【獅子殺し】02
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「おっせぇなぁ〜」
「おっそいねぇ〜」
アビと二人で道場の畳に寝転びながら、キッドさんの訪れを今か今かと……。
正直そこまで待ってはいなかったが、キッドさんの訪れを俺達は待っていた。
アビとお互いの過去の話をし終え、お互いに全てを曝け出した。
ここまで全てを曝け出したのは、フィーと探窟家以来だ。
気分は悪くない。
どうやら、それはアビも同じようで。
お互い隠していた訳ではなかったが――お互いに話し、聞いたことで気が楽になったということは、無意識的に、俺達はお互い過去について触れずにいようとしていたのだろう。
「――ん?」
「どうしたんだよ? ――って、なんか多いな……」
道場へ向かってきている人の気配に俺が気づくと、少し遅れてアビも道場へ向かって来る人の気配に気づいたようだ。
キッドさんが一人で来るのかと思っていたが、どうやら違うらしい。
「最悪だ……」
「これって、あの獣人の教師と……ユイとフォンか?」
「おしい――ユイとフェルトだよ」
「あのババアかよ、めんどくせぇ」
面倒な対象はお互いに違うが、お互い面倒な展開になったことにはすぐ気づき。
「「はぁ〜」」
俺達は寝転んだままため息を吐いて。
「二人とも待たせちゃってごめんねー」
と、言いながら道場に入ってきたキッドさんに――
「「待ってないから、帰ってください――」」
ハモりながら、返事を返すことにした。
「ありゃりゃ」
俺達からの返事にキッドさんは苦笑すると、返答を聞いた上で『入って入って』と他の三人を道場内へ招き入れた。
「――さて、今日は二人にいい提案を持ってきたんだ」
「「提案?」」
またまたアビと返答が被り。
寝転んだままアビの方へ顔を向ければ、アビも俺の方へと顔を向けていた。
『面倒だしバックレるか?』とアビが。
『流石にキッドさんから逃げられないだろ……』と俺が、視線だけで言葉を交わしつつ。
「二人とも聞いてるかい?」
「「聞いてますよー」」
キッドさんからの言葉に、俺達は反射的に相槌を打った。
――にしても、提案とは一体何なのだろうか?
キッドさんの後ろにいるレオとフェルトから感じる雰囲気的に、あの二人と俺達で試合をさせられるのだろうと察することはできるが。
だとしても、提案の内容についてまでは流石にわからず。
一体どう言った提案を出されるのだろうかと考えながら、俺は寝転んだ状態からあぐらをかくような体勢で上半身を起こして、道場内に入ってきた四人の姿を視界に入れ――
俺が起き上がるのと合わせるように、アビも体勢を起こしてキッドさんへ視線を向けた。
「それで提案聞くかい?」
「もちろん」
「聞きます」
俺とアビの連続ハモリの記録が終了する。
アビを見れば、何で『もちろん』なんだよ? いつもなら『聞きます』って言うだろ?
なんて顔で俺を睨んでくるので、それはこっちのセリフだと睨み返し。
「二人ともー?」
「「すいません……」」
キッドさんからの注意に、俺達はハモりながら謝罪を返した。
「それで提案について話す前に、二人にはこれから試合をしてもらうんだけど、フェルトさんとレオのどっちとやりたい?」
試合の詳細を聞くより先に『――スッ』と。俺がフェルトに指を差すと同時に、アビがレオへと指を指す。
ここでうまい具合に別れるというのは、逆に息があっているのだろうか?
――なんて俺が思っていると。
「――よし。それじゃカズくんはレオと、アビくんはフェルトさんと試合って事で決定ね」
「――え⁉︎」
「――は⁈」
今度はしっかり意思が別れた。
……なんて、思っている場合では無く。
フェルトを指差したはずの俺がレオと、レオを指差したアビがフェルトと、何故試合をやらなければならないのだろうか?
「二人とも嫌そうな顔してるね。でも、せっかくの試合なんだから自分の苦手な相手とやらなきゃもったいないよ? 同じ相手とばっかり鍛錬してると、自分の力量を勘違することもあるしね――」
自分の力量を勘違い?
それはどう言う意味なのかと思いアビを見るが……アビもよくわかっていないらしく。
キッドさんを見れば、どうやらその言葉は俺たちにも言っているが、ユイに対しても言っているようで――
不意にユイと目が合い、昨日の出来事に多少の気まずさを感じてしまった。
昨日色々あったせいか、ユイはどっと疲れているように見え――俺と目が合ったことに少し遅れながら、昨日の出来事のせいか、ユイは俺から目を逸らすと俯いた。
嫌われてはいないようだが、少し悲しい気持ちになるな……。
仕方ない……少しぐらいは協力するか――
「――で、提案って何ですか?」
「お前やるのかよ⁉︎」
「ああ、昨日は色々あったしな」
「…………」
きっかけは俺だったが、アビも少なからず昨日の出来事には思うところもあるようで『はぁ――』っと息を吐くと。
「――で、提案って何なんですか?」
アビも、俺と同じ結論に至ったようだ。
俺達の返答になのか、やりとりになのかはわからないが、俺達の様子にキッドさんはクスリと笑うと、提案について話し始めた。
「僕が持ってきた提案は、カズくんがレオと戦って勝ったら昨日の出来事の責任は全部レオ持ちで、今後出たくない授業に出なくていいっていうのと。アビくんの方は勝ったら今まで通り授業に出なくていいし、食堂のおば……お姉さんに頼んで毎日何食食べてもいいようにお願いしてあげよう」
絶対に食堂のおばさんって言おうとしたよな? なんて俺が思っていると。
「――マジ⁉︎」
さっきまでやる気が微塵もなかったアビが、食事に釣られて歓喜の声を上げた。
まったく……都合のいい奴だ。
ただ、まぁ今回の出来事のそもそもの問題はレオの方にあると思うが、それ以上に今後出席したくない授業に、キッドさんの了承のもと出席しなくていいと言う提案は実に魅力的であり。
後日待ち受けているであろう、トゲトゲの下の犬歯を強奪する際も、昨日の出来事と無理矢理こじつけることで、多少なりとも減刑されると期待するなら。
「二人ともそれでいいみたいだね?」
「もちろんです」
キッドさんの言葉に俺が頷きを――
「おうよ!」
アビは拳を自分の掌に当て、やる気満々に返事を返した。
「おいおい待てよ、こいつらが負けた時の話はどうなったよ?」
レオがキッドさんに物申す。
どうやら俺たちが負けた場合について、裏で何か話しがあったようだ。
――だが。
「ああ、そうだったね、すっかり忘れてたよ」
レオに対してキッドさんは、まるで先生のような不適な笑顔で微笑んだ。
表情を見るに何か良からぬことを考えているのは間違いない。
先生の笑顔の意味を身に沁みるほど経験してきたからわかるが、この試合どうやら俺達に負けという選択肢はないようだ。
正直レオがどの程度の実力者なのかわからない俺としては、妄信で勝てる相手とは思えないのだが……。
「もしカズくん達が負けたら、ここにいる間はレオ達がカズくん達を自由にするといい」
キッドさんの言葉で俺を見下すように笑いかけてくるレオのその顔は実に憎たらしく。
手応えを感じなかった今日の授業の代わりになればと思いながら、俺も少しやる気を出すことにした。
「それじゃあルールだけど、基本的にスキル、魔術、魔装、闘気、何でもあり、危険だと判断したら僕が必ず止めるから四人とも本気で戦うといいよ。ただしこのままじゃ戦いにならないから少しだけハンデを設けようか」
――ハンデ?
何故だろう……嫌な予感がする……。
「どんな手加減をすればいいんだ?」
レオが笑いながら、フェルトが一体どのようなハンデを設けられるのだろうかと、キッドさんを見つめ――
「魔装か闘気、使っていいのは何方かだけ、それにもし両方使わないで倒したら、カズくん達には何かもう一つご褒美をあげようかな?」
キッドさんはそう言った――
俺とアビに対して、キッドさんはハンデを要求してきた。
「――どう言うつもりだ⁈」
レオは激昂するように。
「――――ッ」
フェルトは何を言っているんだと、キッドさんを睨み。
「師範……?」
ユイは自身の師の言葉の意図が分からず。
三人がそれぞれキッドさんの真意を聞こうとする。
――が、三人の疑問に対してキッドさんは言葉を返す気はないらしく、俺とアビを交互に見て、無言で了承を求めてきた。
そんなキッドさんに対してアビは『――っは!』っと笑い。
「なぁキッドさん、スキルと魔術も使わないで勝ったらもっとご褒美くれんだよな?」
フェルトとレオを挑発するように、アビはそう言うと俺へ目配せを送ってきた。
――まったく。闘気と魔装を奪われた無力な俺が、レオとの戦いに勝てる確証なんてないのだが。
仕方ないなぁ――と、俺もアビの煽り言葉に乗っかるように笑い。
「そうそう。俺なんてスキルが元から使えないんですよ? 流石に何かご褒美あるんですよね?」
アビの煽りに手を貸した。
レオとフェルトが俺らを睨み、ユイが驚愕の表情を浮かべ。
キッドさんを見れば――
「いいよ。もし君らが身体能力だけで勝てたら」
「「――ッ」」
全身が痺れるような気迫に飲み込まれ。
「――僕と本気で戦う権利をあげるよ」
キッドさんの姿が、一瞬先生と重なって見えた。
侮っていたわけではないが、俺は――俺達は忘れていたのかもしれない。
この人は俺らの兄弟子である前に、先生と同じ十六天位。
世界で有数の絶対強者の一角なのだ。
俺とアビは笑っていた。
この人と戦えるその経験がいかに貴重であるか、それがわからないほど馬鹿ではない。
これでますます負けられなくなった。
もとより負けるつもりはないが――何としてでも勝たなければいけない。
「――パン!」
っと、キッドさんは手を叩いて、俺たちに聞いてくる。
「さぁ、初めはどっちからやる?」
アビを見れば『お前からやれよ』とでも言いたそうな顔を俺へと送ってきており。
そんなアビの様子に俺は笑って、仕方ないなと思いながら。
「それじゃ俺からで」
俺はキッドさんに返事を返し、認証盤を手首から外してアビに渡して立ち上がる。
「――カズ!」
試合を行うため道場の中心部へと移動しようとするとアビに呼び止められ。
何だろうと思い振り向いてみれば、アビはあの時と同じ――先生に初めて一撃を与えた真昼間の高原の時のように、俺へ自身の拳を突き出していた。
――たく、こいつは。
アビの笑い顔に、笑い顔を返しながら、突き出された拳に拳を突き出しながら。
「どうせやんなら――」
「ぶちのめす!」
俺は、自分の意志を口にした。
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読んでいただきありがとうございました。




