表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
後の悔い先に立たず  作者: 狸ノ腹
第二章 学園邂逅
40/46

【戦果】

『災暦1497年1月11日』


「――ここまでかな」


 片膝をつき、胸元に刀の鋒を押し当てられながら告げられる言葉に、アビは沈黙を返すことしかできなかった。


「やっぱり強いね、剣技だけなら数年で僕と並びそうだよ」

「剣技……だけ……」

「僕も伊達に一世紀生きてないから、そう簡単には越えられないよ」


 息も絶え絶えに言葉を返すことしかできない俺に対して、男は余裕そうにそう言った。

 ――いや、余裕そうにと言いはしたが、この人からしたら事実余裕だったのだろう。

 この男――十六天位第十二位であるクルキッド・カーストンにとって、俺はまだその程度の相手なのだ。


 月明かりに照らされたこの岩石地帯は学園から数キロ離れた場所に位置し、今日この場所で俺はキッドさんと戦い負けた。

 俺だって馬鹿じゃない、戦いの結果がこうなることはわかっていた。

 だが、カズと共に手に入れたこの機会を――キッドさんが本気で戦ってくれる場において、その本気を出させることができなかったことが何よりも悔しい。

 自惚れているわけではないが、欲を言えばキッドさんに本気を出させ、その力の一片をこの目に焼き付けたかった。


「悔しいかい?」

「ええ、悔しいです」

「でも、卑下してはいないね?」


 その言葉に俺は俯いていた顔を上げながら。


「――ええ」


 と返事を返して、視線を真っ直ぐキッドさんへと向けた。


 キッドさんとの戦いに俺は負けた、それも本気を出させることすらできずに――それでも。


「今の戦い少し手があればとも思いますけど、追いつけない壁じゃないって確信は持てました」


 そう俺は自身が得た確信を口にした。

 力の差は歴然ではある――が、先生と違ってその差が測れないというわけではなかった。

 そして、力量が測れるということは追いつくことができるということだ。


「怖い顔だ」

「よく言われます」


 俺からの返答にキッドさんはクスリと笑うと『さてと――』と、一息つきながら学園の方へ視線を向ける。


「結局カズくんは見に来なかったね」


 俺とキッドさんが今夜戦うことをカズも知っている。

 そして、キッドさんからカズは『今夜の戦いを見にくるといい』と言われ、彼奴はその呼びかけに結局のところ応じなかった。


「彼奴はそういう奴ですからね」

「そうなのかい?」

「ええ、彼奴はキッドさんと本気で戦う気ですから、その機会を有効的に使いたいんですよ」

「有効的に――」


 キッドさんの疑問気な表情に一度頷きを返す。


「俺は今回の戦いで、貴方の戦い方や技術、その力量を目で見て、肌で感じるのが目的だった。それに対して彼奴は実践に似た状況で、危機的状況下において極限的な状況下での戦闘経験を求めてる」

「――――」


 俺の説明に、キッドさんはそれが意味することをわかったようではあったが、わかったからこそ頷きを返してはこなかった。

 それもそうだろう。

 カズが求めている戦いは死闘――死を賭けた闘いだ。

 生死をかけた戦いではなく、死を賭けた闘い。

 彼奴が定期的にやってる先生との死合いと同じ――彼奴はキッドさんとの戦いで、それも圧倒的に不利な状況で死に抗って死ぬ気なのだ。

 ……だというのに、彼奴はまだ自分が持つ不死性の詳細について、甦りの詳細をキッドさんに話していない。

 だからこそ、これは俺が言うほかないのだろう……。


「カズの不死性について俺に聞かないでくださいよ」

「聞かないよ」

「でも、聞く気だったでしょ?」

「まあね」


 カズの力を説明するつもりはない、それこそ修羅道のことなんてもってのほかだ。

 だが、今の言葉でガスが死闘を行える理由が、その不死性にあると言うことだけは理解してくれたようだ。


「カズくんとの戦いか……」


 そう口にするキッドさんの言葉にどのような思いが込められているのか知りようもないが、複雑そうなその声色に返事を返すことはせず。

 俺は地についた膝を上げ立ち上がり、先ほどの戦いで砕けてしまった刀を手首に着ける認証盤へと蔵って、袴についた砂汚れを払うことにした。


「そういえば三年になってから時々授業に参加するようになったって聞いたけど、授業中カズくんの様子はどんな感じなんだい?」

「そんなの俺に聞かなくたって聞いてるでしょ?」


 わざわざ俺に聞かずとも、そう言った話はあの女から聞いてるはずだ。


「聞いてるって言えば聞いてはいるけど、普段から一緒にいるアビくんから見た今のカズくんの様子を聞きたいんだ。僕が言ったことだとはいえ、レオとの試合以降、授業に出る回数が減っているみたいだしね」

「そりゃそうでしょ。俺だって数回授業を受けて、ここで授業を受けたところで得られるものは何もないって思ったんです。だから彼奴も授業に出る回数を減らしてその時間を有効に使ってるんですよ」

「何もないか……」

「ええ、はっきり言って時間の無駄。それでも彼奴が多少授業に出るのはキッドさんとあの女のことを考えたからですよ」


 あの日の試合の勝利によって授業への出席が自由になってから、カズが授業へ出る回数は減った。

 俺の素性がばれて起きた事がきっかけにはなったのだろう。

 だからこそ、俺も多少の罪悪感からカズと共に授業へ出席することにしたのだが……。

 実際授業を受けてわかったことは、俺達にとってここで受ける授業の無意味さと――致命的とも言える価値観のズレだった。


「君達にとって学園の環境は窮屈かい?」

「少なくとも俺はそう感じてます」


 キッドさんだって感じはしているのだろう。

 いや、感じてなければおかしいのだ。

 この人だって、そのズレを感じる側なのだから。


 俺の目を見て、キッドさんも俺が言わんとすることを察したようだ。

 視線を俺から外すと、夜空に浮かぶ月へ視線を向けてしまった。

 そしてしばらく沈黙が続いた……。


 ――命の重さ。

 俺達にとって、その重さはここにいる生徒たちとは違う。

 校則や規則で縛られキッドさんに守られる学園とは違い、現実はもっと残酷だ。

 元々奴隷だった生徒が多いのだからそんなこと分かっているはずだというのに、ここの生徒たちは平和に慣れ、現実から目を背けている。

 きっと、それで一生を終えられるのならそれが一番いいのだろうが、現実はそんなに甘くない。

 人は簡単に死ぬし、簡単に殺せる。

 そんな環境で彼奴らが生きていけるのかと聞かれれば、きっと無理だ。

 多少の強さはある、だから魔獣や魔物相手ならなんとかなるだろう。

 だが狡猾な――奴隷商に出会したらそこで終わりだ……結果は目に見えている。

 それがこの世界の現状であり、現実なのだ。


 月明かりに照らされたキッドさんの横顔は、何を考えているのだろうか真剣に見え。

 ふと俺の方に向き直ったその顔には、いつもの穏やかさが戻っていたが――その目には何か明確な意思があり。


「アビくん提案なんだけど、今度の剣闘大会の期間中、ユイ達とダンジョン探索をしてみないかい?」


 その声音は、実に真剣なものだった。


 急な提案に唐突だなと思いはしたが、対魔との戦闘経験は俺も求めている。

 そもそも学園に向かう際にそのことは伝えている。

 問題があるとすれば、何故あの女たちと一緒に行かなければならないのかということだ。


「ユイ達って、あの女共じゃなくあの男のことを言ってますよね」

「そう。ユイとフォンを連れて、君とカズくんの四人で探索して欲しいんだ。まあ、アビくんとしては不服だろうけどね」


 それがわかった上でこう言ってくるということは、何か思惑があるということなのだろうが……今回その対象は俺らではなく、ユイとあのクソエルフの方なのだろう。


「彼奴らに刺激でも与えて欲しいんですか?」

「それもある。でも、そっちの方が君たちにとってもいいんじゃないかな?」


 それもそうか。


「まぁ、それもそうっすね」


 このまま学園であてもなく鍛えるよりは、魔物と戦った方がいい経験になる。

 それこそ、ダンジョンを使っての移動はしたことあるが、ダンジョン探索は初めてだ。

 それはカズも同じだろうし、それなら多少勝手を知ってる彼奴らと一緒にダンジョン探索をするのも悪い選択ではない。


「君のそういう合理的なところ、僕はとてもいいと思うよ」

「はなからそれを踏まえた提案でしょ?」


 ニヤニヤ笑うキッドさんに対して、べつにしてやられたつもりはないが、多少の条件をつけるぐらいなら問題ないだろう。


「いくつか条件はだしますよ?」

「もちろん。今回の探索で君とカズくんの枷になるのは僕の弟子だからね。ある程度の条件は聞くさ、その代わり二人のこと」

「――言われなくても守りますよ」

「ありがとう」


 キッドさんからの条件を先に了承しつつ、こちらの条件も聞いてもらうとしよう。


「まずダンジョン内で入手した魔物の部位や魔石の買取――国と関わってるならできますよね?」

「もちろんできるよ。僕らにはこれがあるし――学園でもそれなりの量が必要だからね。どれだけ持ってきてもらっても問題ないよ」


 そう言ってキッドさんが見せてくるのは、俺やカズの手首にはめられるのと同じ黒色の認証盤。

 これさえあれば、ある程度の大きさのものなら無尽蔵に出し入れができる。


「必要ならある程度の回復薬も提供できるけど……あんな、万能役を持ってるなら、その辺りはカイくんに貰ってるよね」

「ええ、腐るほど」


 カズの血で造られた万能薬を別にしても、二級品の上級回復薬と魔力回復薬、カイさん特製の薬も合わせれば三百本近く、言葉通り腐るほど持っている。

 まあ、腐ると言っても認証盤に蔵っている限り劣化しないので困ることはないが。


「だよね。ちなみにあの万能役って少し買い取れたりしない? 少し欲しいんだけど」

「カズが四十本ぐらい持ってるんで、それは彼奴に言ってください」

「わかった、そうさせてもらうよ。それで――まだ条件があるんでしょ?」


 話が逸れてしまったが条件の続きだ。


「はい――ダンジョン探索後でいいので、魔装の特化を手伝ってください」

「特化の手伝いか……アビくんの魔術適性って、雷・水・風の順番だったよね」

「はい」

「雷の特化か……結構難しいよ?」

「知ってますよ、ここ二年行き詰まってるんですから」


 魔装の特化――通常の魔装に自身の魔術特性を付与することで、自身と周囲に属性ごとの影響を与えることが出来る魔法に限りなく近い技術。

学園に来た……と言うより、キッドさんの元に来た当初からの目的だ。


「正直あれは気付きだからなぁ……最終的に運次第になっちゃうけど、それでもいいなら協力するよ」

「それで大丈夫です」


 気付き……先生も似たようなことを言っていた。

『魔装の特化や物質化は魔法を使うための第一段階だからね、魔法を使えない奴が扱うにぁ、まず悟りを開かなならん』

 その悟りが精神的なものなのか、感覚的なものなのか、魔力や魔法に対する探究なのか先生は教えてくれなかったが、キッドさんの言葉的に感覚的なものなのだろう。


「他に条件はあるかい?」

「俺からはこれ以上ないです。あとはカズに聞いてください」

「わかった、そうさせてもらうよ。一応予定としては四月一日から丸一ヶ月ダンジョンに潜ってもらうからそのつもりでいてね」

「はい」

「それじゃそろそろ戻ろうか」


 そう言いながら学園へ帰るため後ろを向くキッドさんに、俺は「っあ」と、まるで思い出したかのように声を出し、その背中を追い越しながら。


「あのクソエルフに喧嘩売ってこないようにだけ、しっかりと言っといてくださいね」

と、キッドさんが困るだろうなと思いながら、追加条件を出すことにしたのだった。

久しぶりに投稿しようと思います。

活力になるので評価おねがいします。

読んでくれてありがとう!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ