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後の悔い先に立たず  作者: 狸ノ腹
第二章 学園邂逅
32/46

【授業前の衝突】03

●○●○●○


「行っちまったな」

「「…………」」


 カズが立ち去ったことを再確認するアビの言葉に、ユイとエリザは無言の返事を返すことしかできず。

 いつもであれば誰よりも早く立ち去るはずのアビが、いつまで経っても席を立たない様子に、二人は――特にユイは、焦りを感じていた。


 アビと直々に話す機会など今まで一度としてなく。

 強いて言えば初対面の時だが、その時も会話の余地があったとは言えなかった。

 だと言うのに――

 今、アビは何か用があり気に、机の上で頬杖をつきながら、ユイを興味なさ気に眺めていた。

 浮かぶのは先ほどの常軌を逸した瞬きの出来事、その原因となったカズへの失言。


「私の軽率な発言、本当に申し訳ありませんでした」


 叱責覚悟で、ユイはアビに謝罪した。

 がーー


「ああ、んなこたぁ別にもうどうでもいいさ」


 返ってきたのは、もうその話は終わったとでも言うようなアビの言葉。


「……それでは、何か別のお話があるのでしょうか?」

「まぁ、そうだな――」


 ユイの言葉に、アビは視線をユイからエリザへと移すと、本題を切りだず。


「お前はカズと、実際問題どうなりたいんだ?」

「――っわ、私ですか⁈」


 突然自分へと向いたアビからの言葉に、エリザは驚きの声をあげた。

 ただ、驚きの声を上げた理由は、アビが自分に質問してきたからではなく――その質問の意味を理解したが故だ。


「告白もしてたし、本気でカズのことが好きなんだろ? だったら、お前は今後彼奴とどうなりたいんだよ?」

「どう、なりたいか――」


 顔を赤くさせて何かを想像しているエリザの様子とは対照的に、ユイは急なアビの質問の意図がわからず戸惑っていたが。

 エリザが何か言おうとしているのを見て、ユイはこの場の成り行きを見守ることにする。


「私は、その……カズさんと、できるなら……できることならカズさんとお付き合いをして……」

「――して?」

「その……」

「恥ずかしい事じゃねぇだろ、はっきり言え!」

「――幸せな家庭を作りたいです!」


 アビの怒号にエリザが咄嗟に、それでも胸のうちの本心を声に出した。


「彼奴のどこに惚れたんだ?」

「それは、優しいところと……」

「ところと?」

「……私を助けてくれたカズさんが、あの時の私には輝いて見えたんです……」


 そこまで言うと、エリザは目元から涙を溢れ出させた。


「アビさん、もうその辺で――」

「わぁーてるわぁーてる、ただ確認のためにな」


 一体何の確認なのかと、ユイは聞こうと思ったが――

 エリザが泣いているのを見ていられず。ユイはエリザの背中に手を回し『大丈夫?』と、言葉をかけて、エリザを落ち着かせることを優先した。


「はぁ……」


 エリザの涙に収まりが見えてくるとアビが短く息を吐き。


「カズの話、お前は聞きたいか?」

「「――――」」


 今までの苛立ったような、面倒そうな態度とは程遠いアビのその真剣な面持ちに、二人は同時に息を呑み、その話の内容が良いものではないことを察した。


「何故急にそんな話を……そもそも話されても大丈夫なんですか?」

「別に、問題ねぇよ。俺が知ってる内容なんて彼奴に聞けば教えてくれる内容だしな……。ただ、お前らが聞くとその時の場の空気が壊れそうだから、その前に話しといた方がいいと思っただけさ。それに――」


 アビはエリザをまっすぐ見つめ。


「俺らはお前の昔の話を聞いちまったし、色恋したいならまずはそこを清算する必要があんだろ? 聞きたくないならこの話はここで終わるが、どうする? お前が決めろ」


 アビの言葉にエリザは戸惑い、ユイを見る。

 

「ユイさん……私の話って、どこまで話したの……?」

「ごめんなさい。私が知っている事は全て話しました」

「そっか――」


 ユイの告白にエリザは弱々しく、悲しそうに微笑んだ。


 知られたくはなかったのだろう。

 特に自分の好きな相手にはなおさら。

 悔しい思いと悲しい思いが入り混じり、エリザは目元に再び涙を浮かばせ。

 このまま泣いてしまうのだろうと、ユイとアビが思った――が。


「カズさんのことを、私は知りたいです!」


 エリザは決心したように、覚悟を持ってアビにそう返事を返した。


 そんなエリザの様子にユイが、アビは驚きつつも、その感情を表情に出すことはなく。


「お前らが、俺らをどの程度キッドさんから聞いてんしらねぇし、あんだけ言っといて、俺もカズの全部を知ってるわけじゃねぇからその上で話は聞いとけよ」

「はい――」


 と、エリザが返事を返し、ユイが無言で頷くと。

 そんな二人の目を一度見てから、アビはカズの過去について、自身が知っていることを話し始めた。


「カズはそもそも異世界からの転移者――異世界人だ」

「そうだったんだ……」

「ああ――」


 エリザの驚きにアビが頷く。


「カズがこの世界に来たのは二年前、お前を助けた時もまだこの世界に来て半年も経ってない頃だったはずだ。そん時の彼奴の精神状態がどうかはわかんねぇが、この世界に来たばかりの彼奴は精神的に相当参ってたらしい」

「カズさんがですか?」


 ユイがアビの言葉に困惑する。


「ただその理由までは俺もあんま聞いてねぇんだ。先生に聞いた話じゃ、相当の期間拷問を受けてたらしい」


 アビの口から先生と言う言葉が出たが、ユイはそれが戦神の事なのだろうと思いつつ。


「それは、カズさんが異世界で拷問を受けていたってことですか? 一体何故?」

「だから理由まではしらねぇって、それに今の彼奴はその過去について何も……じゃぁないだろうが、特にどうとも思ってねぇ」


 そんな事はないはずだ――そうユイは言おうと思い、言うのをやめて口を閉ざした。

 数日程度の拷問ならば数ヶ月の療養で精神状態は安定するが、長期的な拷問を加えられていた場合、そのトラウマから抜け出すには相応の期間を必要とする。


 今は精神状態が安定しているエリザであっても、定期的に過去の記憶から心身に支障をきたすことはあり。それはエリザだけでなく、そんな過去があるこの学園の生徒にはよく見られる症状だった。

 だからこそ、ユイはカズの過去を――アビは本当に把握しているわけではなく、多少大袈裟に説明しているのだろうと考え。


 そうユイが解釈する様子を見て、アビも話を続けていく。


「精神的に参ってた彼奴を救った女がいたんだ」


 エリザとユイが何かを言いたそうに、聞きたそうにしていたがアビは言葉を止めず。


「カズはその女に惚れて、お互い両思いだった二人は出会って半年も経たないうちに婚約した。カズがお前を助ける少し前の話だ」

「婚約……」


 カズが婚約していたことを知ったエリザが、肩を落とし『そっか――』と、自分を納得させるために諦めの微笑みを浮かべ。


「話は最後まで聞け――」


 と言いながら、少しだけ目を鋭くしてアビはエリザを睨んだ。


「さっきので、本領まではわからねぇだろうが彼奴が強いのはわかったはずだ。つっても、彼奴が強くなったのはここ一年での話で……」


 アビは少しだけ言葉を詰まらせながら、言葉を選びながら。


「戦神の弟子になる前の彼奴は相当に弱くて……その弱さのせいで、彼奴は自分を救ってくれた最愛の女性を失ったそうだ」

「そんな――」


 カズの過去にユイが驚き、エリザは言葉を失った。


「よくある話だ。ただ、彼奴はその過去に囚われてる」


 そう言いながら、アビはエリザを再び見つめ。


「カズは今でも死んだ女を思い続けてるし、今後彼奴が生き続ける限りその思いは消えない」

「……アビさんは、エリザにカズさんを諦めろと言いたいんですか?」


 アビが首を横に振る。


「逆だ――カズが好きなら、彼奴のその気持ちを知った上で向き合えよって言ってんだ。彼奴の隣にお前が居ようが――誰が居ようが正直俺はどうでもいい。まぁ、俺の義理の妹もカズが好きらしいから、一応そっちの応援をするつもりだがな」

「――え⁉︎ リエラに妹がいたんですか⁈」


 ユイが先ほどまでとは違った驚きの声をあげ、まるでアビと関わり深いと言いたげに――リエラと言う名を口にした。


「リエラ……?」


 ただ、当のアビはその名に覚えはないようで、一体何の話だと言いたげにユイへ視線を向けると、ユイの方も困惑したような表情を浮かべ。


「リエラ・カルラ――貴方の許嫁のリエラです……」


 その人物が何者なのかを、誰よりも知るはずのアビにユイは説明した。

 が――


「何の話だ?」


 アビはユイの説明に対して、理解が――当事者であるはずなのに、何を言っているのか訳がわからず。


「カルラ――国にそんな名前の貴族が居たな?」


 自問自答しながら、ユイに問いかけるようにその名を呟き。

 ユイの瞳が一瞬動揺する様子から。


「――お前ら、俺を知ってんな?」


 確信を持ってアビは二人にそう言った。


 言葉の意味が、戦神の弟子を指しているわけではないというのを、今の会話の流れからエリザも理解して戸惑い。

 すでに言い訳や誤魔化しでは言い逃れられないことを悟ったユイは小さく頷きを返した。


「はい――賢王様のご子息であるアビさんのことは、戦神様の弟子だと師範に伺う以前より、旧友であるリエラから何度も聞いておりました」


 ユイの告白にアビは苛立ちの感情を覗かせる。


「申し訳ありません――」

「合点がいったぜ――お前ら俺を知ってたから、毎度怯えてやがったのか」

「返す言葉もございません……」


 言い訳などできるわけがない。

 アビの言う『お前ら』の中には、ユイとエリザはもちろん、今ここに居ないリーナやメイも含まれ――きっと、この学園の生徒達も含まれている。

 その原因を作ってしまったのはユイ自身だ。

 アビの素性についてできる限り内密に、と言われていたにも関わらず、ユイはエリザ達にアビの正体を話し――あの時は、それが最善であると判断したが、結果的に今、それが最悪な結果を招いてしまった。


 カズについて質問したいことがいくつもあるはずのエリザに――不快な思いをさせてしまったアビに申し訳ないと思いながら、ユイは自責の念に顔をうつむかせ。

 勇気を出してと言うように、エリザがアビに言葉をかける。


「あ、あの……」

「何だよ?」


 こんな状況の中いったい自分に何を聞こうとしてるのだと、アビは苛立ちのままエリザを睨み。


「カズさんのことを教えてくれてありがとうございました――」


 エリザが深々と頭を下げてきた様子を見て『はぁ……』と、アビは息を吐いた。


「別にいいさこんぐらい」


 純粋なエリザからの礼に、複雑な心境になりながらアビは言葉を返し、頭をうつむかせるユイへと視線を向ける。


「お前もいつまでも頭下げてんな、俺が悪りぃみたいだろうが――」

「はい……」


 アビの言葉にユイは頭を上げアビへ顔を向けた。

 だが、その視線は罪悪感からか、アビと目を合わせることまではできず。

 アビも、そんなユイと目を合わせる気はさらさら無いようで――


 一拍の間を経た後、先ほどのユイの言葉を訂正するためアビが先に口を開いた。


「一応言っとくが、俺はリエラなんて名前の奴のことなんざ知らねぇし、そんな奴が許嫁だなんて聞いたこともねぇからな」

「――そんな。それじゃあ、義理の妹というのは……」

「んなもん。俺の好きな女の妹のことに決まってんだろ?」

「そう、ですか……」


 苛立ちを隠そうとしないアビの様子にユイはこれ以上、この事柄について追求することもできず。


 もうこれで話は終わりだと言いたげに、アビは自分の食べ終えた食器が乗るお盆を手に取って立ち上がり。

 立ち去る前に、最後に忠告とでも言うように。


「カズが優しいってのは確かにその通りだと思うぜ。――でもな、彼奴が優しいのは友好的な奴だけだってことは覚えとけよ」


 そんなの当たり前のことでは? と、エリザは思い。

 この空気に押しつぶされそうなユイも同様の思いではあったが――

 それでも何か意味がありそうなアビの去り際の言葉にエリザは頭を深く下げ。


「お話ありがとうございました」


 去って行くアビの背中に再度お礼を伝えるのであった。


 食堂からアビが出ていくのを確認したユイが、エリザに対して頭を下げる。


「本当だったらカズさんについて、もう少し話を聞けたはずなのに――それに、あなたの過去を勝手に話してしまってごめんなさい……」

「ううん、大丈夫だよ。黙っててもいつかは知られちゃうかもしれない話だし、知られたんだって思うと少し悲しいけど、でもそのおかげで少しでもカズさんのことしれたんだもん。だから大丈夫だよ」

「エリザ……」


 想い人であったカズと再開した影響なのだろう。

 今までのエリザからは考えられないその気丈さに、ユイは心の底から驚き。


「私のことよりも、ユイさんは大丈夫?」

「ええ、色々と師範に言わないといけないし、怒られそうではあるけど――大丈夫。自分の責任は自分で何とかしなきゃね!」


 エリザの気丈な態度に、自分もしっかりしなければとユイは微笑み。

 疑問も不安も未だ山積みではあったけれど、その全てをひっくるめ、前向きに考える事にしたのだった。


意見大歓迎です、評価も待ってます!

誤字脱字わからない表現があれば教えてください。

読んでいただきありがとうございました。

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