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後の悔い先に立たず  作者: 狸ノ腹
第二章 学園邂逅
33/46

【授業中の衝突】01

『災暦1496年12月6日』


 そろそろ時間かな?


 昼休みの終わりがけ、図書室前の廊下から聞こえてくる生徒達の声が小さくなるのを合図にして、俺は午後から行われる武術授業に向かうため、本を読むのを切りやめた。


「――ッん〜っと」


 背伸びをしてから立ち上がり、読んでいた本を本棚へと戻し。

 図書室から出るため、俺は廊下側の出入り口――ではなく、中庭側の窓に手を掛けて、窓枠を飛び越えて外へ出た。


 別に廊下から授業が行われる武道場へ向かってもいいのだが。

 武道場へ向かう道中には初等部の教室があり、そんな所を通れば騒がれるのは確実。

 無駄な騒ぎを起こさないために、俺は中庭から武道場へ向かうことにした。


 午後からの授業まであまり時間がないせいか、それとも外の寒さのためか、中庭に生徒は一人もおらず。


 ――ん?


 そのこともあって、こちらへと一直線に向かってくるユイの気配は鮮明に感じ取ることができた。

 立ち止まって後ろへ振り向くと、少し遠くから俺を呼び止めようとしているのだろうか、手を振りながら走り向かってくるユイの姿が視界に映り――


「体操服……?」


 こちらに向かってくるユイの服装を見て、俺はその姿を言葉で表した。


 あの格好は、キッドさんの趣向なのだろうか?


 こちらに向かってくるユイの服装は、座学を受ける時のブレザー姿ではなく。

 上は真っ白な厚手の長袖Tシャツに、下は濃い緑色のハーフパンツを履き、その格好は俺の知るところの体操服に酷似しているものだった。


 この世界の一般的な学生の制服姿など知らないので勝手な憶測だが、この学園の生徒達が着るブレザーや体操服姿からも、どうやらこの学園は異世界の影響を色濃く受けているのは間違いないらしく。

 別にそれが悪い事だと言いたいわけではないのだが――


「やっと見つけた! もう、どこに行っていたんですか⁉︎」

「いや、少し図書室に……」


 こんな間近で十代の、それも美人なユイを前にすると、どうしても何か悪い事をしているようなそんな気分になってしまう。


「図書室ですか?」

「ええ、少し読書を……」


 体操服のせいでいつも以上に体のラインが強調されるユイから視線を逸らすと、そんな俺の様子を見てユイは疑問の表情を浮かべて聞いてくる。


「どうかしたんですか?」

「いえ、その……」


 どう返事を返したら良いのやら……。


「その服装って、体操服ですよね?」

「そうですよ。もしかして人間の領地だと珍しかったですか?」

「いえ、そう言う訳じゃないんですけど……」


 やはり体操服という認識で合っているようだ。

 だからどうしたという話ではあるのだが……。


「その服装は、キッドさんの趣味なんですか?」

「えっと……この服装は賢国にある学園を参考にして師範達が考えた服装ではあるんですが……趣味?」


 まずった……。


 後先考えず思った事を言葉にした事で墓穴を掘ってしまったようだ。

 ユイは俺の『趣味』という言葉に引っ掛かりを感じ取ったようで。


「カズさん?」


 そう名前を呼びながら、ユイはわざわざ目を逸らしている俺の目線の前に移動すると。

 わざとらしく、萌え袖を作って肩あたりまで手をあげ。


「もしかして、体操服姿が好きなんですか?」


 あざとらしく、それでいてド直球に聞いてきた。


「…………」


 何と返事を返すべきなのだろうか……。

 どうやら俺は体操服姿が――と言うより、女性のスポーティーな、身軽な服装が好きなようだ。


 今思えば、確かにフィーの走る時の服装はいつも以上に魅力的に感じたし、そう考えればこそ、以前カナミが着ていた身軽な着物姿に魅力を感じたことにも説明がつく。


「――えっと、図星ですか?」

「そうみたいです――」


 隠していても仕方がないと思ったので素直に答える。

 そして、俺の返事を聞いたユイは『ほうほう』と、何度か頷くと。

 自身のTシャツのお腹あたりを掴み。


「露出はあった方が好きな感じですか?」


 ――と、聞きながら『――ッバ!』と、ハーフパンツにしまってあった自身のTシャツを出して、突然おへそを露出させた。


 ……この子は一体何をしているのだろう。


 急におへそを曝け出すユイには恥ずかしがる様子は一切なく、それどころか俺がどのような反応を返すのかと心待ちにしているようで。

 そんな俺の反応を心待ちにしているユイには申し訳ないが、突然目の前で行われた行為によって、先ほどまで感じていたはずのユイへの魅力を今は全く感じず。

 もう一度、捲り上げ、露になったその引き締まったお腹と可愛らしいおへそを見ても『エロい格好だな』とは思うが、それ以上の感想は特になく――とは言っても、相手が俺では無く、ユイと同級生の生徒であればこの小悪魔的行為によって一発KOは間違いなさそうで――――


 ……こんな事を心の中で語っているという時点で、俺は多少なりともユイの行動に動揺してはいるようだ……。


 ユイの顔を見れば『ふむふむ』と、俺の反応に頷き。

『露出は好きではないと――』なんて一人で呟きながら、先ほど出した自身のTシャツを再びズボンの中へとしまい。


「お見苦しいものをお見せしました」


 急にしおらしく謝ってきた。


「いや、俺は別に良いんですけど……刺激はそれなりに強いと思うので、今みたいなことは誰これ構わずやらない方がいいですよ?」

「嫌だなカズさん、誰これ構わずこんな事するはずないじゃないですか」


 ――じゃあやるなよ。

 と、俺は笑顔で言ってくるユイに声を出さず心の中でツッコミを入れ。


 これ以上の言葉を交わしてても、どこかで墓穴を掘りそんだと思った俺は、先ほどユイが俺を探していた理由を聞くことにした。


「それで、何か俺に用があったんじゃないんですか?」

「――っあ、そうですよ! 昼食の時に授業で使う道具の話をもう一度聞こうと思っていたのに、食堂でいくら待っても来ないんですもん。エリザ達と一緒に結構探したんですよ?」


 ああ、その事で探していたのか。

 確かに、朝は話の途中で食堂を出て行き、授業には出席していたが話すこともなく。

 個人的に武具の話は終わったと思っていたが、ユイ的には返答待ちの状態だったようだ。


「それはお手数をかけさせてしまったみたいですいません」


 正直、教室にいた時に聞くタイミングならあったとも思うが――

 俺が去った後、アビと何かあったのだろう。


 ここ最近のアビの様子は変だ。

 環境が変わったせいか、疲労が取れきっていないのが原因かなのか――

 どちらにしろ、俺の精神力の数値を知ったことが引き金になっているのは間違いないが。

 あれ以降――カナミの件と言い、アビが俺へ余計な気を使ってくるようになったのは明らかだ。


 そもそも朝の件も、アビは苛立ちからああいった暴挙に及んだように見せかけていたが、あの行動は彼奴なりに、周囲からなめられている俺の評価を改めさせようとしたが故の行動だったのだろう。

 さもなければあんな技術もない、力任せの単調な一撃をアビが放ってくるはずがない。

 ――まぁ、どのような意図があったにしろ、あれは暴挙でしかないのだが……。


「それで武具の用意ですが何が必要ですか? まだ始業時間まで数分あるので用意できますが」

「その件ですが、今日は一旦素手でやろうと思っているので武具は大丈夫です。色々気を使わせてしまってすいません」

「……いえ、大丈夫ならいいんですが……」


 何だろう? ユイから心配げな返事が返ってきた。


「何か心配ごとでも?」

「いえ、その……武術授業は上級生と合同なので……」

「フォンがいるから揉めそうだと?」

「いえ、まぁ……その可能性もありますが……」


 何だこの歯切れの悪さは――


「上級生に何か問題が?」

「上級生に問題がと言うより、上級生と問題があると言いますか……」


 ユイの反応からしてどうやら上級生との間に確執があるらしく。


「理由を聞いても?」


 そう聞いた俺の質問にユイは言っても良いのだろうかと、困った表情を浮かべながらも、その理由を話してくれる。


「……実は、三年前から学園では毎年四月に剣闘大会を、十月には十日間のダンジョン攻略の実地試験を高等部の合同試験として行っているのですが……今年私達二年は両方の総合平均順位で三年生を上回ってしまって……」

「軋轢ができたと?」


 ユイが俺の言葉を肯定するように頷いた。

 さすが学生とでも言うべきだろうか、軋轢の理由がしょうもなさすぎる……。


「四月の剣武大会が終わった時までは、まだ多少生徒間で揉める程度だったのですが、十月のダンジョン試験の結果で完全に敵視されるようになってしまい。今では下手に孤立してしまうと、三年の方にいびられてしまうんですよね、はは……」


 悲しげに苦笑するユイからは、何とか問題を解決しようと努力した苦労が窺えるが、話がそこで終わるということは、無駄骨だったということなのだろう。


 そもそもこの問題をユイが何とかしようとしているのが問題ではないかと思うが、担任がレオという時点で何かを期待するだけ無駄なようだ。


「そもそも武術授業で孤立するようなことがあるんですか?」

「はい……授業では剣術、槍術、弓術、柔術、魔術に、毎月各自が受けたい派閥に分かれて、武術顧問のレオ先生と副顧問のミチュア先生の監視の元、派閥ごとに多数決で選ばれた代表者の指導で打ち稽古や組み手を行うので――」

「その時に孤立するといびられるから――二年生は二年生同士でできるだけ集まると?」

「はい、その通りです。さすがに兄もこの状況は問題だと考えているようで、私とフォンの提案で、剣術と魔術は毎月交代制にしていますが、槍術と柔術は基本三年生が、弓術は二年生が今は独占している状態になっています」


 また面倒な……。


「キッドさんはこの事を知っているんですか?」

「ええ、師範には今の状況を伝えてはいますが、武術授業の顧問はレオ先生なので、問題や文句があればレオ先生に直接言いなさいと言われてしまって……」


 キッドさんがこのような状況を無意味に放置しているとは思えないが。


「――となると、今日の俺は三年の方にいびられるんでしょうね」


 派閥に分かれる際、素手で授業を受けようと思っている俺は柔術派閥に行くというわけで。

 それはつまり三年生が独占している派閥に、一応二年生という立場の俺が入るということになり。

 三年生の生徒達がユイの言うような幼稚な思考をしているのだとするのなら――

 きっと俺は三年生の生徒から、いびりという名の授業妨害を受けることになるのだろう。


 少なくともこの数日で、学園の生徒が俺達へどのような評価を下しているのかは把握した、それはアビも同じはずだ。

 アビはフォンに叱られ、自信を失い自室に閉じこもった弱虫。

 俺は弱々しい、戦神の弟子かも怪しいただの人間。

 そんな話が耳に届いたこともあって起きたのが今朝のアビの暴挙。

 戦神の弟子であり、キッドさんの弟弟子という名札をいくら付けているといっても、こんな評価の俺をきっと彼ら――三年生の生徒達は絶好の獲物として狙うはずだ。

 他者を貶めようとする奴らの思考など、性別や年齢それこそ種族すら関係なく似たようなものだ。


「今月は二年生が剣術の独占月です。師範からカズさんは剣術を学ぼうとしていると伺っていますし、今朝のことでカズさんの技量も把握しているのでどうでしょう、授業では剣術を受けてくれませんか?」


 俺の技量を把握しているか……。


 ユイはどうしても三年派閥へ行って欲しくないらしい。


「問題が起きて欲しくないと?」

「いえ、そう言う訳ではないのですが……」


 ――そう言う訳だという事のようだ。


 ユイは善い子だ――だが、こう何度も言葉を言い淀まれては話が一向に進まない。

 この際、ユイにははっきりと言っておくべきだろう。


「ユイさん、この際はっきり言わせてもらいますが、俺個人に遠慮や気遣いは必要ありません。なので言いたいことや聞きたいことがあるのならはっきりと言って欲しいです」

「……度々の失礼、申し訳ありません」


 俺の言葉にユイが頭を下げた。

 そして、頭を上げると。

 ユイはポケットから紺色の髪紐を取り出して、自分の長い髪を後ろで束ね。


「――ッパチ」


 っと、自身の頬を、気を引き締めるために叩いた。

 俺を見るユイの面持ちは真剣だ。


「師範からカズさんの能力値は聞いておりませんが、スキルと魔術を扱えない体質である事は伺っています」


 ユイが正直に話してくれる。


「朝食の際にカズさんが闘気と、宝珠の力とは言え魔装を習得なさっている事は把握しましたが、今朝話した通り、武術の授業では闘気と魔装の使用は禁止です。ですがCランク以下のスキルについては複数使用が認められています」

「なるほど――」


 となると、俺は他の生徒がスキルを使う中、この身一つで稽古するってわけだ。


「ちなみに柔術派閥にいる生徒の実力ってどの程度かわかりますか?」

「総合ランクなら多少は……」

「よければ教えてもらっても?」


 自分の能力値は言わないくせに他人のは聞くのか?

 ――と、咎められるかとも思ったが、そんな心配は必要なかったらしく。

 ユイが柔術派閥の実力を教えてくれる。


「柔術派閥の生徒は七名、その内三名は高等部の中でも十位台に入る成績ですので、能力値としてはC以上のはずです」


 Cランク以上と言うことは、あの時のシュウヤと同じくらいか――


 シュウヤとの試合を思い出す。

 あの頃の俺はまだ先生の元に弟子入りしたばかりで、訳もわからないまま無茶苦茶な条件を付けられ、半強制的にシュウヤと試合をさせられた。

 今は多少ましになったが、あの頃の俺は本当に弱かった。

 そんな俺を油断していたからこそ、試合始め俺はシュウヤに締め技を決めることができたわけだが、スキルを使われてからは圧倒され。

 先生が俺に飲ませた毒を経口摂取したシュウヤの自爆によって、結果的に試合そのものは俺の勝ちとなりはしたが、試合内容だけを見て言うのならあれは俺の完敗だった。


 あの頃から俺は成長したと思うが、シュウヤとは顔を合わせることはあっても、手合わせするような機会は訪れず。

 一体どの程度自分の力量が上がったのかを試す機会なんてこれまでなかった。


「彼らのスキルに関してまでは把握していないですが、それでも格闘術を得意としているので、強化系と打撃系統のスキルを保有しているはずです」


 シュウヤと同程度の相手が三名。

 ユイからの追加情報はありがたいが、一旦その話は頭の片隅に置いておき。

 今の話で俺が柔術から剣術派閥へ移行すると思っているユイには申し訳ないところではあるが、こんな絶好の機会を手放す理由もないだろう。

 なんせ、普段手合わせする相手はアビと先生の二人だけで、特にここ半年は闘気と魔装を常に纏った状態での戦闘だった。


 柔術というのも都合がいい。

 先生に『今のお前に教えることはもうないよ』などと言われ、刀を振り続けて二ヶ月ほど経ったが、元々俺は柔術寄りの戦闘を得意としている。

 先生の元で培った力を……まぁ、一方的に虐殺されただけだが、その真価がやっと試せるのだと思うと、幼稚ないびりなどたかが知れてお釣りが出る。


 相手は十八歳の学生で多少気が引ける気持ちもあるが、相手が俺をいびろうと――いじめようと考えているのならおあいこだろう。


「あの……カズさん?」

「ああ、すいません少し考え事を、それとユイさんには悪いんですが、やっぱり俺は柔術派閥に今回は行こうと思います」

「本気ですか……?」

「ええ、本気です。剣術よりも柔術の方が得意ですし、一方的にやられはしないと思うので、そこは安心してください」

「……わかりました。カズさんがそう言うならこれ以上は止めません。ただ、もしも危険だと判断した場合は迷わず私を呼んでください」

「――わかりました。もし自分自身が危ないと思ったら、ユイさんを呼ぶと約束します」


 嘘一つない俺の心からの言葉に、ユイは頷きを返してくれる。

 死なない俺に危険などあるわけがないのだが、嘘は言ってないので許してほしい。


「ゴォーン、ゴォーン、ゴォーン――――」


 午後一時の――昼休みが終わる五分前の鐘の音が鳴る。


「始業時間まであまり時間がありませんので、少し急いで向かいましょう――」


 鐘の音が鳴り終えると、ユイは小走りに走り出し、俺もその後ろをついていきながら。


 やっぱり、俺は身軽な服装が好きなんだろうな。

 ――と、ユイのその後ろ姿を見て、俺は再度自分の趣向を自覚するのだった。


意見大歓迎です、評価も待ってます!

誤字脱字わからない表現があれば教えてください。

読んでいただきありがとうございました。

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