自分の口から言わなければいけない。

 たとえそれが自身の罪悪感から逃れる為なのだとしても、自分の口で言わなければエリザに失礼だ。


「私……カズさんを好きになってしまったの――ずっとそれをあなたに黙ってた。だからごめんなさい」

「頭を上げてください」


 下げていた頭を上げてエリザを見ると、エリザもまた真正面から私の顔を見つめていた。

 本当に強くなったんだ。

 わかったつもりではいたが、実際に目の当たりにするのと、本当にエリザが強くなったんだと実感する。

 もしこの件でその強さを知ったのでなければ、私はその成長を素直に喜んでいたはずなのに……今はそんなエリザの成長に、私は何も言葉をかけてあげることができない。


「ユイさんは、その……いつからカズさんのことを好きになったんですか?」

「前にレオ先生とカズさんが試合をしたと話した時にはもう……」

「そうだったんだ――その、どこを好きになったんですか?」

「それは……変だと思うかもしれないけど、気づいたら好きになっていて、だからどこを好きになったとかではないの」

「そっか――」


 私の言葉にエリザはそう呟くと、優しい微笑みを浮かべた。


「私はカズさんの優しさが好きなんです。助けてくれた時、言ってることはわからなかったけど、カズさんの温かさだけはわかった」


 それは何度も聞いたエリザとカズさんの出会いの話。


「当時の私はそんなカズさんが輝いて見えて、その温かさを思い出しているうちに、いつの間にか好きになっていたんです」


 そう話し終えるとエリザはベッドから降り、そのまま私のそばまでやってくると、優しく手を握ってきた。


「ユイさんは謝ってくれたけど、私は嬉しいと思ったんです。私が好きなカズさんをユイさんも好きになってくれたんだって――変かもしれないけど、それが嬉しいなって思ったんです」


 本当に本心からの言葉なのだろう、エリザの嬉しそうな表情を見ればそれは明らかだ。


 でも……だからこそ。

 私たちの想いは、決して同じものではないのだと、すぐに気がついた――。

読んでくれてありがとう!

活力になるので評価おねがいします。

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