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後の悔い先に立たず  作者: 狸ノ腹
第一章 三度目の始まり
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【弟子入り志願】03

●●●●●●


 目覚めると、木目が目立つ真っ黒な天井が視界に入り。

 外からの風だろうか、髪がなびいて目元をくすぐった。


「――目覚めたね。体調はどうだい?」

「軽いめまいと吐き気がします……」

「そうかい」


 自分に問いかけただろう言葉に返事を返しながら、声のする方へ顔を向ければ、そこに居たのは半端に開いた襖から、廊下越しに庭を眺めて座るセンの姿だった。


「えっと……怒ってます?」


 直球すぎるとは思ったが、とりあえず聞いてみる。


「怒ってないさ。だが驚いた、その不死性……奇才――いや、鬼才とでも言うべきか?」


 おそらく漢字が違うのだろうが、言葉だけで聞くと同じ『きさい』なんだよな……なんて思いながら。


「どちらにしろあんな力があるのなら初めから言えと言ってやりたい気もするが、色々試させてもらったから良いとしよう」

「試した?」


 言葉の意味がわからず聞き返すと、センはニヤリと笑いながらこちら方へと振り向いた。


「ああ、その不死性を試させてもらったよ。言っておくがそれはスキルやアビリティじゃないよ。ほれ――」


 突然赤い石が嵌め込まれた真っ黒な腕輪を投げ渡される。


 赤い石は――記録石(きろくせき)と呼ばれる物で、自身のステータスや金銭などを教会などで預け入れする時に使え、身分証の役割を果たし。さらには強制的な奴隷契約を弾く力がある特殊な石であり。


「この腕輪は認証盤(にんしょうばん)ですか?」

「そうだよ」


 認証盤とは、先ほどの記録石を実際に使う際に必要になる端末機のような道具で、詳しく言えば記録石に登録されている情報を確認することができ。所属ギルドや商人との取引で金銭のやり取りを行なう際に必要になる道具だ。


 ――まさか! と思い。

 慌てて真っ黒な認証盤についている記録石に数秒触れると。


 名前:カズ   性別:男     種族:人間   年齢:20 

 身分:F    ギルド:D    商業:――    称号:――

 装備品:龍帝式認証盤  :――   :――    所持金:72355G


 体力:185  生命力:143  筋力:48   技量:0

 魔力:5000 知力:0     敏捷:331  精神力:474

 運:7     魔術適正:―― スキル・アビリティ:―― :―― :――


 総合評価『S』 『災暦1496年1月13日 11:27』


 記録石に保存されている自身の情報が表示される。


 能力値鑑定を受けたことが無かったので、初めて見た自分の能力値に対しての驚きもあるが……今、俺は何よりも先にセンに聞くべきことがあった。


「えっと……俺のこと何回殺したんですか?」

「最初にする質問がそんなことかい?」


 そんなことって……。


 俺のこの甦りには確実ではないがルールがある。

 それは一度死んでから覚醒するまでに二十時間ほど時間がかかるというもので、そのルールに基づいて考えれば一日に死んだ俺が目覚めるのは二日の日であるはずなのだが……。

 今日の日付は十三日――それが意味しているのは、あの日以降、最低でも俺は十三回以上死んだと言う事であり……。


「数なんて数えてないが、大体四十回程度じゃないかい?」


 ああ何だろう……。

 俺が言えた事じゃないが、清々しいほどこの人は危険だ。

『数え切れない数を死ぬ』なんて探窟家には言われたが『そう言う意味で⁉︎』と、今更ながらツッコミを入れてやりたい気分だ。


「えっと……とりあえず弟子にしてもらった――って、認識でいいんですよね?」

「仕方なくだがね。疑問に思ってる事に答えてやるから、それに着替えてついてきな」


 枕元を見れば真っ白な薄手の着物が――胴着と袴が置かれていた。


 …………。


「どうした? さっさと着替えな」


 指示に従い早く着替えようとは思うのだが……。

 着替える前に、早急に聞かなければいけないことが俺には二つあった。


「今いくつか質問してもいいですか?」

「……何が聞きたいんだい?」

「今後、貴方のことを何と呼べばいいですか?」

「呼ばれ方に興味はないが、弟子の大半は先生か師匠のどちらかだね。そんなことよりも早く――」

「それじゃあ先生もう一つだけ質問させてください!」


 センの呼び方を先生と決めた俺は、先生の言葉を遮った上で、もう一つだけ質問をする。


「なんだい……?」


 俺のそんな様子に先生は不服そうな表情を浮かべ。


「袴って、どうやって着るんですか?」


 そんな俺からの質問に、先生は呆れたように息を吐いた。


「私は先に行くから、着替えたら奥座敷まで来な、龍の絵柄の襖の部屋だ」

「――ちょ、待って!」


 部屋から出て行こうとする先生の後を、胴着と袴を乱雑に着ながら慌てて追う。


 同じ屋敷内、慌てて追う必要はないと思うかもしれないが、この屋敷は普通ではない。

 一言で言えばこの屋敷は迷宮だ。それだけ広く、この屋敷の構造は複雑なのだ。


 先生の跡を追い、龍の絵が描かれている奥座敷に到着する。

 そして部屋に入るなり先生は『はぁ〜』と、ため息を吐きながら、煙管を取り出して座敷の奥へ座った。


「お前も座りな」

「はい」


 言われがままその場に座って先生を見れば、先ほど取り出した煙管を吸いながら、まるで俺を値踏みするかのような目で先生は俺の事を眺め。

 袴の着方が違ったのかと、自身の服装を確認して襟元を整えていると。


「実際に話すと違和感を覚えるほどまともそうに見えるね?」


 俺を見ながら、先生は突然そんな事を言ってきた。


 ――いや、思い返してみれば、突然言われたわけでもなかったか。


「俺的には少し前に狂人とか言われた気がするんですけど……」

「だから言ってるだろ? まともそうに見えるってね。病室での日々、親友と愛する女の死に――その思想。狂ってるとしか言いようがない」

「…………」


 いま、先生は何と言った……?


 先生の言葉に戦慄し、動揺する。


「……えっと」


 ……要するに何か? この人は俺の過去を知っているのか?


 話すことになるのだろうとは思っていたが、話してもいないことを知られていると言うのは気分がいいものではない。


 大きく息を吸い――吐いて、混乱する頭と心を落ち着かせる。


「そんな顔をする必要はないよ、私は素直に褒めてるんだ」

「それは、どうも……」


 褒められても何も嬉しくないし、正直どうして知っているのかを説明してほしい。


「雑談はこの辺にして、お前が疑問に思ってることを答えてやろう」

「今のって、雑談だったんですか?」

「私にとってはね」


 俺的には狂人と罵倒され、お前の過去を知ってると、脅迫された気分なのだが……。

 こんなことで、悩んでいても仕方がないようだ。


 一度、座り直して、再び心を落ち着かせて気持ちを切り替えながら。


「それじゃ質問いいですか?」

「もちろん。何が聞きたい?」

「俺は強くなれますか?」


 ここへ来た理由の全ては、ただこの一点のみ。

 能力値に関しての疑問がないわけではないが、この質問の答えを聞いてからでないと先へは進めない。


「最初がそんな質問とは本当に狂ってるね」


 先生が笑う。にやりと不敵に笑っている。


「強くなれるなんて、(とど)のつまりお前自身がどこまでやれるか次第であって、私には答えようがないよ。それに最初に会った時も言ったが、お前は確実に戦闘においての才能がない。種族もただの人間、それだけならまだしもスキル習得に必要な技量や、魔力はまだしも魔術習得に必要な知力が無いときた。お前も自分の能力値を見て何となく察しはしただろ?」


『器用さがひくいのかもしれない』スキル習得が出来なかった理由として、そう指摘されたことがあった。そして俺自身そうなのだろうと思っていた。

 そうはいっても、能力値を知るすべが無かったので、もしかしたら多少は有るのではないかと、多少期待もしていたが……今回、期待が期待にしか過ぎないことを、大国の教会に行かなければ知ることができないはずの能力値を知ることができて理解した。


「だけどその鬼才に救われたね」


 にたにたと笑いながら先生は俺にそう言い。


「強くなれるなんて、私に言い切れはしない。それでも強くなれるだろう方法なら教えてやれる」


 そんな先生の言葉は俺の求めている言葉で――


「その代わり地獄に落ちるが構わんだろう?」


 先生の言葉に俺は笑った。


 地獄に落ちる――地獄ならもう十分に味わった。

 これ以上の地獄があるのなら、それはきっともう自我なんて保つことが出来ないほどのものであって、自我が保てない地獄なんてものは地獄ではない。


 今俺の心にあるのは安堵の気持ち。自然と笑顔になってしまうほどの安堵――喜びと言い換えてもいい。


「まず俺は何からやればいいですか?」

「他に質問は無いのかい?」

「いろいろありますよ。でも、今はそんなことがどうでもよくなるぐらい嬉しくて仕方がないんです」

「ハハハハハ。いや本当に面白い」


 いったい今のどこが面白いのかはわからないが、俺も人のことは言えないだろう。だって、俺も笑っているのだ。

 強くなれるのかはわからない。だが、その方法がゼロでは無いことがわかった。

 それが今の俺にとってどれだけ嬉しいことなのか、この人はわかっているのだろうか?


「私はお前のその考え方嫌いじゃ無いよ」


 ああ、この言い方。きっとこの人はわかっているのだろう。

 どうやって知り得たのかは知らないが、何らかの方法で俺の過去を知り得た先生にとって、俺のこの喜びは手を取るようにわかってしまうのだ。


「それじゃカズ、最初の課題だ。二十四時間死ぬ気で走って死んできな。それが最初のお前の課題だよ」

「――はい! ……って、はい⁈」


 相手の言葉はきちんと理解してから返事をしなければいけないと、俺は今日、今更ながら気付かされ。

 このあと課題の意味が言葉通りの意味で合ってるのかと質問してみたが『私の指導に文句があるのなら弟子はやめな』と、言われた俺はーー


 あぁ、なるほど。そりゃ数え切れない数を死ぬわけだ。

 と、探窟家の言葉の意味を本当の意味で理解した。


 これからいったいどんな生活が俺を待っているのかはわからないが、最初の課題がこんな狂ったものなのだ。

 地獄行きを選んだ俺に、さぞ相応しい生活が送れることとなるのだろう。


意見大歓迎です、評価も待ってます!

誤字脱字わからない表現があれば教えてください。

読んでいただきありがとうございました。

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